青森のソウルフード・味噌カレー牛乳ラーメン。

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テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」。その作中に、ある女性キャラクターがカップラーメンにカレーのルーを入れて食べるシーンが出てくる。その女性キャラクターいわく、「最初っからカレー味のカップめんじゃね、この味は出ないのよ」

これがやたらと旨そうで、筆者もマネをしてつくったことがある。「スープとお湯を少なめにしとくのがコツよ〜」と女性キャラクターが言っていたので、そのとおりにしてつくり……。で、食べてみると。まあ……。うん……。まあまあまあ。そういうことですよね。虚構の世界のお話ですもの。正直なところ、特段旨くはありませんでした。

ただ、元来カレー好き、それにカレーヌードル好きの筆者なので、その「エヴァンゲリオンに出てきたカレーラーメン」も残さずに平らげることができた。そんな筆者のもとに、故郷・青森で暮らす父から便りが届く。

どうだ。元気にしているか。(中略)父さんは最近、味噌カレー牛乳ラーメンにハマっており(後略)。

……いやいやいや。何にハマってんだ、親父。たしかに、昔から親父はラーメンが好きだった。中でも、味噌ラーメン派だったよな。けど、そんな大好きな味噌ラーメンに何? カレーを混ぜるのか? なんだよ、親父もエヴァンゲリオンを見て影響を受けたのか? うん? それになんだって、牛乳? 牛乳も加えるのか? 一体どうしたんだ、親父? 母さんに、ムリヤリそんなものを食べさせられているのか? 

老夫婦の食生活に不安を覚えた筆者は、青森に住む兄に相談をしてみた。

「兄さん、親父が味噌カレー牛乳ラーメンとかいうワケのわからないものを食べさせられているらしいんだが」
「ああ、青森のソウルフードな」

調べると、青森には「青森味噌カレー牛乳ラーメン普及会」なるものがあった。早速、担当者に取材をしてみた。

「味噌カレー牛乳ラーメンは、青森市民に30年以上もの間、愛され続けています」と担当者。いや、あの……。僕も十数年前までは青森市民だったのですが、正直、食べたことはありませんでした……。「大々的に宣伝をしていたわけではないので、ご存知ない青森市民も当然いらっしゃるでしょう。ただ、最近になってテレビの全国放送や雑誌などで取り上げられる機会が増え、青森市民はもちろん、青森市外、青森県外の方々にも広く知られるようになりました」

味噌カレー牛乳ラーメンは、その名前のとおり、味噌・カレー粉・牛乳を入れてスープがつくられる。なんの共通点も無い3つの味を組み合わせるという、ちょっとすると“ゲテモノ感”すら漂う味噌カレー牛乳ラーメン。その原点は、中高生の客にあったという。

「昭和50年代。青森市で営業していた『味の札幌』というラーメン店の、中高生の客たちの間で、味噌・塩・醤油それぞれのラーメンに、様々な調味料やソースなどを組み合わせて食べるのが流行しました。好奇心旺盛な彼らの中には、マヨネーズやケチャップ、コーラを混ぜて食べる子たちも……。そうして彼らが楽しみながら“実験”を重ねた結果、味噌ラーメンにカレーと牛乳を組み合わせたものが誕生したのです」

中高生たちの冒険心が生み出した、味噌カレー牛乳ラーメン。客はもちろん、店側としても仰天モノだったらしく、しばらくの間は裏メニュー扱いだった。しかし、次第に人気が広がり、昭和53年に「味の札幌」の正規メニューに格上げ。今では、看板メニューにまで成長した。

「最近は、味噌カレー牛乳ラーメンのカップめんやフリカケ、せんべいといった商品もお客様に喜ばれています」と、担当者。へえ、じゃあ自宅でも味噌カレー牛乳ラーメンの味を楽しめるということか。通信販売などでも買えるんですか? 「いえ、味噌カレー牛乳ラーメンを扱う青森のラーメン店や、青森の土産物屋、スーパー、デパートなどでしか売っていません。あくまでも、青森にいらっしゃった方だけが手に入れられる、青森土産ということです」

ならば、と、筆者は青森へ足を運び、「味の札幌」の流れを汲む「味の札幌大西(青森市古川一丁目15-6)」に行ってみた。注文するのは、もちろん味噌カレー牛乳ラーメン。

黄色がかったスープからは、カレーではあるもののまろやかで刺激の少ない、なんとも食欲をそそる香りが漂う。飲んでみると、カレーと味噌、バターが合わさったコクのある味わいの中に、ほのかな牛乳の甘みが感じられる。“ゲテモノ感”など、まったく無い。非常に旨い。単なるカレーラーメンよりも深く、優しい味わいである。やや太めな麺は、スープとよく絡み合う。かためで、噛み応えがあり、ノド越しもたまらない。ワカメ、メンマ、モヤシのトッピングも実に合う。

店を見渡すと、4〜5歳くらいの小さな子供から、70代、80代と見られるお年寄りまで、幅広い年齢層の客たちがおいしそうにラーメンをすすっている。まだ午前11時すぎにも関わらず、店の外には順番待ちで並ぶ客の行列。なるほど。これはたしかに、青森のソウルフードに違いない。
(木村吉貴/studio woofoo)