銀シャリ・橋本直さんに「食」のこだわりと店選びのポイントを聞いてみた!「神ツッコミ」満載の初エッセイ本も売れ行き好調
橋本直(はしもと・なお)。1980年生まれ。兵庫県出身。関西学院大学経済学部を卒業後、2005年に鰻和弘さんと「銀シャリ」を結成し、2016年に「M-1グランプリ」で優勝
●初著作『細かいところが気になりすぎて』を上梓した漫才コンビ・銀シャリの橋本直さんに、食へのこだわりを聞いてみた!
2016年に「M-1グランプリ」で優勝して以来、ワードセンスに満ちた「神ツッコミ」で幅広い世代から人気を集める、銀シャリ・橋本直さん。雑誌『波』で連載していたエッセイに書き下ろしを加えた全20編を収録した初著作『細かいところが気になりすぎて』(新潮社)を上梓しました。
日常のちょっとしたツッコミポイントを見逃さずに確実にツッコミ続ける橋本さん。エッセイには、立ち食い蕎麦屋さんに行ったときの珍事や、大好きなラーメンの驚きのエピソードなども多数収録。そんな橋本さんに「食」へのこだわりや好きなお店について聞きました。
文章は永遠にツッコめるんでやりすぎた
『細かいところが気になりすぎて』には相方・鰻和弘さんの4コマ漫画も掲載。「読んでインスパイアしたものを描いてくれて。これだけ漫画を描ける才能があるっていいですよね」と橋本さん
――初のエッセイ本ですが、エッセイでも最初から最後までずっとツッコんでいますね。漫才のツッコミと書くときのツッコミの違いはなんでしょうか。
テレビでは他の人がしゃべってる合間を縫って、「一言で落とさな」とツッコむんですけど、文章は永遠にツッコめちゃうんで、歯止めがきかない。テレビだったら1つ例えて終わりのところを、エッセイでは3つぐらい違う表現で例えちゃったところがあるんで、やりすぎたなと思いましたね。
――やりすぎたんですね(笑)
でもデトックスできた感じがあります。ふだんは抑えているんで。
――全部出し切ってみて、改めて書くことは楽しいと思えましたか?
字面の感じでボケたりツッコんだりできる要素は楽しかったです。でも「これでちゃんと情景が浮かぶかな?」と考え出すと説明がくどくなってしまう。そこは難しかったですね。
僕の人生において「食」がだいぶ占めてる
ツッコミだけでなく文章力を絶賛する声多数。雑誌「波」での連載時からSNSで話題に。
――ラーメンなど「食」をテーマに掘り下げた作品もたくさん収録されてますよね。
自分では意識してなかったんですが、連載のときは食べ物の話が連続してしまい、「また食べ物!」と編集者さんによう怒られました。それぐらい食べ物が好きなんですよ。僕の人生において「食」がだいぶパーセンテージを占めてる。大事なものだから期待するし、その分、裏切られたときの切なさも大きい。(相方の)鰻はそれがないんです。僕は地方に行くとその土地のおいしいものや名店を調べるけど、鰻はどこにいてもチェーン店に行くので。
――「汁」という作品がアツかったです。牡蠣の描写で「鼻孔からラッセンが如く海のお出汁のイルカが飛び出しそう」という表現が秀逸すぎて何度も読み返して笑ってしまいました。
「ラッセンが如く……」というのは、ラジオでも言ったことないから、文章を書いててそう思ったんでしょうね。そもそもタイトルが漢字一文字で「汁」のエッセイってないですよね。
――食べている最中からツッコんでるんですか? それとも後から味を思い出してこんな表現が出てくるんでしょうか。
いや、思い出した時ですね。食べてるときは直感的な感動があるじゃないですか。それを他者にどう伝えるか、あとで考えたときにそういう表現になったんです。1人で食べてるときに「ラッセンが如く……」なんて言い出してたら僕ヤバイですよ(笑)
――1人で食べるときはどういうふうに食べてらっしゃるんですか?『孤独のグルメ』のようなナレーションが頭をよぎるとか?
