上越高等学校(新潟)

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 日本国内でも有数の豪雪地として知られる上越市。この市街地に校舎を構える上越は、近年新潟の高校野球を盛り上げている。2012年春に創部初のベスト8を記録すると、昨年夏は下級生主体のチームながら、エース・前川 哲(現新潟アルビレックスBC)を擁する第3シード・新潟産大附を倒しベスト16。

昨秋も敗れたものの絶対王者日本文理を後一歩まで追い詰め、今春にはその日本文理にリベンジを見事に果たし、創部以来の最高成績のベスト4という好成績を収めた。創部以来なかなか勝てなかった時期を乗り越え、県内でも注目される強豪に成長させたのは、今年就任25年目を迎える川田 淳監督。大会直前の6月下旬に同校に伺い、甲子園を見据える同校の強さの秘密に迫った。

まずは、心を安定させよう

練習風景(上越高等学校)

 昨秋がベスト16、今春がベスト4と着実にチーム力を付けている上越だが、野球部に入部するとまず教えられることがあるという。それは、技術よりも大切なことだという。

「私がいつも言っているのは、『心を安定させよう』ということ。そうでないと、カッとしたり、イライラしたり、心が苦しくなっちゃいますよね。そんな状態で自分の最高のパフォーマンスが出せるのかと言われたら出せない。自分たちがいいパフォーマンスをするには、心を乱さないようにいかに安定させられるか。そのためには日頃の生活もどう過ごすかなんですね。練習着やユニフォームを着ているときよりも、制服や私服を着ている時に本当の自分が出る。

だからこそ、そういう時によそ行きの自分じゃだめ。練習着やユニフォームの時は一生懸命練習するけど、私生活にいい加減だったらそれはグラウンドで必ず出る。しっかり自分を磨くことをしていかないといけないよって代々言っています。もう一つは、人間には必ず『岐路』がある。そのときにつらい方を選びなさいって話をするんです。そうすることでなにか違うものが見えてくるかもしれないよと。私自身も、練習試合とか見ていて『こんなところでミスして!』と思うことがある。そういうときに“ドカーン”と怒るのは簡単だと思うんです。それを自分の中でも違うアプローチの仕方をやるようにしています。これも私なりに難しい方を選んでいるんですよ(笑)」(川田監督)

 野球の技術以上に大切な心を育むこと。だが、多感な高校生にそれを言って聞かせるのはなかなか難しい。川田監督は、それを選手にどう伝えるのかもしっかり考えている。「たえず声を掛けるのが基本ですね。例えば前日の試合にのプレーについて、『昨日のあの時ってどうだったんや?』とか。『今日どうや?』『昨日よりいい表情してるやん』とか、単純な一言なんですけど、子どもたちの意見を聞いて、コミュニケーションを取ります。よく“今の子どもたちはコミュニケーション能力がない”なんてと言われてますが、あれは子どもたちに能力がないわけではないんです。私たち大人が能力を引き出せていないだけだと思うんです。それは野球にも言える。中学から入部してくる子どもたちって、どの子もそれぞれいいものを持っていると思うんです。それを光らせることができるかどうか。輝かせることができるかどうか。それは私たちの手腕というか大切な部分だと思うんですよね」(川田監督)

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[page_break:秋の敗戦を糧に]秋の敗戦を糧に

トレーニングの様子(上越高等学校)

 練習を見ると、レギュラー陣から1年生までくまなく話し掛け、時に厳しく、時に仲良くじゃれあったり、笑い合う監督の姿が見受けられた。選手の監督への信頼は厚さは、主将の山沖 将太(3年)、エースの飯塚 亜希彦(3年)の話からもよく分かる。

「中学のころから、川田監督がすごくいい監督だと聞いていたので一緒に野球がやりたいと思って入学しました。軟式から硬式にかわって、中学では通用したことが高校では通用しなくて、苦悩したこともありました。でも監督は、例えば練習中もエラーしても、『答え』ではなく『ヒント』をくださるんです。だから自分たちで気付くことが出来る。何がダメだったんだろうと。

考えながらやることは難しいです。でも監督からは『高校野球のプロを目指していこう』と言われています。それに応えたくて、今のレベルよりも高いところを目指しています。こういう技術面だけでなく、1日1日を練習とか日常生活の過ごし方を教えていただいて、人間性を高めていただいて、野球以外の部分も成長させてもらいました。川田監督に出会って人生がかわりましたね。」(山沖)

飯塚もまた、川田監督について、「熱心に教えてくれますし、面倒見がいいんです(笑)。誰かが不調だったりすると、すぐに話しかけて、少しでも立ち直るきっかけを作ってくれたりするんです。本当にいい監督です」(飯塚)

そんな上越にとって、現チームが飛躍するキッカケとなったゲームがあった。昨秋の準々決勝の日本文理戦(試合レポート)。7回までエース・飯塚が日本文理打線を完璧に抑えていたが、8回に逆転され、惜敗した試合だ。

