『ギークマムー21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア』(著:Natania Barron Kathy Ceceri Corrina Lawson Jenny Williams 訳:堀越英美 星野靖子)「GeekDad」の母親版としてWired.comに解説された「GeekMom」からうまれた本。

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夫は、コミックスのコレクター。
あるとき、家に変えるとベッドの支柱が継ぎ足して底上げされていて、その下に白いダンボール箱が半ダースばかり並んでいる。
もちろん中身は、大量のコミック本だ!
いままで収納スタイルには文句を言ったことはなかったけど、“一線を踏み越えてしまった感がありました。彼の趣味にケチを付けるつもりは毛頭ありません。でもなぜ、それを、わざわざ夫婦で使うベッドの下にしまわなくてならないのでしょうか?”
ブチ切れる衝動を抑えるのは至難の業だったと告白しながら、著者は「抵抗は無意味だ」と悟る。
“何しろ夫は私の変わった趣味についてすべて寛大に我慢してくれる”のだから。

マニアックな趣味を持つ者が、その耽溺ぶりを理解してもらうのはなかなかむずかしい。
家族に対しては、どうだろうか?
こどもに対しては、どうだろうか?
ママになったら、パパになったら、マニアックな趣味は捨てなければならないのだろうか?

『ギークマム』の副題は「21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア」。
ギークっていうのを日本語にすると「おたく」って訳されることが多いが、ここでは、どちらかというとマニアっていうほうが近いかも。
訳者あとがきに、どういうニュアンスで「ギーク」という言葉が使われているか、こう書いてある。
“オタクカルチャーにかぎらず、科学、サブカルチャー、手芸、料理等々、好奇心の赴くまま何事をを深く追求しがちな人全般を指す”
“「Geek」という言葉からどんな連想が浮かぶか、数人のアメリカ人に聞いてみたところ、40代以下の世代には、変わり者だけど頭が良くてコンピュータ技術に詳しい人という印象を持つ人が多かった一方で、50代以上の世代には「変人、付き合いにくい人」といったイメージが定着していました”
そういったギークなママが、ギークっぷりを活かしてこどもを育てていくためのノウハウとアイデアを集めたのが、本書『ギークマム』だ。
帯にこう書いてある。
“コミック、ゲーム、SF、サイエンス、料理、手芸……自ら愛する世界を通じて、子どもを育てていきたいママと家族のための本”。
どういった項目があるか、いくつかピックアップしてみよう。
1章は、コミック・ヒーロー編。
・段ボールで秘密基地を作ろう
・スチームパンクコスプレ術
・誕生日プレゼントを渡すときのオリジナル宝探しゲーム「秘密諜報員」
途中にコラムがいくつも挟まれていて、「スーパーヒーローで学ぶアメリカ現代史」「子どもにすすめたいスーパーヒーローコミックス推奨リスト」は、ママじゃなくても参考になる!

2章は、知育・家庭教育編。
・「1000枚の白紙カード」ルールそのものを改変していくゲーム(「ミニマムノミック」や「FLUXX」のファミリーゲーム版って感じ)。
・一行ホラー作文
・歴史上の人物になりきってパーティーを開こう
他にも「親子でテーブルトークRPG」「ロールプレイング(RPG)の重要性」といったコラムあり。

3章は、IT・ゲーム編。
・子どものための簡単ウェブサイト作成入門
・ギークとゲーマーのためのフィットネス(Wii Fit!)
「私が幼児に「ワールド・オブ・ウォークラフト」で遊ばせる理由」「インターネットブーム前夜、草の根BBSの思い出」「ニンテンドー世代が大人になって」など。

4章は、科学・実験編。
・音波が見える! クラドニ図形を出現させてみよう
・人喰いアメーバみたいな塩の結晶を育てよう
・ホウ砂の結晶でクトゥルフ作りはいかが?
「女子と科学」「石に恋して」など。

5章は、料理編。
・ホビットの餐宴を開こう
・テトリスケーキ
・チェスカップケーキと頭足類カップケーキ
「子どもに夕飯作りを任せるための成功戦略」など
この項は、キャラ弁文化がある日本のママの圧勝だな(勝ち負けじゃないけどね)と思った。

6章は、手芸・工作編。
・フェルト手芸でモンスターを作ろう
・日本のあみぐるみに挑戦しよう
・自作電池で目が光るクモを組み立てよう
「そろばんの数のよみ方」「針仕事の歴史」など。

と、全6章。
ギークなママの井戸端会議をのぞいている感じもあって、楽しい。

この本を見つけ、紹介し、翻訳に参加した堀越英美の文章を引用する。
“少しでも「お母さん」から逸脱すると、「子どもがかわいそう」「母親失格」と批判を浴びるんじゃないか。そんな息苦しさを感じることが少なくありません。
子どもを産んでからというもの、ぐるぐると考え続けていたこの問題に、明快な答えを与えてくれたのが、本書『ギークマムー21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア』です。(中略)ギークであることは「お母さん」になるために切り捨てる要素ではない。むしろギークだからこそいい親になれるのだ、と高らかに歌い上げています。今までどこかで「母親になっても趣味に執着している自分はダメ人間ではないか」という自己卑下の感情が捨てきれなかった私は本書を読み進めていくにつれ、みるみる心が軽くなっていくのを感じました”

アイデアやハウツーを詰め込んだ本だけど、それ以上に、ギークであることを楽しむ、楽しんでいいんだ、こどもと一緒にやっていくんだ、という想いが随所にあふれていて、勇気づけられる。
『ギークマム』、趣味を持つママ(パパも)にオススメ。(米光一成)