ポンチ軒のミンチコロッケ&メンチカツの定食。何もつけなくても美味! なめらかで力強い味わい。ご飯、豚汁に昼はキムチ付き。キャベツのお代わり無料。

写真拡大

午後の活力を養う昼食選びにおいて、欠かせないのが揚げ物。なかでもコロッケはニクニクしていない分、財布にやさしく、じゃがいも効果で腹持ちも良し。コロッケこそランチで最も頼れる存在、といっても過言ではない。

その素晴らしさを検証したいとまず訪れたのは、東京・小川町の「ポンチ軒」。

粗めの衣が花開き、見た目は剛の者を思わせる。だが、勢いよく衣を攻めた箸が、すうっと奥に吸い込まれるような感覚にとまどった。手荒にしてごめんなさい、と謝りたくなるほど、ふわふわ&柔らかではないか。なのに、割れ目からは力強い風味が香り立つ。

口に入れればとろ〜りなめらかクリーミーで、味わい濃厚なディープインパクト。ジュワジュワジューシーなメンチカツとも相まって、極めて満足度が高い一皿である。

じゃがいもはメークインを使い、炒めた豚挽き肉、玉ねぎと混ぜ合わせる。店長の橋本正幸さん曰く、それ以外のレシピは秘密だが、ふんわり感を保つため、なんと10分ほどかけて弱火でじっくり揚げるとのこと。最後に強火で仕上げ、衣はサックリ、油の重みを感じさせない。

対して、まるで少女のごとき可憐さで魅せてくれるのが、人形町「そよいち」のコロッケ。きめ細やかな衣に覆われて見目麗しく、割れば“インカのめざめ”の黄色が、愛らしく顔をのぞかせる。ほかに具に使われるのは、炒めた玉ねぎだけ。味つけも塩胡椒のみと、実に潔い。

それだけなのに、はふ〜とため息がもれるほど、深い甘味が詰まっている。程よく芋の塊が残った、ほっこりの食感もまた好ましい。

「やっぱりラードで揚げるのが一番の秘訣。おいしくて、しかもからりと仕上がる」と言う女将・石井明美さんの言葉通り、衣はサックリさくさく軽快だが、微かなコクに彩られている。

お腹は既にいっぱいだってのに、気持ちの良い味の名残に誘われ、さらなる欲望が込み上げてきて……ええい、追加でもう一軒いっちゃえ!

■香ばしいコロッケの中から、老舗の矜持があふれ出す

感慨をさらに重ねたのは、浅草の「気賀亭」。大正7年創業の老舗。専門はとんかつながら、コロッケとメンチカツを合わせた“メンコロ定食”も高い人気を誇っている。「コロッケ屋さん」と呼ぶ常連さんもいるほどだ。

運ばれた皿は、大人のこぶし大はあるメンチカツの横に、無骨な感のあるコロッケがごろりと寄り添い、圧巻の迫力。これで750円とは……と早々に涙するが、その先はさらに奥深かった。

カリッカリの香ばしい衣の中から出てきたのは、見かけからは想像もつかなかった、とろりなめらかな具。じゃがいも天国とでも表現したいほど、密度が高い。厚みのある甘味に包まれ、また、涙。

つくり方は、いたってシンプルである。ゆでた男爵芋をマッシュしてみじん切りの玉ねぎと合挽き肉を生のまま加え、まな板の上でこねるように混ぜ合わせる。下味は、なし。塩、胡椒すら施さない。その分、豊かな風味が膨らむのだろう。

コロッケ同様、合挽き肉と生の玉ねぎを合わせ、軽く塩、胡椒して揚げるメンチカツも柔らかく、肉の旨味と玉ねぎの食感が心地よく立った。

「毎日、豚の背脂を絞って揚げ油をつくるところから始めます」。定食に付くお新香まですべて手づくり。手間のかかる作業を含め、主人の豊田悦男さん夫妻は先代が教えたことを忠実に守り続けてきた。かつてご近所に住んでいた、先代の林家正蔵も愛したというおいしさそのまま、というワケだ。

いずれの店も、使う芋の種類や手法は異なれど、甲乙つけがたい美味揃い。食べれば食べるほどコロッケ愛が増し、ホコホコに和む昼が待っている。

※メニューと価格は掲載当時

(文・山内文子 撮影・古市和義)