そんな感覚に近いかも知れないですね。「アタリ」のお店を引いたときはもう楽しい。このあいだ神戸で初めて入った店はアタリでした。仕事で夜中に神戸に着いて、遅くまで開いている店の中から直感で入ったら、お刺身からイタリアンまでメニュー豊富な店でどのメニューもおいしくて。
「突き出しのパクチーのサラダは全部食べずに取っておいて、餃子を注文したときにパクチーをのっけて食べたらいいな」とか「餃子のタレはこっちの料理にも合うな」とか、組み立てを考えてたらどんどんおもろくなってきて、食べながら脳内に浮かんだことを全部書き出してみたんです。そしたら、またエッセイ本ができるな。ガイドブック的な本にもできそうだなと思って、そのとき初めてバーって携帯にメモりました。
――「初めてメモった」ということは、ふだんはメモせずに記憶の中に残しておくんですね。
そうですね。写真もあまり撮りません。最近は食べることが楽しすぎて、しゃべりたなってきました。「見せたい」じゃなくて「しゃべりたい」んです。後輩たちと行った居酒屋でも一応後輩くんに「料理の写真、撮っといてくれへん?」って頼むんですけど、YouTubeみたいに食べてるところを動画で回されるのは面倒くさい。食べ物に集中したい。だから、動画じゃなくて写真としゃべりで伝えたいなと思ってます。それか写真もなしで、ラジオみたいにしゃべりだけで伝えるのもアリかな。見せるより言葉で脳内を刺激した方がウマそうだなと思って。
メニュー表の語感も気になる、手書きのメニューが好き
「整ってはいないけど、それがそこにあることによって全体的に調和されているというようなバランスが取れている店が好き」と独特の表現で好きな店を熱弁
――どんなお店が好みですか? 入る・入らないはどう決めていますか?
おいしいお店に詳しい芸人さんの口コミが一番確実ですね。あとは、お店のサイトで内観の写真をよく見ます。汚すぎずきれいすぎない絶妙の味がある店が好きですね。料理は見たことがない未知のもの、想像の1個上を超えて来そうなものが気になります。メニュー表の語感も気になる。「おにぎり」と書かれるより「塩むすび」って書かれるほうがテンションが上がるじゃないですか。そもそもおむすびって塩が入っているのに、わざわざ「塩むすび」と書いてある……(笑)。ということは素材を大事にしてるのかなととか思いますね。
――言葉に敏感ですからメニューは重要ですね。
メニューはパソコンで書いてあるより、手書きがいい。朱色で二重丸が書かれている「おすすめ」とか、あの感じがいい。竹筒に入ってたりすると広げてもクセついてるから、なかなか難しいとこありますけどね。だから、QRコードやタブレットの注文はちょっとだけ切ない。便利だし人件費の事情もわかるんですけど、店員さんと「これ、量多いですか。1人で食うんやったらどうですか」といった会話もしたいんです。
――わかる気がします。では、ハズレの店に入ってしまったときはどうでしょう。料理を残してしまうことは?
あんまりないですけど……ただ、料理が残念すぎて、お腹いっぱいなのにもう一軒行ったことはあります。リセットしたくて。
――嫌いな食べ物、食べられない食べ物は?
何もないですね。きれいに食べるとおばあちゃんとおじいちゃんが褒めてくれてたから、料理の脇にあるパセリや大葉、エビの尻尾まで食べます。お腹いっぱいでも全部食べるから太ってるんだと思います(笑)
新婚ホヤホヤ、毎日家で食べてたらもっと痩せられるのに
「妻はさつまいもアンバサダーなのでサツマイモを育てているんです。でも僕はイモはそんなに食べないですね……」とつぶやく橋本さん
――2023年にご結婚されましたが、食生活は変わりましたか。
仕事で地方に泊まることが多いんですが、家で食べるときは野菜を巧みに使ってくれて、おいしくてヘルシーなものを作ってくれるのでありがたいですね。毎日家で食べたら、もっと健康的に痩せていくと思う。
――奥様は鹿児島出身ですよね。味の好みの違いなどはありませんか。
鹿児島で「あくまき」(※)という郷土料理を食べたときに、「これはわからん」と思いました。味が難しい。あれはわからない(笑)
(※)木や竹を燃やした灰からとった灰汁(あく)にもち米を浸した後、竹の皮で包んで灰汁水で煮込む鹿児島の餅菓子
――橋本さんは兵庫県出身ですが、関東の出汁には慣れましたか。
関西人なのに濃い味が好きなので、関西にいるときから「テレビで見た関東の真っ黒な蕎麦つゆを飲んでみたい」と憧れてました。関東も関西もどっちも汁ものは好きです。
――最近ハマっている食べ物は?
