韓国出店で鳥貴族が271分待ちの大行列 過去には吉野家や丸亀製麺が撤退も…日本外食チェーンの進出事情
土曜夜の大行列
日本の外食チェーンが、海外に進出することは今では珍しくない。だが、その国の“舌”にあったサービスを提供できなければ、たとえ日本の有名店であっても苦戦を強いられるのは必至。さらに韓国に関しては、そのお国柄ゆえの特殊なハードルもあって……。ジャーナリストのノ・ミンハ氏が、日本の外食の韓国進出事情をレポートする。
***
【写真】かつて「丸亀製麺」があったところには謎のうどん屋が… ほか
9月28日、若者や外国人観光客で賑わうソウル・弘大エリアの地下鉄2号線弘大入口駅の近くに「鳥貴族」がオープンした。そのおよそ一週間前に開店した台湾・台北市の店に続く海外2店舗目となる。
来日した韓流アイドルが訪れるなど、韓国でも高い認知度を誇っている鳥貴族。進出は、今年7月に韓国の日刊紙で先に報じられていた。報道によると、鳥貴族ホールディングスは5月に100%出資の韓国法人「鳥貴族コリア」を設立していたという。
韓国進出のニュースに、大手ポータルサイト「ネイバー」のコミュニティやSNSなどは大盛り上がりだった。「日本旅行で食べた鳥貴族の味をまた味わいたい」「韓国の居酒屋では1品5,000ウォン(556円)が相場だが、鳥貴族ならコスパがよさそう」と期待の声が多く寄せられた。
予想どおり、オープン直後から人気は高く、韓国経済新聞は〈10月3日、午後10時に訪れると、ウェイティング(入店待ち)番号が80番台だった〉〈平日の夕方でも100組以上が並ぶ」と報じた。韓国のレストラン予約アプリ「キャッチテーブル」を見ても、土曜日の20〜22時の想定平均待ち時間は約271分で、76組が並ぶと見込まれている。
一品あたりのお値段は、日本の均一価格の370円に比べてやや高めの4,900ウォン(約545円)に設定されているが、キャッチテーブルの評価は5点満点中4.4と好評だ。韓国の焼き鳥店に比べれば割安で、なによりも日本の“本場の味”を楽しめる。「待ち時間が長くて値段が高くても価値がある」という声も少なくない。
筆者も週末に何度か訪れようと試みたが、長い待ち時間に断念した。店舗が位置するのはメインストリートの「歩きたい通り」ということもあって人通りは多く、入店待ちの列は絶えなかった。開店から1カ月を迎えてもその勢いは衰えず、現時点での鳥貴族の韓国出店は大成功といえるだろう。
スシロー新店も盛況 韓国人の5分の1が日本の味を知っている?
鳥貴族のオープンから2日後の9月30日には、韓国10店舗目となる「スシロー」が明洞にオープンした。2011年に初進出し、現在、首都圏に6店舗、釜山市などに3店舗を展開している。特に「永登浦タイムズスクエア店」は、週末ともなると行列ができるほどの人気だ。オープン15日目に明洞の店舗に行ってみたが、やはり昼時には大勢の客で賑わっていた。欧米人観光客の姿も多く見られた。
世界日報が韓国観光公社に調査を依頼し、10月17日に発表した「国民海外観光客統計」によると、今年1月から8月まで日本を訪れた韓国人観光客は581万1,911人。コロナ禍の影響で、2020年には48万7,939人、2021年には1万8,947人、2022年には101万2,751人まで落ち込んだところから、2023年には695万8,494人にV字回復。このペースでいけば、2024年には約1,000万人の観光客が日本を訪れると予想されている。
これは人口に換算すると、韓国人の約5分の1が日本を訪れることになる。それだけの人が“日本の味”を知ったわけで、それを自国でも食べられるとなると、人が集まるのも当然だ。鳥貴族とスシロー明洞店のスタートダッシュは、ニーズを的確に捉えた結果といえる。
過去には吉野家が撤退…キムチを別注文にしたから?
