見学後に出された絶品の生ビール。

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「アムステルダムを訪れたら、まずハイネケン・エクスピリエンスでビールを試飲して、その後コーヒーショップで一息ついたら、ゴッホ美術館へ行け。新たなゴッホと出会えるはずだ」

これはオランダの友人が教えてくれたゴールデンルートである。ここに、いわゆる売春宿である飾り窓を加えるかどうかは、各人で議論が分かれるらしい。しかし彼によれば、これでアムステルダム観光は完璧だそうだ。

その友人が指すハイネケン・エクスピリエンスとはオランダのビール会社、ハイネケン社が運営しているビール博物館である。閉鎖になったビール工場を博物館に改装したもので、ハイネケンの歴史やビールの製造工程などを試飲付きで学ぶことができる。

「とりあえずビール」の習慣もなくなりつつある現代日本。そして今年で平成も24年目。あらためてビールの素晴らしさを再認識するべく、激動の昭和に生まれたライターが、ハイネケン・エクスピリエンスでビールの良さを学んできた。

試飲・試食目当て。これは食品系社会見学の常である。ハイネケン・エクスピリエンスは入場料16ユーロ(約1,560円)でビール2杯付き。早速、「これはお得!」と浮かれながら入口で入場料を支払ったのだが、市内のバーでビールを頼めば5ユーロ以下。日本の場合、工場見学は無料の場所が多いが、ヨーロッパは有料の施設が大半。見学を除けば、どう考えても普通にビールを注文した方が安いのである。ただし、落胆するなかれ。それ以上の楽しさが館内にあった。

まず、様々なメディアを駆使して、ビールができるまでの過程を解説してくれる。屋内遊園地によくあるような、スクリーン映像と部屋が連動した体感型アトラクションまであり、試飲が目当ての人でも「見学も面白いかも」と思わせてくれる。またボトルにメッセージを刻んで、世界に一瓶しかない自分だけのハイネケンを作れる機械もあった。もちろん、ここには愛する……自分の名前を記入。え? 恋人や妻の名前を記入できる状況であれば、こんなアムステルダムくんだりまで来ません。

さて、ハイネケンの特徴とは何か。ことの起こりはフランスの細菌学者パスツール。彼によってアルコール発酵が酵母の働きによることが発見された。酵母が糖分を食べて、アルコールと炭酸ガスを吐き出すのだ。そのパスツールの門下生だったエリオン博士がハイネケンに就職。これがハイネケンにとって一つの節目となった。

ビール酵母は1種類だけではないので、多くの酵母が入り乱れた状態では良いビールはできない。そう考えたエリオン博士は各酵母を分離。ビール作りに最適な2つの酵母を選び純粋培養した。そして圧倒的に評価が高い方の酵母を採用し商品にしたのだ。これがハイネケンの味の秘密。ちなみに、その酵母は冷凍保存され現在まで使用されているそうだ。

一通りハイネケンについて学んだら、最後は試飲。バーカウンターがあり、係の人がビールを注いでくれる。基本的には立ち飲みなので、昭和生まれの老体として座りたい……しかし、ここで飲むハイネケンのおいしさはいつも以上に格別だった。

空きっ腹に2杯入れたら、最後はお土産コーナーが待っている。もちろん酔いが回っているので買ってしまう。まずはハイネケン栓抜きを買い物かごに入れる。着ないだろうなと思われるハイネケンTシャツまで入れる。そしてハイネケン帽子も入れようかと思ったが、ここは何とか踏みとどまった。

結局、ハイネケン・エクスピリエンスは工場ではなく元工場を造り変えたものなので、製造プロセスを間近で見学したい人には向かないが、ハイネケンのイロハをさらって後は試飲で楽しみたい人には大変向いている。ビールって本当にいいものでした。
(加藤亨延)