今季から読売ジャイアンツでプレーする杉内俊哉が9日、古巣の福岡ソフトバンクホークスとのオープン戦で大炎上した。

 先発マウンドに上がった杉内は2回、先頭の小久保裕紀に2ベースヒット、新外国人選手のウィリー・モー・ペーニャに四球を許すと、松田宣浩のタイムリー2ベースヒットで失点。その後も高谷裕亮に2点タイムリー3ベースヒット、長谷川勇也に2ランホームラン、3回にはペーニャにソロホームランを浴び、5回7失点でマウンドを降りた。

 杉内は「マウンドに立てたことは嬉しいが、打たれるのは嫌。マウンドで焦った。焦る、という感覚を久しぶりに味わったことが収穫です」とコメントした。

 一方ホークスでは、開幕投手候補の摂津正3回を投げ、内野安打のみの1安打無失点に抑えた。

杉内『止まんねぇ』7失点…古巣相手に『久々焦った』」(スポーツニッポン)、 「摂津が新旧エース対決制す」(日刊スポーツ)、「G・杉内、7失点…初対決の古巣にボコられた」(サンケイスポーツ)、「杉内、大乱調!古巣相手に5回8安打7失点」(スポーツ報知)。

 この試合についてスポーツ新聞各紙はやはり、杉内と、古巣ホークス打線の対決にフォーカスしている。仮に杉内がホークス打線を抑えていたら、紙面は「杉内、古巣に恩返し」に差し替えられていたことだろう。

 わが国のプロ野球にFA制度が導入されたのは、1993年。それ以前にも、プロ入りから10シーズン以上が経過した選手が任意に契約球団を選べる「10年選手制度」があったが、選手の移籍は米メジャーリーグに比べ大人しい。FA権を手にしても、行使しなかったり、行使しても所属球団に残留する選手が少なくない。

 そんな中で、権利を行使し他球団に移籍した選手は、ファンから「裏切り者」のレッテルを貼られる。FA権は文字通り選手の権利なのだが、今まで応援してきたファンは腑に落ちない。

 そして、今回のような古巣との直接対決は、否が応でも盛り上がる。

 米メジャーリーグにも、こんな因縁がないわけではない。現在ニューヨーク・ヤンキースに所属するアレックス・ロドリゲスは2000年、10年総額2億5,200万ドルシアトル・マリナーズからテキサス・レンジャーズに移籍したが、マリナーズの本拠地、セーフコ・フィールドでの試合では、大ブーイングとともに札束の玩具をばらまかれるといった手荒い歓迎がしばらく続いた。
 だが、因縁はわが国ほど根深くないだろう。

 この差は、組織への帰属意識に起因するのではなかろうか。日米のプロ野球に詳しいアメリカ人ジャーナリストのロバート・ホワイティング氏は、わが国のプロ野球を「野球武士道」とし、何よりも「選手はチームの一員たるべし」と強調している。

 この武士道野球を最も意識しているのが、ファンだ。ファンの多くが選手とチームの関係を、さながら封建時代の主君と家臣の関係のように見ており、選手にはチームへの忠誠を求める。それに自ら反するもの、つまりFA権を行使し他球団に移籍した選手は、どんな功労者であろうと、脱藩者になり下がる。

 だから、FA権を行使し他球団に移籍する際、会見で古巣への感謝の言葉を並べたり、ときには涙を浮かべる選手が少なくない。選手は涙ながらにファンに許しを乞う。

 そのことをわかっているから、スポーツ新聞各社は古巣との直接対決に注目する。

 せっかく手にしたFA権なのに、それを行使するのは一苦労。苦労しても、その先にはいばらの道が待っている。そんな選手たちには同情を禁じ得ないが、ボクも、武士道野球が織りなす因縁の戦いは、嫌いではない。

 そういえばこの2年間でホークスさんには、わが埼玉西武ライオンズ左腕正捕手を持って行かれたなぁ。 ..