クラブ摘発の流れはライブハウス、スナック、アイドル劇場にまで拡大する?
深夜に無許可で客に飲食させ、ダンスをさせた罪で、今、全国で警察によるクラブの摘発が相次いでいる。
罪状は風営法違反。風営法では、客にダンスをさせ、飲食させる営業(=風俗営業)をするならば公安委員会に許可をとらなければならない。だが許可を取ると、午前0時(繁華街では午前1時)までしか営業してはならない。つまり、現在深夜に営業しているクラブのほとんどが無許可営業ということになる。
今まで“グレーゾーン”の中で営業してきたクラブに、突然メスを入れ始めた警察。だが、その流れはクラブだけにとどまらないだろうと、風俗事情に詳しいライターの松沢呉一氏は語る。
「今後はライブハウスに拡大するでしょうね。ライブハウスは単なる飲食店ではなくて、興行場法の規制を受けます。しかし、現実には一部の大きなライブハウスが興行場の届けを出しているだけで、あとは飲食店の届けだけでやっています。興行場法は保健所の管轄なので、すぐに締めつけが強まることはないでしょうけど、興行場法と風営法はまったく別の法律ですから、興行場の届けを出していても、踊らせたと見なされれば風営法違反になる。腕を上げるだけならいいとしても、クラブ同様の営業をしている場合はアウトでしょう」
クラブ同様の営業をしているライブハウスとはどういったものか。今年4月に摘発された大阪・キタ(梅田)にあるクラブ『NOON』の経営者・金光正年氏が語る。
「9月の頭に大阪のライブハウス・Y店に警察の立ち入りがあって“風俗営業である”との注意を受けてます。Y店はライブハウスの看板を掲げてはいますが、昔からDJを呼んで深夜のイベントを開催する店舗として有名でした。限りなくグレーな営業形態ですが、そういった店へのガサ入れが大阪では実際に始まっている。風営法による規制は、もはや“クラブ狩り”なんていうレベルの話じゃないということです」(前出・金光氏)
注意を受けたY店は現在、深夜営業を停止中だという。客を踊らせるような営業をするのであれば、風俗営業の許可を取ればいいと考えてしまうが、実はこのライセンスは取得がかなり難しいのだ。
「一番のネックは店の大きさ。風営法だと一室66?以上の床面積がないと許可が下りないから、渋谷あたりの小さいライブハウスやクラブは、ほとんど飲食店の許可で営業せざるを得ない。これがガチガチに取り締まられるとなったら、ほとんどの店は営業停止に追い込まれるんじゃないか……」(渋谷駅近くのライブハウス店長)
風営法そのものが実態と乖離(かいり)しているために、世の中のあらゆる業態の店舗が、風営法の物差しで見るとグレーゾーンに置かれているというのが現状だ。極端な例でいうと、スナックのママが客にカラオケを勧めるのも、客の歌に合わせて手拍子するのも違法行為として摘発されてしまいかねない。
「今後、規制強化の流れはますます強くなる。結局、クラブの件も性風俗店の摘発と同じ流れだと思うんです。04年の歌舞伎町浄化作戦からすべてが始まっている。最初は性風俗店だけを取り締まっていたのが、世間の後押しもあってどんどん拡大した。最近では、ガールズバーやガールズ居酒屋の摘発が頻発してるし、7月には新宿2丁目最大のゲイバーも摘発されました。江ノ島では、海の家に警察が『客を踊らせるな』と警告したという、ウソのような話もある。今、性風俗から飲食店まで、ジャンルを問わず風営法違反が適用される、“暴走”が起きているんです」(前出・松沢氏)
風俗営業をしているつもりがなくても、客を踊らせるような営業をした瞬間に、そこは風俗店とみなされる――。例えば、秋葉原によくあるような、アイドルのライブが行なわれている小バコ。店側が風俗営業の許可を取っていなければ、ファンが“オタ芸”を切れ味鋭く披露した瞬間、そこは風俗営業店と見なされ、規制の対象になってしまう恐れがあるのだ。クラブの摘発は、もはや対岸の火事ではない。
(取材/木場隆仁、写真/グレート・ザ・歌舞伎町)