ブンデスリーガ第7節、マインツ対バイエルン。バイエルンがよほどの不調に見舞われていたり、シーズン終盤の消化試合でなければ、結果の予想は難しくない試合だ。しかもマインツは中2日で、バイエルンは中3日。3−0でバイエルンの勝利というのはなんの驚きもない結果だが、90分の中にストーリーがなかったわけではない。

 前半、善戦したのはマインツだった。内から外から、遠目から、至近距離から、あらゆるところから縦横無尽に攻めてくるバイエルンに対し、高い集中で守り切った。1トップの武藤嘉紀の追い込みに始まり、最終ラインGKまで、連係は徹底していた。

 20分にはバイエルンのミュラーがPKを失敗。するとマインツは27分、前半最大のチャンスを迎えた。左サイドをデブラシスが突破、グラウンダーでゴール前に入れたパスは相手ディフェンスに当たる。こぼれ球に反応した武藤はワンタッチで密集から抜け出しシュート。「狙いすぎた」というシュートは枠の左にそれた。

 両チームの違いがはっきり出たのは0−0で迎えたハーフタイムだった。前半からずっと、グアルディオラは感情的に怒鳴り続けているように見えた。ハーフタイムは選手というより指揮官の頭を冷やすためにあるのではないか、と言いたくなるような怒りっぷりだった。

 一方、マインツには健闘を称え合うムードがあった。ロッカールームに戻る前には、ベンチ脇の通路にいったん11人が集合して、同時にロッカールームに入るのだが、指揮官も選手たちも、疲れてはいるがどこか満足げな様子で、穏やかにロッカーに消えた。だが、満足するには少し早かった。

 後半になるとバイエルンはギアを入れ換えた。51分にはレバンドフスキが右クロスを頭で合わせ先制。その8分後にはまたもレバンドフスキが追加点をあげた。前半のPK失敗など、試合には関係なかった。0−0の前半をどう捉えるか。両チームの捉え方の差が、後半に如実に出たというわけだ。

 武藤に関していえば、完全に1トップでの定位置を確保したと言っていい。この日もフル出場し、特に前線からの追い込みで存在感を発揮した。「中距離のスピードも速い」とシュミット監督が言うとおり、攻撃でのゴール前での爆発力だけでなく、プレスのスピードも速く、しかも試合終盤までスピードが落ちないから、相手にとっては相当イヤなはずだ。

 ただこの日のように、自身もチームも救う本当に決定的なチャンスを決めることが、1トップとして最大の仕事であるのも確かだ。

「やはり駆け引きのところ、ディフェンスの逆を突くような動きだったり、裏に行くと見せかけて足元というのだったり、そういうのをもっと磨いていかないといけないですし、ワンチャンスを決め切る力というのが自分に必要なのかなと思います」

 1トップの仕事。もちろんそれは武藤も自覚していた。試合後、武藤は天をあおぎ、時々立ち止まりながら悔しげに引き上げた。試合直後の取材では「力の差を見せつけられた」と話したが、表情は淡々としたものだった。妙に落ち着いた様子で、笑みさえ浮かべているように見えた。すがすがしいほど圧倒的な力の差を感じたのか。それとも90分の間に何か手応えがあったのか。

了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko