ラグビーW杯で南アフリカに勝利した日本代表が、様々に例えられている。自分にとって身近なサッカーで考えると、日本代表がFIFAランキングでトップ5の国に、アウェイで10対0くらいで勝ったようなものだろうか。あるいは、超満員のカンプ・ノウでバルサに、超満員のアリアンツ・アレナでバイエルンに、10対0で勝つようなものだろうか。代表とクラブの真剣勝負は成立しないが、まあとにかく、すごいことをやってのけたのは間違いない。
 
 世紀のアップセットと呼ばれた一戦にも、もちろん理由がある。南ア戦の勝利が様々に例えられたように、理由もまたひとつではないだろう。はっきりしていることがあるとすれば、恐ろしく膨大な練習量が土台となっていることだ。チームとしてはもちろん代表選手個人が積み上げていった鍛錬の時間が、勝利を引き寄せたのだと思う。
 
 ひるがえって、U−22日本代表である。
 
 来年1月にリオ五輪最終予選を控えるチームが、9月23日にJ3リーグに登場した。手倉森誠監督が初めて指揮を取り、メンバーもU−22日本代表の主力で固めた。レギュラーで招集されなかったのは、日本代表選出でスケジュールがハードになっているキャプテンの遠藤航と、ケガを抱えている鈴木武蔵くらいである。同じ日にJ2リーグが行われたため、鈴木はコンディションが万全でも招集できなかったはずだが。
 
 チームは7月にU−22コスタリカとテストマッチを消化し、8月には京都でミニキャンプを張った。限られた時間ではあるものの、一か月に一度のペースで強化を図っている。だが、前進しているとは言い難い。FC町田ゼルビアと対戦したJ3リーグも、ほとんどチャンスを作れずに0対1で敗れた。

 相馬直樹監督が率いるゼルビアは、J3で2位につけている。負けられない勝負を続けている彼らの闘志が、U−22日本代表を上回ったと言うことはできる。
  
 U−22日本代表は、リーグ戦の合間を縫った集合だった。選手によっては出場時間に制限が加えられていた。GKを除く4人の控え選手を後半開始から起用したことで、手倉森監督は選手交代で試合の流れを変えることができなかった。指揮官にできたのは、0対1の終盤にセンターバックの植田直道を最前線へ上げ、パワープレーを仕掛けることぐらいだった。
 
 ベンチワークを取り除かれた展開での完敗は、はからずも、チームの現在地を映し出していただろう。積み上げてきたものを、感じることはできなかった。前回までの復習に精いっぱいで、新しい課題に取り組むことができないといった状況である。
ダブルボランチのひとりに遠藤が加われば、少しはゲームが変わったかもしれない。ただ、彼にしても別次元の選手ではない。ディフェンスに落ち着きをもたらすことはできるが、ゲームの色合いを劇的に変えるタレントではないのだ。
 
 U−22日本代表は、来月もミニキャンプを行う。12月には最終予選を戦うカタールでキャンプを張り、帰国後も引き続き最終調整を進める。
 
 一見するとスケジュールは埋まっているが、果たしてこれで十分だろうか。

 危険信号が灯っている、と感じる。何よりも危ういと感じるのは、最終予選突破が決して簡単ではないとの認識が、サッカー界全体に広がっていないことだ。所属クラブで定位置をつかんでいる選手は、依然として少ない。前回予選に比べると、とりわけ2列目から前線に大きな不安がある。欧州でプレーする久保裕也と南野拓実が頼り、という状況だ。
 
 セントラル開催の予選は、ホーム&アウェイとはまったく違う。そうした意識もまた、浸透しているとは言い難い。
 
 新しい強化スケジュールをこれから確保するのは、現実的に難しいだろう。だからもう、できることはない──そうやって割り切っていいものだろうか。無関心という無責任な空気が、U−22日本代表の頭上を覆いつつある気がする。
 
 南アを下したラグビーの日本代表のように、結果を出したあとに称賛されるのはまだいい。しかし、結果が出なかったあとに批判するのは、何ももたらしてくれないと思うのである。