とはいえ、これまで日本の外食チェーンの多くが、韓国に進出するも長続きせずに撤退していた。たとえば「吉野家」は、韓国の大手企業「斗山」と提携し、1996年にソウル地下鉄2号線江南駅に1号店をオープンした。繁華街に130席を構える大型店舗での進出で当初は人気を博し、1997年末までに全国に10店舗を開店する計画も立てられた。
ところが、およそ2年後の1998年4月に、フランチャイズ契約を破棄して吉野家は撤退した。1997年末に通貨危機に見舞われ、韓国の経済状況が悪化し、提携していた斗山グループの負債比率が600%に達していたというのが主な原因だ。一方、吉野家の韓国進出の失敗に、他の理由を見出す指摘もある。
フランチャイズ専門家ユ・ジェウン氏が2000年に出版した『韓国市場のフランチャイズ戦略』によると、吉野家の失敗は「価格は一見、リーズナブルに見えるが量が少なく、韓国では無料で提供されるスープやキムチを別途注文しなければならないため、実際には高く感じられたのでは」と分析している。また「日本での成功だけを信じて、プルコギの味を韓国にそのまま持ち込んだことが失敗の一因」とも指摘している。
日本不買のあおりを受けた
「ほっともっと」も今年1月に韓国から撤退した。2012年に江南区狎鴎亭洞に直営1号店をオープンし、当初は「今後200〜300店舗を韓国にオープンする」という目標を掲げていたが、フランチャイズ展開が不振だった。
筆者もフランチャイズに力を入れ出した2016年頃に、明洞近くの地下鉄2号線乙支路入口駅近くにあったほっともっとで弁当を購入した記憶がある。クオリティは高いものの、値段に対して量が少なく、「おなかがすいたときに食べる弁当ではない」と感じたのを覚えている。特に韓国には、同じくらいの価格で量が多い「ハンソッ弁当」などのライバルチェーン店がすでに存在していたから、撤退も当然の結果に映る。
「丸亀製麺」も韓国から撤退した企業のひとつ。進出当初は高い人気で、韓国で12店舗を展開していた。だが、日本の輸出管理規制に反発して起きた2019年の“日本製品不買運動”の影響で売上が落ち、その後は回復したものの、コロナ禍のあおりを受けて2021年8月に撤退した。
寿司チェーンも明暗
実は先述のスシローの進出も順調とはいい難い。2011年に韓国に上陸した際、運営会社「スシロー韓国」は、「2016年までに58店舗、2018年までに80店舗を展開する」という目標を掲げたが、現在営業中の店舗と、閉店した店舗を合わせても19店にとどまっている。
なぜ想定ほどの人気を得られなかったのか。「日本のスシローのほうがはるかにおいしい」という声は無視できない。日本と韓国の味の違いが大きく、期待外れだと感じる人が多かったのだろう。日刊紙の文化部記者もこういう。
「韓国には低価格の寿司チェーンが多い。スシローはそれに対抗するため味よりも低価格を優先した結果、日本のスシローよりも味のレベルが劣っていた。同様に『かっぱ寿司』も、韓国ではあまり人気がない」
実際、かっぱ寿司は2009年に釜山に1号店をオープンしたものの、現在は全国に4店舗を構えるのみ。かろうじて生き残っている状況だ。
一方、しっかりと足場を築いたチェーンもある。
「韓国の寿司マニアの中には、スシローよりも若干高いけれど、日本の味と大きな差を感じないという理由で『がってん寿司』を好む人が多い。韓国では大型マートや空港、デパート、繁華街などで25店舗を営業しており、集客力も高い」
筆者も何度か日本人の知人を韓国のがってん寿司に連れていったことがある。皆「日本で食べているおいしい寿司と同じ」と高評価だった。
韓国で定着した日本の外食チェーンでは、この「がってん寿司」と「 CoCo壱番屋」、「モスバーガー」くらいが成功例といえるだろうか。
鳥貴族に関しては成功するという見立が根強い。先の記者はこう分析している。
「長期的な成功のカギは、やはり定期的に高まる“反日感情”を克服するほどの高いクオリティでしょう。そして、適正な価格、効果的なマーケティングということになる。しかし何より、市場を先占している韓国の有名チェーンが存在しない分野に進出することだと思う。鳥貴族の焼き鳥やCoCo壱番屋のカレーライスのように、韓国内で知名度が高い競合ブランドが存在しない、いわば韓国の空白分野なら、長期的に成功する可能性が高い」
ノ・ミンハ(現地ジャーナリスト)
デイリー新潮編集部