献血後に郵送されてきた献血カード(画像は旧型。現在は順次新型カードに切り替え中)。ドイツでは、献血をするまで自分の血液型を知らなかったという人も多いです。

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ある日、ドイツの町中にある公立学校に掲げられた「献血デー」の横断幕が目に留まりました。日本では定期的に献血ルームに足を運んだものの、ドイツに住むようになって以来、10年以上も献血から遠ざかっています。そこで、横断幕に書かれた指定日時に、会場である市立総合病院へ出かけて行くことに。

日独両国の赤十字社公式サイトの献血案内を比べてみると、全血献血、血漿成分献血、血小板成分献血の三種類が選択可能であることは共通のようですが、ドイツの方には、さらに自己血輸血が選択肢に挙げられていることに気づきます。「手術を予定している方は、自己血輸血の意義と必要性について医師と相談の上、熟考なさることをおすすめします」という主旨の説明文があり、献血者に対して、献血が自分自身のためでもあることや、自分の体にいたわりの目を向ける大切さを説いているようにも感じられます。

さて、献血当日。市立総合病院内の大会議室に設けられた献血会場の入口で、献血に来た旨を告げるや否や、受付のドイツ人男性に先制パンチをくらいました。
「50kg以下の方は、だめですからね!」

町外れの病院までガソリン代をかけてやってきたのに、「こんにちは」の挨拶よりも前に、この一言。献血デーの横断幕に、あなたの血液が必要です! って書いてあったじゃないの。体重を軽く見てもらえて、悪い気がしなかったのも正直なところですが。

「いやいや、ありますよ。たっぷり50kg」と苦笑いの私に続き、「あるでしょ、この人、背も高いし」とだめ押ししてくれたのは、いつの間にか後ろに並んでいた中年女性。

その女性と私を交互に見上げながら、受付の男性がしぶしぶ手渡してくれたのが、「献血の前に必ずお読みください」と書かれたアンケート冊子。注意事項、病歴、渡航歴、近親者の健康状態、予防接種歴などに関する質問事項が、細かい字でびっしり書かれています。これを全て辞書なしで読んで回答するのかと思うと、頭がクラクラしてきました。今日の献血、やめようか。
しかし、「この東洋人、書類が読解できずにギブアップか」と思われても口惜しいので(勝手な思い込み)、意地になって読解にチャレンジです。

数ある注意事項の中で、辞書なしでわかる箇所だけ拾い読みしていくと、「採血量は一律500ミリリットル。所要時間はおよそ10〜15分」とありました。所要時間は日本と同様ですが、日本の全血献血は200ミリか400ミリの選択制だったはず。1リットル入り牛乳パックの半量を想像するにつけても、すーっと血の気が引く思い。今日の献血、やめようか。

いや、ここで引き下がっては、書類読解を断念したと思われてしまう。400も500も大して変わらん! と覚悟を決め、アンケート最終ページの「全内容を理解し、同意します」欄に署名をしてしまいました。

長文読解の次は、内科医師による問診。脈と血圧測定の後、献血の注意点について改めて説明が始まります。
「採血箇所から出血が続くことがありますが、慌てずに注射跡をおさえ、安静にしてください。悪化する場合にはただちに医師に連絡し……」

「めまいがすることがあります。目の前が暗くなりかけたら、決して無理をせずに、すぐにその場にしゃがんでください。あと◯歩だけ、とか、あそこの椅子まで歩こう、などと無理をすると……」
「注射跡がうっ血したり、炎症を起こすことがあります。その際は……」などなど。
最後に「何かご質問は?」と聞かれたため、「いろいろ副作用があるということは、よくわかりました」と答えると、医師は苦笑。その後、看護士さんによる採血と鉄分検査を経て、いよいよ待ちに待った献血。

ずらり並んだ簡易ベッドに横になり、チューブにつながれた500ミリ献血バッグが一杯になるまで、手のひらをグーパーグーパーしながら静かに待つのは日本でもおなじみです。献血ベッドまでの道のりは思いのほか長かったものの、献血自体はあっけなく済んでしまいました。帰り際に、病院の職員専用食堂で使える食事券と無料駐車券を受け取り、先ほどとは別人のように愛想が良くなっていた受付の男性に挨拶をし、500ミリ分軽くなった体で献血会場を後にしたのでした。

献血からおよそ3〜4週間後に郵送されてくる献血カードは、クレジットカードサイズの新型に切り替え中。新しい献血カードは、累積献血回数によって色分けされているのが特徴です。献血回数が計24回までの献血ビギナーに発行されるのは赤カード。25〜49回まではブロンズ、50〜99回ならシルバー、そして、100回以上の献血を数えると、輝かしいゴールドカードがもらえるというシステムです。
(柴山香)