「クッキー」と「ビスケット」は何が違うの?

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突然だが、ちょっと妄想してみてほしい。ある日突然、密かに思いを寄せていたあの子がニッコリと微笑みながら、可愛らしくラッピングされた箱をあなたに手渡しするという神シチュエーションを……!思わず「え、これ何?」と戸惑うあなたに、相手はこう答えた。

A「手作りビスケットだよ」
B「手作りクッキーだよ」

さて、あなたはどちらの返答に萌えただろうか。おそらく、Bの「手づくりクッキー」にキュンとしただろう(※筆者主観)。「手作りクッキー」なんてなんとも可愛らしい響きだし、今後お互いの関係になにか進展がありそうなフラグ感満載だ。一方で「手作りビスケット」……。うーん。嬉しいけれどもなんだか響きに違和感アリ。

ところで、そもそも「クッキー」と「ビスケット」は何が違うのだろうか。イギリスではビスケットと、アメリカではクッキーと呼ぶように、英語圏での呼称には地域差があるものの、「モノ」自体を区別しているわけではない。にもかかわらず、日本では両者のあいだに明確な区別がなされているようだ。

なぜ日本で「クッキー」と「ビスケット」が区別されるようになったのか。これを知るために、まずは日本で「ビスケット」が受容された歴史をみていこう。

ビスケットを日本に伝来させたのは、鉄砲やカステラと共に南蛮菓子の「ビスカウト」として平戸に伝えたポルトガル人だという。「ビスケット」という語の語源は、ラテン語の「ビス・コクトゥス(2度焼かれたもの)」。

一般社団法人全国ビスケット協会によると、日本で最も古くビスケットが作られたという記録は安政2年(1855年)の2月28日。柴田方庵という人物が長崎留学中にオランダ人から学んだビスケット製法を「パン・ビスコイト製法書」として手紙に記し、水戸藩の萩信之助に宛てて送ったという史実にさかのぼることができるようだ。

こうして水戸藩に紹介され保存食として親しまれたビスケット。戦後も日本人に愛され続けてきたが、当時この「ビスケット」よりも高級品だと思われていたお菓子がある。それが、「クッキー」だ。そこで、消費者の誤認を避けるための判断基準として1971年に「ビスケット類の表示に関する公正競争規約」が施行され、次のように区別がなされた。

■ビスケット「小麦粉、糖類、食用油脂および食塩を原料とし必要により澱粉、乳製品、卵製品、膨張剤、食品添加物の原料を配合し、または、添加したものを混合機、成型機およびビスケットオーブンを使用し製造した食品をいう」

■クッキー「手作り風の外観を有し、糖分、脂肪分の合計が重量百分比で40%以上のもので、嗜好に応じ、卵、乳製品、ナッツ、乾果、蜂蜜などにより製品の特徴づけをおこなって風味よく焼き上げたもの」

このように、「手作り風の外観」であり糖分や脂質が全体のうち40%以上を占め、さらに嗜好に合わせた特徴づけがなされたものが「クッキー」として、「ビスケット」と区別されるというわけだ。(※これは日本ビスケット協会が定めたものであり、同協会に加盟しているものが従う自主ルールとなっている)

「手作りビスケット」の違和感と「手作りクッキー」という響きの“しっくり感”といった、「ビスケット/クッキー」を無意識に区別するイメージは、この判断基準と合致している。そもそも保存食としての「ビスケット」に対して、「手作り風」で甘くバターの香りが広がり、ナッツやチョコレートなどで彩られた風味豊かな“高級品”としての「クッキー」という消費者イメージにあわせて施行された基準なのだから、わたしたちの感覚にも合っているというわけ。

じつは柴田方庵が水戸藩に手紙を送った2月28日は、「ビスケットの日」に認定されており、ラテン語の「に(2)度や(8)く」のごろ合わせにもなっているのだとか。バレンタインでチョコレートに踊らされがちな2月。来年からは2月28日に、黒船来航と「ビスケット」の歴史に思いを馳せてみるのも一興かもしれない。
(はなふさ ゆう)