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自宅で同居していた父親を殺害したとして殺人の罪に問われている男の裁判員裁判で、熊本地裁は男に懲役11年を言い渡した。

【写真を見る】被告と父親が暮らしていた住宅・送検時の被告(2023年9月撮影)

逮捕当時、警察の調べに対して「父親に恨みがあった」と話していた男。裁判で男は、その動機として30年間の親子関係を語った。

おのを父親の顔に何度も

判決などによると、熊本県八代市坂本町の無職、志水友和(しみず ともかず)被告(48)は2023年9月21日未明、自宅で同居する父親の正春(まさはる)さん(当時73歳)の顔面をめがけておのを何度も振り下ろし、殺害した罪に問われている。

父親の顔面には少なくとも9か所の傷があり、死因は出血性ショックだった。

志水被告は殺害後、父親の現金と車を持ち出して車中泊しながら過ごし、3日後に警察署へ自首。警察官が、志水被告の自宅でおのが刺さったままの父親の遺体を発見したため、志水被告を緊急逮捕した。志水被告は2023年12月に殺人罪で起訴された。

法廷に現れた志水被告は1年前の送検時よりも短く刈り上げた頭に茶色のメガネをかけ、グレーのジャケットを羽織っていた。裁判長から起訴内容について問われると、「間違いありません」と短く答えた。

弁護側も起訴内容を認め、裁判は志水被告の量刑が争点となった。

浴槽に閉じ込められ、進路は断たれ…やがてうつ病に

弁護側は裁判の中で、志水被告と父親の関係について「普通の親子関係とは言い難い」と述べた。被告人質問でも、その一部を証言した。

【弁護側の質問】

――過去にお父さんからどんな暴力を振るわれましたか?
被告「殴る、蹴る、杖で殴られるということが日常的にありました。浴槽に入れられ、フタと重しを置かれて2~3時間放置されることも度々ありました」

――進学でもめたことがあったようですね
被告「看護の大学に行きたかったのに、高校3年の頃、父親に『大学に行かせるお金はない』と言われました。就職活動の時期はすでに過ぎていて、自分が進学準備をしていたことは知っているはずなのに『なんで今言うのか』と」

――高校の学費は払ってもらっていましたか?
被告「いいえ。卒業の日に学校から『授業料が納入されていない。このままでは卒業できない』と言われ、父親には取り合ってもらえず、近所の人に借りて何とか卒業しました」

――借りたお金はどうしましたか
被告「高校卒業後、アルバイトをして返しました」

高校卒業後、神奈川県でバイトを掛け持ちして働いていたという志水被告。しかし2011年に過労で倒れ「うつ病」と診断されてからは再び地元に戻ることになった。生活保護を受けたり、職を転々としたりしていたが、やがて働けなくなり自殺未遂に及ぶこともあったという。

父親には実家で暮らすことを拒否されていたものの、妹の協力もあり2023年から実家で父親との2人暮らしが始まった。

事件はその1か月後に起きた。

検察側「食事を用意してもらったことについては?」

志水被告の実家は八代市の山中にある。ハローワークに行くため、父親に車を貸してほしいと何度か頼んだものの断られていたという。

【検察側の質問】

――同居している間の食事は
被告「父が作ったものを食べていました」

――家や、食事を用意してもらったことについて「ありがたい」とは思いましたか
被告「その点については感謝しています」

事件の1週間前、父親の「飯を食わせてもらっているのに仕事をしない」という言葉をきっかけに口論となり、志水被告は家出する。実家に隣接する納屋で寝泊まりする中で、現状から逃れようと再び自殺の準備を進めていた。

しかし9月21日、水を飲むために母屋に入ったところで、玄関にあったおのに目がとまった。

【弁護側の質問】

――その時、どう思いましたか
被告「これなら父親を殺せるかもしれない、と思いました」

――なぜそう思いましたか?
被告「苦しい状況から逃れたい。父親がいなくなれば、この苦しみから解放されると」

検察側「後悔はありますか」被告の答えは

おのを手に取った後、志水被告は1~2時間葛藤した。「父親の様子を見て判断しよう」と考えて向かったリビングで、いびきをかいて寝ている父親を見た時に殺害を決意したという。

【検察側の質問】

――なぜ殺害を決意したのですか
被告「自分はこの1週間、水だけで何も食べていないのに、焼酎を飲んで、いびきをかいて、気持ちよさそうに寝ていたからです。なんで自分だけ辛い思いをしなければいけないんだと思いました」

――後悔はありますか
被告「はい、法を犯し、殺人という行為を選んだことに反省と後悔があります」

――被害者に対して、申し訳ないとは
被告「…申し訳ないという気持ちは大きくはありません。父が死に、解放されたという思いがあるので」

求刑は「懲役14年」

論告求刑で、検察側は「寝ている無抵抗な父親に対しておのを振り下ろした。強固な殺意に基づく執拗で残虐極まりない犯行」と主張。「父親による過去の暴力は許されるものではないが、殺人を正当化する理由にはならない」などとして、懲役14年を求刑した。

一方、弁護側は「極限の精神状態の中とっさに起こした行動で、計画性はない」として、懲役7年程度が相当だと主張した。

裁判長から「最後に言いたいことはないか」と問われた志水被告は、少し間を空けてから「殺人という重い罪を犯したことを償うため、これから反省しようと思います」と答えた。

「理不尽な扱い 一定程度考慮できる」とするも…判決は

11月14日の判決で、熊本地裁の中田幹人(なかた まさと)裁判長は志水被告に懲役11年を言い渡した。

中田裁判長は判決理由で「苛烈かつ残忍な犯行、衝動的な怒りに駆られた強固な殺意があった」とする一方、「幼少期から理不尽な扱いを受けて長年にわたり恨みを募らせていたうえ、犯行当時は追い詰められた状況であったことは一定程度考慮できる」と述べた。

判決を読み上げた後、裁判長は志水被告に対して「お父さんの命を奪ったという自分の行為、罪の大きさに向き合ってほしい。どのような償いをするべきか考え続けて」と諭した。