数百年の時を越えて、法然上人の教えが経営の未来像に息づいています。キーワードは「共生」。

冒頭から唐突で恐縮ですが、私は葛飾のお寺の息子として育ちました。祖父は法然上人の教えを英訳し初めて海外に紹介した人でした。戦前に出版されたその『HONEN』という本は955ページにも及ぶ分厚いもので、私もその一冊を形見のようにして大切に持っています。

そんな家系に生まれましたが、別にお寺を継ぐわけでもなく若くして渡米してしまった私は、仏教に特別な興味も持たず、つい最近まで法然上人の教えに触れることもなく過ごしてきました。しかし、2012年は法然上人の没後800年を記念する行事が世界各地で行われ、私もふとしたきっかけでロサンゼルスで行われたイベントに参加してきました。

そこで聴いた講話は、法然上人の生涯や教えについてわかりやすく解説するものでした。大変話の上手なスピーカーで、私のように仏教の基礎知識のない者の頭にもすんなり入ってくるようにていねいに説明をしてくれました。とても勉強になったので、その講話を書き起こしたものをもらって帰ってきましたが、『未来企業は共に夢を見る』をいよいよ執筆する段になり、ひょんなことからその講話を読み返していたところ、法然上人と未来企業の考え方に多くの共通性があることに気づかされ、はっとさせられたのです。

世の中がまさしく混沌としていた平安時代末期に、「『ナムアミダブツ』と唱えれば必ず来世は極楽に生まれることができる」と説いた法然は、仏教の民主化を進めた革命児でした。その基盤となった教えは「万人平等救済・共生・非暴力」でした。かいつまんでいえば、「人は独りきりで生きているわけではない。他の人や、社会や、自然との係わり合いによって生かされている。他者を助けることは、自らを助けることだ」ということになります。

続きはこちら