ITベンチャーへの転職を選択したM.Nさん

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若手でも市場価値の高いキャリアを獲得できる機会があるIT業界。20代の前半からPLとして活躍してきたM.Nさんもそのひとり。そんな彼が大手コンサルファームからの高額オファーを断ってベンチャーに飛び込んだ理由とは……

エンジニアに限らず転職希望者の目的のひとつに、収入のアップがある。自分の公正な対価を求めるのは当然の要求だし、少しでもよい条件を求めるのは自然な期待だ。そして、チャンスと才覚に恵まれたうえに本人の努力が伴えば、若手でも高額な所得が可能なのがIT業界。20代前半から難度の高いプロジェクトをリーダーとして幾つもこなし、30歳のときの転職活動で大手コンサルティングファームから1000万円を超える年俸を提示されたM.Nさんは、その典型例といえるだろう。ところがM.Nさんはそのオファーを断り、約半分の提示額を示したベンチャーを選択した。彼は何を考えて高収入を選択しなかったのだろうか?

■転職前編 会社に見切りをつける。
2回目の転職を思い立ったのは、決して膨大な仕事量や深夜残業の連続に嫌気がさしたわけではない。残業だけだったら、新卒入社した中堅SIerのA社のほうがすごかった。入社後1週間の研修を終えて、プログラマとして配属されたプロジェクトでは、まるまる2カ月間もオフィスに泊まり込んだ。机の下で眠る毎日。家に帰れたのは6月に入ってから。まあ、体力には自信があったし、その後にさまざまな業務を押しつけられたけれど、四苦八苦しながら何とかこなしてきた。新卒入社半年後には、上流工程を進める立場にいた。今から思えば無茶苦茶な話だ。経験も実績もない新人に、A社は請け負った大手企業や官公庁のシステム開発の基本設計をさせていたのだから。誰も頼れない。自分がやるしかない。開発手法や業務知識を頭に詰め込み、現場では先方対応とメイクのサポートに追われる毎日だった。でも、それが5年も続けば最終的にどのプロジェクトもこなせるようになったし、自信にもなった。

仕事に追われる日々の割に収入は伸びない。結婚を転機により良い収入を求めてA社からの転職を考えた。そのときに、声をかけてくれたのがB社の社長だった。以前のプロジェクトで面識があり、自分の顧客対応力を買ってくれて、ぜひウチに来てもらえないかと誘われた。年俸も100万円のアップ。さらに残業代も出すという。そうした好条件も魅力だったが、何より彼に期待されていること。そして会社を一緒に大きくしていこうという経営者としての意欲に心を惹かれた。だからほかからもあった誘いを断り、B社に入った。そして頑張った。教育系企業の財務会計システムや金融系企業の基幹システムの構築にPLとして参画し、そのいずれも成功させた。そのかいあって、B社は飛躍的に成長した。でも、いつしか空虚感が漂い始めた。B社の成長を自分だけの手柄と考えているわけではない。でも、会社の規模が拡大し、大手から随意契約的に依頼が舞い込むようになると、社長の人柄が変わった。現場をまったく見なくなってきたのだ。それどころかコスト削減を現場に要求するようになった。十分に儲かっているのは明白。それなのに、「人数をかけるな」「利益率を上げろ」と言う。揚げ句の果てに、トラブルが起きたら現場をフォローするどころか社内の担当者を罵るばかり。優秀な社員はどんどん辞めていった。残ったのはイエスマンばかり。エンジニアとしての成長を怠り、仕事がほとんどできない役員たちだ。個人的に誘われたこともあって辞めにくかったが、もうついていけない。

■転職活動編 高待遇か、やりがいか。
B社を辞める決心がついたところで、転職活動に取り掛かった。プロジェクトリーダーとしてやっていく自信はあった。A社でもB社でも、ほとんどPM的なポジションだった。それでも、もっとマネジメントスキルや経営スキルを磨きたいという希望をもった。