珍スポットを知り尽くす松澤編集長に聞く、「珍スポ巡り」の魅力とは

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ありきたりなデートスポットには行きたくない、大型テーマパークはもう飽きた。そんな気持ちを吹っ飛ばしてくれるのが、全国各地に身を潜める、まだ見ぬ「珍スポット」の数々だ。

「珍スポット」、それは、自身の珍妙さや特異性をこれ見よがしにアピールせず、ひっそりと、ただただひっそりと、同士が見つけてくれるのを待っている。いうなれば現代社会のオアシス、癒しの空間なのだ。

さて、そんな非日常空間に魅了された者がこぞって愛読するウェブサイトをご存じだろうか。東京を中心に全国各地に点在する珍スポットを紹介している、「東京別視点ガイド」だ。

今回は熱狂的なコアファンを抱え、書籍化企画も進行中という同サイト編集長であり、日本の珍スポを知り尽くす男・松澤茂信編集長に珍スポの魅力を伺った。これをきっかけに、あなたも「珍スポ巡り」にハマってみないか……!?

■珍スポの魅力は「人」にあり〜ナンセンスさが孕む深淵さ

――松澤さん、「東京別視点ガイド」の概要を教えていただけますか。
「『ぴあ』や『東京ウォーカー』では紹介しないような場所を紹介する、というコンセプトで、首都圏を中心とした珍スポットを紹介しています。もともと、変わった場所とかが好きとかではなくて、ディズニーランドもすげー大好きだったんですよ。ただ細部に物語がある、という点では珍スポットもディズニーランドも一緒だと思いますね」

――松澤さんのサイトを愛読して感じるのは、単に「珍」や「変」なものを楽しむというよりも店主さんをはじめ、出会う人々の魅力に惹かれているように見受けます。
「あぁ、完全にその通りですね。やはり珍スポ巡りの魅力は人にあります。珍スポットに現れる細部は、ぼくにとって“店長さんの心の具現化”といいますか。細部にまで人の意志が反映されているというところが良いですね。たとえば貼り紙ひとつをとっても、そこに書いてあることを店長さんに聞いてみると、背景がある。“無意味さの意味”というか。そういう人たちと出会える貴重な体験を与えてくれるところが、珍スポットの面白さです」

(▲柔らかな人あたりの松澤編集長)
――学生時代から一部で伝説となった某「珍企画サークル」や、イベントカフェ経営、大喜利イベントの主催などとてもユニークな活動をされていますよね。そういう経緯にも「人の魅力」に惹かれる前史が垣間見えます。
「面白い空間を作りたいと思っていたんです。中高6年間が男子校だったこともあって鬱屈していた(笑)。学生時代も、ただダラダラしていただけだし、サークルを作ったきっかけも『サークルを作るとモテるらしい』という説を検証したくてはじめただけでした。結局まったくモテませんでしたが(笑)」
「その後、イベントカフェを運営したり、大喜利イベントをはじめたり(大喜利天下一武道会)。大喜利って長く続けていると誰でもある程度のレベルまではテクニックで面白くできると思うんです。でも、その後に残るのは、もうテクニックとかではなく“その人自身の面白さ”だと感じました。その点では今に通じているのかな……」

――そこから珍スポにシフトしたきっかけは何だったのでしょう。
「面白いお店を開きたいなといろいろと下調べていたら、自分が絶対に到達できないような面白い場所がすでにたくさん存在していることを知りました。そのインパクトから、作るよりも発見することに興味が湧いたんです。当初は友達と一緒に、あれこれツッコミながら珍スポットを巡るのが好きだったんですが、『俺はこればっかりやっていたいんだ』という純粋な気持ちがサイト運営のきっかけとなりました」

■達人流の珍スポ発見方法とは?

――観光情報誌に掲載されていない珍スポットは、どのように見つけるのでしょうか?
「最近は『僕、私は行きたくないから、代わりに松澤君行ってきてよ』と頼まれることが多いですね。自分で探して行くこともありますが、友達から依頼されることの方が最近は増えました。たとえば埼玉県の混浴温泉『H温泉』はヤバいんです。“普通のカップルの入浴は要注意”“女性客は気を付けて”とネットでも書かれているんですが、そういうところは女の子が行けないので、僕が頼まれたりします」

(※ちょっとオトナな珍スポットが知りたい人は「大人の東京別視点ガイド」を参照)

――なんだかスケープゴートのような(笑)。松澤さんはすでに400以上のスポットを巡り、レポートをしていらっしゃいますが、そのモチベーションは何なのでしょうか?
「やっぱり出会う人のおもしろさですね。もちろん、狙って面白いことをしようという人も多いんだけど、基本的にはそれを『俺こんなに面白いよ! 変でしょ!』とは主張しないんです。ただ、黙って発見されるのを待っているというか。『かがや』さんなどが象徴的だけれど、ひたすら同じパフォーマンスを毎日毎日、何十年間も続けている。やり続ける姿は熟成された職人芸に近いものを感じます」

(▲かがやさんのメニュー表。宇宙人は1億円で注文できる)

(▲レシートも店主の愛情がこもった手書き。こだわりが伝わる)
――その空間が「見つけてくれるのを待っている」というのはとても面白いですね。松澤さんは彼らを発見することを、彼らは松澤さんのような人に発見されるのを待っていると。その需要と供給がマッチする時、運命的なものを感じるのかもしれないですね。
「店主さんたちに接すると、かれらの歴史にある種の挫折経験のようなもの、表面的な珍妙さの奥にある深淵なものを感じるんです。『これで勝負しよう』という強い気持ちを感じる。それに出会えたときは、『発見されたい』という店主さんの受けの姿勢と発見したい自分とのデコとボコが合わさる感覚があります」

■書籍化企画も進行中!
個別の珍スポットについては、同サイトで自分の好みのものをチェックしてほしい。さて、そんな松澤さんが運営する「東京別視点ガイド」が、書籍化企画をスタートさせている。貴重な特典もついた事前予約も可能だ。

――書籍の魅力はどういった点にありますか?
「この本は、普通のガイド本とは違い、実際に行って体験できる本という点が売りです。現在決まっている予約特典としては『立石バーガーのテグスを引く権利』。それから、読者限定の珍スポットツアーも企画しています。立石バーガーさんは、お金を入れるとマスターが手動で設置されたハンバーガーを落っことしてくれるという、自動販売機ならぬ手動販売機がある珍スポットです」

――最後に松澤さんにとって珍スポットとは?
「自分にとって珍スポットは、店長さんの心を具現化した場所です。好きなことを突き詰めて無駄を削ぎ落としている店長さんをみていると、『自分に正直でいてよいんだ』と救済されているような、癒しの場所です。だから、僕にとっては猫カフェと同じですね!」

今後も松澤さんに珍スポット関連の情報を伺い、随時更新していく予定だ。自分の生活圏で珍スポット探しをしてみるのも一興かもしれない。
(はなふさ ゆう)