スポーツの審判が、「誤審」と見られても仕方のない判定・裁定を行なってしまう背景にある「心理的バイアス」には、昨日ご紹介した「集団への同調圧力」によるもの以外にも様々ありますが、今日は「不作為バイアス」を解説しましょう。

「不作為バイアス」は、自分が行動したことによってネガティブな結果を招くことを避けようとするため、意思決定に当たって、できるだけ

「行動しないこと(不作為)」

を選択しようとする傾向のことです。

心理学、あるいは行動経済学の枠組みで紹介される有名な実験に次のようなものがあります。

被験者は、あるインフルエンザの予防接種を自分の子供に受けさせるかどうかを聞かれます。

このインフルエンザに感染すると、3歳未満の子供の場合、命に関わることがあり、が死亡しています。予防接種を受けると感染を避けることができますが、が、予防接種を受けたせいで亡くなることがわかっているという状況です。

確率論に照らせば、つまり合理的な選択は、

「予防接種を受けさせる」

という判断になるはずです。

ところが、多くの親は、

「予防接種を受けさせない」

を選ぶのです。

なぜなら、予防接種を受けさせて、万が一、自分の子供が死んだら、自分の責任だと感じざるを得ないからです。親としては、そんなことは避けたいと考え、予防接種を受けさせないことにする。

しかし、冷静に考えれば、

「予防接種を受けさせない」

という選択をした結果、子供がインフルエンザに罹って不幸にも死んでしまったらどうでしょうか?

当該インフルエンザによる死亡率の高さを考えると、予防接種を受けさせないほうが、よほど責任重大です。


ただ、人間心理として一般に、

「行動したことによる結果」

よりも、

「行動しないことによる結果」

のほうが抵抗がない。

結果に対して「自分の意志」が明確に影響を及ぼしていないように感じられるからでしょう。

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