いただいた赤ワインをショットでグイッとひと飲み。

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中国雲南省北の最深部、チベット自治州との境にある山深い県、徳欽。ここに、かつてカトリックの宣教師たちが伝えた幻のワインが今も生産されているという。そんなものがあるならばぜひ飲まなければと思い立ち、わざわざ分けてもらいに行ってきた。

最寄りの空港は徳欽から約200km南の、香格里拉(シャングリラ)という町になる。もちろん日本から直行便は飛んでおらず、雲南省の省都・昆明などで乗り継ぎが必要だ。午前8時、市内バスターミナルからバスに乗り込み、徳欽に着いたのは8時間後の16時過ぎ。かなりの割合で道路が舗装工事中で、山越えの悪路をバスは車体を揺らしながら進んだ。

徳欽の中心地は昇平鎮と呼ばれる谷間の集落。そこからバスもしくは車をチャーターし、さらに悪路を山奥へ向けて4時間ほど走る必要がある。すると茨中という村に着く。そこには、1906年にフランス人神父が中心となって建てられた天主堂があった。このような辺鄙な地域になぜキリスト教教会があるのかというと、理由は18世紀中期以降にさかのぼる。当時ここへ布教に訪れた宣教師たちが、ここにキリスト教が根付かせたのだ。ワインはキリスト教にとって儀式上、大切な役割を担う。ゆえに製法も一緒に伝わったというわけだ。

到着したのは日曜午後。午前中にあるミサも終わり、閑散とした雰囲気だった。はるばる、そして一方的に来てみたものの神父のヤオさんは外出中で、境内へ入る扉には鍵がかけられていた。ワインを分けてもらう以前に、見学もできない恐れが漂いはじめた。門番の年配男性も「今日は無理だね」と全く取り合おうとする気配はない。なんとか方法はないものかと村人に聞き込みを開始した。

教会近所の家々をあたり、神父さんの携帯番号を教えてもらう。そして電話。神父さんはまだ出先から戻れないということなので、次は合鍵を持つ管理人のおばさんを探し出す。約1時間後ようやく合流し、何とか境内へ入ることができた。

教会はバジリカ様式と中国式の屋根が備わった4層の塔を持つ。中にはいると、中国風の色彩で描かれた独特の教会装飾に彩られていた。教会の周囲は畑になっており、その大部分にブドウの木が植えられている。早速、管理人さんに「ワインを試飲させてください」と頼んでみた。

通されたのは「接待室」と書かれた部屋。まさかと思ったが、日のあたる窓際に置かれたスプライト1.5Lのペットボトル2本が、じつは赤ワインだった。残りのワインはポリタンクに入れられて日陰に置かれていたが、やはり保管状態が気になる。とにかく味を確認するべく、ワイングラスではなくショットグラスに注がれたワインを口へ運んだ。見た目の色は濃く、濃厚なタンニンが特徴かと思いきや、味わってみると軽い。すでにペットボトルから3割ほど減っていたので、空気や日光に触れて酸化が進んでいる可能性も高い……。

何はともあれ「分けてもらえますか?」とうかがったところ、二つ返事でOKをもらった。これで任務完了。ペットボトル1本で10元(約120円)というお求めやすい価格だ。ただし、航空券など往復の旅費を含めれば、普通にフランスの五大シャトーのワインが買える値段になる。もし現地へ行って購入を考えている場合は、よくご検討ください。
(加藤亨延)