「昨秋の日本文理戦は大きかったですね。負けて得るものはないのかもしれませんが、あの時の悔しさは子どもたちの中にすごく残ったと思います。でもあの試合、飯塚がすごくいい出来だったんですけど、キャッチャーの細川 拳宝(3年)もよかった。声掛けをしたり、飯塚をいかに乗せていい球を放らせようか一球一球考えていたんです。逆転された8回ですけど、実はその直前の攻撃で飯塚が三塁打を打ったんでけど、次の打者がスクイズを失敗した。そういうところに勝負の綾があったのかなと。山沖がスクイズを失敗したんですけど、すごくぎこちなく固かったんです。練習の時とは違った。ドキドキしたんでしょうね。あそこでスクイズのサインを出した私が悪いんです。もっとあの子が良いパフォーマンスができるようなそんなサインを出してあげればよかったと思います」(川田監督)

山沖はこう振り返る。「飯塚もすごくいいピッチングをしていて、守備も粘り強く守ってくれていたんですけど。自分がスクイズを失敗してしまって。日本文理をあそこまで追い詰めたんですけど、あのプレーで流れが変わって、結局負けてしまって、勝ち切れなかった自分への悔しさもあり、チームとしてもそこで誰かのミスを補えなかったんですよね。でもあの敗戦が大きな起点になりましたね」(山沖)

飯塚本人はこう語った。「7回までのピッチングはたまたまです(笑)。ただボールを低めに集められていたので、大きいのを打たれてもフライになっていました。自分としては打たせることができたかなと思います。『日本文理』という名前に負けないようにしてましたね。点を取られた8回はスタミナだなと思いました。そこからやっぱり甘い球がいき始めたので。反省点、課題が見えた試合だったんで、それはそれで良かったかなと」(飯塚)

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[page_break:夏へ向けた選手たちの思い]夏へ向けた選手たちの思い

ミーティング風景(上越高等学校)

 言って聞かせるよりも、1つの挫折がチームを変える。川田監督は、大会後、チームの様子が変わるのを間近で感じた。

「もちろんまだ甘い部分もあるんですが、スタメンで出ていた子どもたちが、率先して道具を出したり、グラウンド整備をしたり、裏方の仕事を自分たちでやるようになってたんです。『眼の色が変わった』のかもしれないですね。当たり前ですけど、ゴミが落ちてたら拾う、ちょっとした空き時間があれば、人が気付かないようなところの掃除をする。選手・マネージャーが練習後にトイレ掃除をしたりするようになったんですね。そうすると、いろんなものが見えてきて、“気付く力”が養える。秋の敗戦をきっかけに、もっと目が行き届くようになってきた。それが今回の春につながっていたのかなと思います」(川田監督)

「あの敗戦の後は、自分たちの力のなさを感じたので、何をやらないと行けないのか選手で話して、しっかり自分たちで考えてやってきました。今の3年生は自分たちが何をやらないと行けないのかすごく考える選手が多くて、自分も信頼しています。何よりも秋の大会が終わった後の練習中も、納得いかないプレーがあったらすぐに集まって意見出し合ったりとか、そういうところが変わったと思います」(山沖)

 冬場はその悔しさを胸に、選手が自ら厳しい練習を自分たちに課した。そしてその成果は春の大会で日本文理を敗ってベスト4という結果に表れた(試合レポート)。

「選手には『やってきた以上のことは出来ないわけだから、いかに自分たちがやってきたことを、その瞬間に発揮できるか』だと話していたのですが、そういう意味では日本文理戦は、普段通り心を安定させて、よくやったと思います」(川田監督)

飯塚は、日本文理戦について、こう語る。「日本文理戦は意識しました。冬場は日本文理の打者とか中越の打者を想定しながら、練習してたので。試合前に、5点以内に粘り強く抑えていこうという話をしていて。野手がそれ以上取るからって。だから初回の5点ですごく楽になりました。その次の新発田農戦でも終盤まで集中力を切らさずに低めに投げることができたので。そこは去年の秋から成長した点かなと思います。ただその後の2試合は、不本意でした。投げたくても体がついてこなくて・・・。でも夏に向けて状態が上がっています」

また、山沖は、「日本文理戦もそうなんですけど、準々決勝の新発田農戦も、ノーエラーでしっかり守って延長で勝てたんですね。部員全員の平常心を持って、集中力を切らせなかったのが良かったと思います。ただ県ベスト4のうれしさよりも、準決勝の新潟県央工戦の大敗が大きかった。2番手投手、守備の乱れ、力のなさを痛感しました。自分は県内で唯一、春2回負けている(準決勝、順位決定戦)主将なので。もう1回自分たちが何をやりたいのか、しっかり1人1人が見直して、夏を見据えて練習をしています」

 実績を残し、いよいよ迎える夏の大会。目標はもちろん、甲子園だ。「とりあえずエコスタに行って、甲子園ですね。対戦相手は余り意識せずに、目の前の試合をしっかり戦って、しっかり勝っていきたい。自分が0点に抑えて、味方に取ってもらいます」(飯塚)

「チームの仲間たちがいたから、自分もここまで成長できたと思っています。全員で作れたチームで、甲子園出場が目標ですが、まずはることをしっかりやって目の前の一戦一戦を勝つ。一戦必勝で新潟の頂点目指して頑張ります」(山沖)

「どこの高校が来ても気を引き締めていかないといけないですね。子どもたちにも言うんですが、目の前の試合をしっかり考える。先は見ない。目標はもちろん、甲子園です。子どもたちが、今出せる最高のパフォーマンスを表現できるように、アシストしたいと思います」(川田監督)

上越の夏の初戦は13日。まずは初戦を大事に。そして初の甲子園出場を狙う。

(取材・文=編集部)

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