/ウィルトシャー人は、あいかわらず羊と昼寝ばかり、と、英国の中でバカにされていた。だが、じつは。。。充実した生活のフリばかりをしていても、その果実はあなたの口には入らない。人生の最期にほんとうに笑うには、どうしたらよいのか。/

 緑の野の広がるコッツウォルズ(羊の丘)は、英国の中でももっとも美しい地方のひとつだ。なかでも、ウィルトシャー州は、カースル・クームなどの魅力的な古い小さな村があちこちに点在している。とはいえ、英国の中でウィルトシャー人と言えば、間抜けな田舎者の代名詞でもあった。

 というのも、英国が羊毛で栄えたのは、はるか昔の十六世紀以前の話。その後も英国は、フランスとの戦争を繰り返して大陸側の領土を失い、羊毛の加工販路は細る一方。代わって、植民地インドからの安価な綿織物が大量に流入した。十八世紀にもなると、他の地域は、地力回復のための休耕無しで出来る輪作が工夫され、爆発的に生産高を増やしていた。ところが、ウィルトシャー人ときたら、あいかわらずのんべんたらりと野っぱらで羊と昼寝ばかりしている。これでは、バカにされるのも当然だ。

 そして、その夜は、ちょうど満月だった。仕事で遅くなった地方監督官が家路を急いでいると、小さな池に村の男たちが集まっているのが見えた。止めろ! なんだ、なんだ? 監督官は、馬車を降り、池の縁まで下っていった。どうした? 何をしている? 大きな熊手を持った村の男の一人が答えた。へぇ、見て下せぇ。あそこに、ほら、うまそうな、でっかい丸いチーズが浮かんでるんでやんしょ。あれをなんとか取れねぇか、って、みんなで思案してるところでさぁ。お役人さま、なんかええ方法はねぇもんだろか?

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