そんな“古典的商法”に逆らおうとする動きが表れた。大丸松坂屋百貨店を傘下に持つJ・フロントリテイリングは3月末、ファッションビルのパルコ株33.2%を取得、役員2人を社外取締役に送り込んだ。Jフロントは昨年3月に輸入雑貨専門店の『プラザ(旧ソニープラザ)』やフランス料理・洋菓子の『マキシム・ド・パリ』を傘下に持つスタイリングライフホールディングス株の48.5%を取得したばかり。これまでのデパートにはない大胆な試みで「多数の専門店を入居させて売り場を運営するノウハウを吸収するのが当面の狙い」(関係者)という。

 野心家で知られる奥田務Jフロント会長自身、かねて「百貨店の定義は一つではない。地域や立地で変わる」という考えを強調していたことがある。
 「奥田会長には若い女性層に人気があるルミネへの対抗心がある。各社ともアパレルメーカーの販売員とデパートの社員が店頭に並ぶのが一般的ですが、Jフロントはアパレル側に販売の大半を任せることで、ファッションビルに対抗できる体制にした。パルコ出資でこれに磨きをかける作戦でしょう」(前出・記者)

 もう一つ、先見の明をアピールしているのが高島屋の海外出店だ。各社が海外への出店では次々と失態を演じている中、同社のシンガポール店は今年2月期に370億円の売上高だった。その絶対額では横浜店の3割に過ぎないが、注目すべきは営業利益の35億円である。国内18店の営業利益トータル69億円の半分強を、シンガポール店だけで稼いだ計算なのだ。
 「日本ブランドに関心が高い中国人観光客の需要を取り込んだことが大きいといわれていますが、これだけならばライバル各社も同じ。高島屋のシンガポール店が『海外唯一の成功例』と絶賛されているのは、徹底的に現地化したことです。約400人の社員のうち日本人は7、8人しかいない。現地採用スタッフが現地事情をくみ取って品揃えしたことが大きく貢献しています」(同)

 これと対照的なのが'08年に合併したにもかかわらず「給料が違う」など、今なお三越vs伊勢丹の確執がくすぶる業界ナンバーワンの三越伊勢丹HDだ。社内融和に遅れれば年々縮小する市場への対応も比例して遅れる。同HDウオッチャーが苦笑する。
 「今年の夏に旧三越新宿店(新宿三越アルコット)をビックカメラに貸し、年間50億円といわれる賃料を得るのは本業よりも安定的な不動産ビジネスに魅力を感じている証拠。旧池袋店は売却されているし、三越店舗が次々と売却・賃貸の対象になっているのは決して偶然ではない。これ以上、次元の低いにらみ合いが続けば、サバイバル競争から確実に脱落します」

 この春『三井アウトレットパーク木更津』や『ダイバーシティ東京プラザ』が鳴り物入りでオープンするなど、新たなライバルが続々と台頭している。果たして生き残るのは、どこのデパートだろうか…。