また、Mwp1aのタイミングについても、これまでの報告よりも約500年はやい、14,600年前に上昇が開始したことが明らかとなり、グリーンランド氷床の温度記録に見られる急上昇期と同調することが示されたほか、この海水準上昇に南極氷床も寄与したことを明らかとなった。

これらの成果について研究グループでは、地球の気候システムを理解する上で、氷床と海洋の相互作用が急激な気候変動をもたらすということを、高精度のデータとモデル計算により明らかにした点に大きな意味があるとしている。

気候モデルの制約条件として重要となるのが今回のような古気候データだが、今回の研究は、気候の変化のタイミングと規模、それに変化を起こした起源(海水準上昇の場合は、どの氷床が溶けたか)にまで言及した重要な成果であり、現在準備中で2013年出版予定の「第5次IPCC気候変動評価報告書」に対しても、重要な貢献になると説明している。

なお、研究グループでは、今回の研究では、海水準上昇の規模と時期を正確に明らかにし、融解にかかわった氷床が明らかにされたことで、気候学的な2つのシナリオが提唱されることとなったとしている。

1つは南極(おそらく西南極)の氷床が融解し、海洋循環の強化が起き、北半球高緯度により多くの熱を輸送するようになったために、グリーンランドの表層の温暖化や北米や北欧の氷床融解が誘発され、結果的に大規模な14-18mにおよぶ海水準上昇が起こったというもの。

もう1つは何らかの要因で海洋循環が強化され、北半球高緯度が温暖化し、北米・北欧の氷床が融解したため、海底に着底して不安定な西南極氷床の崩壊を引き起こしたというものである。

そのため、これら2つのシナリオについて、気候のモデリング研究を通じて、詳細に明らかにしていくことが今後のぞまれるとするほか、現在でも西南極には、海底に着底し世界的に海水準を5mほど上昇させるだけの氷床が存在しており、今後の温暖化に伴う不安定化が懸念されていることから、氷床の近辺での地球科学的試料に基づく、変化のタイミングと規模の決定についての研究を進めていく必要があるとしている。