■テクニックの質は、Jの方が断然上と語るテセ
33分、後方から浮き球が来る。チョン・テセは胸で止めると、巧みに右へターン。これで背中に張りついたDFは、バランスを崩してクリアーしようとしたキックを空振りし、転倒してしまう。テセの巧さと強さを見せつけたシーン。だが追加点の絶好機は、判断良く前に出たGKによって阻まれた。

結局14分に幸先良く先制したホームのボーフムだったが、後半10分に同点ゴールを許す。その後テセは決定機を1度築き、終了間際にはピンポイントクロスでチャンスを演出するが、デディッチのボレーがゴールを掠めたところでタイムアップとなった。

「オレが引っ張って、自分で決めるところで決めないと、こういうことになる」

テセは、1−1で分けた試合を、そう振り返った。

9試合を終えて5ゴール。得点ランクでは2位につけている。この日のプログラムでも表紙を飾るなど、既にチームの看板選手として定着した。だが内心は葛藤がある。

「思ったよりやれている」と感じる反面「1部でやるためには1試合1ゴールくらいのペースが欲しい」と語るのだ。

ボーフムは昨シーズン1部から降格した。もともとテセには、プレミアリーグのブラックバーンなど、もっと好条件のオファーもあった。だが北朝鮮国籍の選手(※注)がビザを取得するのは簡単ではない。いつ取得できるのかわからないリスクを考え、現在のチームに落ち着いた。

「テクニックの質はJの方が断然上。改めてJ1の中位以上のチームはレベルが高かったと思いますよ。川崎なら良いMFがたくさんいるし、決定的なパスも出てきた。でもここ(ブンデスリーガ2部)では、僕への負担が大きい。中位以下のチームは、組織力やDFが落ちる。1対1で勝てば、そのままシュートになるけれど、日本ではカバーリングの意識も高いから、1人で突破するのはなかなか難しかった」

■言いたいことは言えるようになった
新天地は決して高いハードルではなく、テセの能力を考えれば、当然の結果を出しているに過ぎないのかもしれない。ただし既にドイツ語で「言いたいことは言える」ようになったとはいえ、異国でプレーするにはそれなりのハンディはある。例えば「レフェリーに目をつけられたのか“なんで?”と思うシーン」で3試合も続けてイエローカードを受けた。かつてスロベニアリーグに参戦した森山泰行氏が、酷いファウルを受け、言葉を返した瞬間に退場を食らったのを思い出す。

実際に加入してボーフムの戦力は予想を下回り、苦戦が続く。現在中位につけるが「一応昇格を目指してやってはいるけれど、下手をすれば落ちても不思議はないレベル」だという。それだけに現状では、チームへの貢献を考えながらも個の力をアピールし、一刻も早く1部上位チームへの参戦を狙っている。

■ポルトガルから移籍してきた相馬
また同じくブンデスリーガ2部のコットブスでは、ポルトガル1部のマリティモから移籍してきた相馬崇人がプレーしている。背番号7が示すように、本来はレギュラーだったようだが「前の試合で出来が悪くて、監督の機嫌を損ねちゃったようです」と、22日に行われたオスナブルック戦はベンチからのスタートとなった。

もっともスタメンの左SBと比較すれば、力の差は歴然としている。さすがにゼイス監督も1点を追いかける展開で、57分に最初の交代カードに相馬を選択した。個で打開しようとし過ぎて監督の逆鱗に触れたシーンもあったようだが、チームのメンバーを見渡す限り基本的なテクニックの質は際立っていた。

「ボールを失わないという点では、ポルトガルの方が断然上。でも守備やカウンターで点を取ってくるという部分では、こちらの方が上だと感じる瞬間もある。どちらがレベルが高いかは、どこを見るかによるからなんとも言えませんね」