1月24日には都心でも6年ぶりに4cmの積雪を記録。今年も立春の頃は“春とは名ばかり”になりそうだ。

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今日から2月。早いもので、もうすぐ立春(2月4日)がやってくる。「春とは名ばかり」とは、天気予報の常套句。この分だと、今年もその言葉がぴったりな“寒い春”がやって来そうだ。

そんな暦に対し、「“名ばかり”ならば、日本人の季節感にあわせた、新しい暦をつくろうじゃないか」という取り組みが動き出している。立春、春分、夏至など、いわゆる「二十四節気(にじゅうしせっき)」の言葉は、元々は中国由来。それを、日本向けにアレンジした「“日本版”二十四節気」を開発する取り組みだ。

この取り組みを始めたのは、テレビやラジオの天気予報でもお馴染みの日本気象協会。気象情報と共に暦に載る歳時記を伝える中で、二十四節気に難しい言葉や馴染みのない言葉があること、また、発祥の地(中国)と使われている場所(日本)の気候が違い、実際の季節とズレが生じていることに疑問を抱き、プロジェクトを立ち上げたという。

実際には、どのような言葉が難しかったり、馴染まなかったりするのだろう。日本気象協会管理部の金丸努さんにお話を聞いた。

「二十四節気に関する認知度調査を行ったところ、立春・立秋や冬至・夏至といった言葉はよく知られているのですが、小満や芒種などは、なんと認知度が10%以下でした。これには私たちも驚きました」

小満、芒種。みなさんはこれらの言葉をご存知だっただろうか。ご存知だとしても、意味を正確に言えるだろうか。小満(しょうまん)は5月21日頃で、「すべてのものがしだいにのびて天地に満ち始める頃」という意味。一方の芒種(ぼうしゅ)は「麦類の刈り取りを行い、稲の苗を植える頃」を意味し、6月5日頃の時期を指す。どちらもとても美しい言葉なのだが、全く知らないまま、これらの季節を素通りしている方も多いかもしれない。

また、意味を取り違えている例もあるらしく、たとえば「雨水」は、梅雨の頃と間違えられがち。でも本当は2月19日前後の、雪や氷が溶けて水になる頃を指す言葉だ。逆に梅雨を表す言葉はなく、これは二十四節気が生まれた中国の黄河中・下流域に、日本のような顕著な梅雨の現象がないからだと言う。冒頭で紹介した「立春」も、中国では気温が上がり始めている頃だが、日本では1年で最も気温が低い頃。なるほど、こうやって考えると、確かに二十四節気は、日本の季節感とズレがあって当然なのだと納得できる。

でも、二十四節気が日本で一般化したのは、戦国時代。これまで長い歴史の中で、私たちの先祖は、この“ズレ”を感じずに来たのだろうか?

「ズレながらも、愛されて使われてきたという歴史があったのだと思います。暦の専門家の方のお話を聞いていると、“ズレている心地よさ”なんていうものも日本人独特のものとしてありまして、たとえば、寒い季節にいつか必ず来る春を待ち望む気持ちや、芽吹きなど季節の兆しを探そうとする気持ちがありますよね。寒いからこそ暦で春を先取りしようとする。日本人にはどこか、そういう気持ちがあるんだと思います」

と、金丸さん。ズレを愛するなんて、実に日本人らしい感覚。私はそれも日本人として大切にすべき心だと思う。だとすると、敢えて新しいものをつくらなくてもいいのでは、と思ってしまうが……。

「今、日常生活の中で季節感や季節の言葉が失われてきているので、この取り組みでもう一度今の季節を見直して、日常の言葉にできないか、という思いがあります。今度、2月に開くフォーラムでは、そんな日本人の季節感や暦について改めて味わっていただけるように、暦や俳句の専門家の方々をお招きし、ご登壇いただく予定です。きっと面白いお話が聞けると思います」

なるほど、この取り組みには、「改めて日本の季節を感じてほしい」という、温故知新とも言うべきコンセプトも隠れていたのだ。

昨年12月には、この取り組みのキックオフとなる第一回の専門委員会が開催され、元気象庁長官や気象予報士のほか、「暦の会」会長、国立天文台職員、俳人なども参加した意見交換を行った。この取り組みの一環として2月10日に予定されているフォーラム「季節が薫るひととき」は、一般の方も参加可能で、Ustreamでも配信予定。この機会に改めて、古き良き日本の暦や季節感に触れてみてはいかがだろう。

その後については未定だが、公募などにより一般の方々の意見を取り入れながら検討を重ねていき、来年度中には完成版を発表したいとのこと。現在のところ、完成形は全く決まっておらず、例えば、漢字2文字ではなく、ひらがなの表現になることもあり得るし、数も24個ではないかもしれないという。また、二十四節気はそのまま残して、新しい日本の季節の言葉を別につくる可能性もあるのだとか。まだまだフレキシブルな状態なので、ひょっとしたらあなたの考えた季節の言葉がカレンダーに載る可能性もあるかもしれない。今後どのような形にまとまっていくのか、展開が楽しみだ。

“日本版”二十四節気の誕生で、「暦では春なのに……」なんて会話はなくなるかも。新しい季節の言葉、みんなで参加して考えて、多くの人が日本の四季をもっと楽しめるようになるといいですね。
(池田美砂子)