智辯学園・岡本2HR 2014甲子園にスター誕生!!

  スターが誕生した。

 智辯学園の3番岡本 和真(3年)だ。 大会前から57本塁打を放つ超高校級スラッガーとして知られていたが、甲子園の大舞台でプレーしたことがないのでその力は依然として未知数だった。私が知っているだけでも40数年間、「超高校級」「10年に1人」など大物ぶりが話題になった高校球児は多いが、そのほとんどは評判倒れになっている。岡本は本物なのか、マスコミよって作られた虚像なのか――。

 1回表、二死ランナーなしで打席に立った岡本に対して、今井 重太朗と中林 健吾(ともに3年)の三重バッテリーは全球ストレートという配球で岡本に対した。そして3ボール2ストライクから投じられた真ん中高めのストレートを捕えると、打球はバックスクリーンに飛び込む先制ホームランとなる。さらに第3打席では2ボールからの高めに抜けた半速球を今度はレフトスタンドに叩き込んだ。

 左腕・今井のストレートは最初の打者に対したときからナチュラルシュートして甘く入り気味だった。岡本のホームランの感想を聞かれた有名高校の監督は「あの球ならうちの○○でもホームランを打てる」と2本塁打の原因を相手バッテリーの配球ミスに求めたが、失投を見逃さないのも一流打者の必要条件である。第2打席で中前打を放つと、4番以下の後続が3本の長短打をつらね3点を奪っている。これだけ見ても、岡本の強打が智辯学園の士気を高める起爆剤になっていることがわかる。

 2回戦では大会屈指の好左腕、田嶋 大樹(佐野日大)との対決が待っている。この日の2本塁打は左腕相手なので、田嶋との対決では追い風が吹いていると言ってもいいだろう。 智辯学園の尾田 恭平(3年)と三重の今井の両先発投手はよく似ていた。ともに左腕投手で、ストレートのスピードは130キロ前後がほとんどで、縦変化のスライダー、シンカー(チェンジアップ)を備えるというのも共通点がある。ともに好投手タイプと言ってもいいバランスの取れたピッチングに見どころはあったが、この試合で目立ったのは岡本をはじめとする野手だった。

 三重では4番西岡 武蔵(3年)が“ドラフト候補”らしい力強さを見せた。岡本とくらべると、タイミングの取り方では西岡のほうが柔らかく工夫の跡が見えるが、スイングに向かうときのバット操作などでは岡本の“柔”にくらべて西岡は“剛”と形容していい荒々しさがあった。4回裏には尾田が投じた甘い変化球を見逃さず、レフトスタンドに目の覚めるような低いライナーのホームランを放っている。これが単発にならず、第4打席でレフト前ヒットを放っているところに西岡の進歩がある。夏に見たい選手である。

 このレポートには「ストップウォッチレポート」というタイトルがついているので、目についたストップウォッチタイムも紹介しよう。 打者走者の走塁では智辯学園のほうが見どころはあった。全力疾走の基準「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満〜」をクリアしたのは三重の2人3回(5秒以上かけて一塁に到達するアンチ全力疾走は1人1回)に対して、智辯学園は2人5回(アンチ0人)。とくに惜しみない全力疾走を演じたのが2番大西 涼太(3年)だ。

 第1打席のセカンドゴロでは4.14秒と普通の俊足ぶりだったが、第3打席のバントのときには3.61秒という今大会最速のタイムで一塁ベースを駆け抜けている。この数値は今年300試合程度見る中でも恐らく最上位にくると思う。第4打席は左中間方向に単打性の打球を放っているが、何と大西は足を緩めることなく二塁ベースを陥れている。私は大西涼のことだから二塁まで行くと思ったのでストップウォッチのストップボタンを押さなかった。で、二塁到達タイムはというと7.71秒だった。これは現在のところ今大会ナンバーワンタイムである。

 例年、機動力を駆使する野球で魅了する三重だが、この試合では目立った脚力を見せられなかった。その一因には智辯学園キャッチャー・吉田 高彰(3年)の強肩が挙げられるだろう。 イニング間の二塁送球では最速1.99秒と、強肩の目安となる2秒切りを果たしている。捕ってからすぐ投げる、というのが速いタイムを実現する手っ取り早いやり方だが、吉田は正確なコントロールを期するためだろうか、捕ってからワンテンポ送らせて投げる。それでも2秒切りを果たしているところに吉田の価値がある。

(文=小関 順二)