『晩酌の流儀』(テレビ東京系)というドラマで「切り干し大根ペペロンチーノ」を見て、「これうまそうやな」と作ってみて、だいぶブームが来てます。それと最近、筋トレを始めたのでゆで卵にもハマってます。半熟とカチカチの間ぐらいのゆで具合が一番タンパク質を吸収できるらしいです。塩をつけて食べてます。
――筋トレを始めた理由は?
YouTube(銀シャリチャンネル)の企画ということもありますけど、もともとやりたかったんです。「人生で一回、筋肉がある自分になってみたかった」という感覚があって。サッカーとフットサルは趣味で続けているんですけど、それと筋肉はまた違う。家にもダンベルとベンチプレスなどの器具を置いてやってます。
――筋トレ中だとお好きなラーメンは……。
控えてますねぇ。最近は蕎麦ばっかり食ってます。蕎麦も大好きで、現場近くの蕎麦屋を調べて4日、5日連続ぐらい蕎麦です。新宿のルミネ(ルミネtheよしもと)の出番の合間に行った山形蕎麦の店では、みょうがと大葉がたっぷりかけられた肉蕎麦がおいしかった。京都ではなめこつけ蕎麦、有楽町ではせりカレー蕎麦を食べました。
ぼんやりしたい容量を空けないと入ってこない
「お酒も好き。お酒はそのときのご飯に合わせて何でも飲みます。『アメトーーク!』(テレビ朝日系)でも『家飲み楽しい芸人』として出演させてもらいました」
――食はもちろん、読書もお好きですし、テレビも地上波は全番組を録画してたくさんチェックしていらっしゃいます。たくさんのことをして、さらにツッコミも入れて、頭の中はいつもフル回転ではないでしょうか。ぼんやり過ごすことはありますか?
ぼんやりしたいですね。ぼんやりしないと入ってこないんでね。仕事が詰まりすぎて忙しいときは、ゾーンに入るので、夜中までして仕事して寝ずにまた仕事に行って、脳がグルグル回って調子がいいときもあるんすけど、どこかでガソリンが切れたみたいになるので、やっぱり容量を空けないと次のものが入ってこない。
「録画した番組、これとこれとこれ見た。新刊でこれ読みたい。ネットフリックスはこれとこれ、めっちゃ楽しいやん」みたいなポジティブなときはいいんですけど、「これ見なあかん、一応チェックしとかなあかん」というときは調子が悪い時ですね。年齢的にも時間はそんなにないので、「見なきゃあかん」という義務を感じたら、一回その義務感をちょっと置いていいかなと思う。
――確かに、楽しみが義務感に変わることってありますよね。
自分がご機嫌であることが最強なんでね。世間が「いい」と言ってるからといって、自分がときめかないものを見るのは一番ムダかもしれません。全12話のドラマで「5話まで我慢して見てみて、そのあとおもしろくなるから」とかおすすめしてくる人いません? けど、5話まで我慢せなあかんドラマってよくないんちゃうか(笑)とか思ったりね。
――『細かいところが気になりすぎて』には、自分との対話にじっくり取り組むために熱海に一人旅に行ったときのエピソードも綴られています。そのときにノートを持って行ったと書かれていますが、頭を整理するために手書きのノートを常に持ち歩いているのでしょうか。ネタも書いたりします?
いや、あれは改めて自分と向き合うために、思いついたものを走り書きでワーッと書くつもりでノートとペンがいいかなと思ったんです。ノートにセリフを全部書くみたいなネタ帳はだいぶ前にやめました。今は携帯のメモ帳にテーマとなる単語を3個くらいメモって、会話をこういうルートで展開したいかなと何となく決めて、鰻と一緒にヨーイドンでしゃべってみる。一発目のふんわりとしたやつをレコーダーにとることはあります。一発目に出たのがほんまのリアクションだと思うんで。この方法にしてから楽しくなりましたね。
結成20周年、どんどん楽しくなっている
漫才の話になると「楽しい」を連発する橋本さん。その楽しさが視聴者にも伝わってくる
――銀シャリは2025年に結成20周年を迎えます。鰻さんへの思いも『細かいところが気になりすぎて』に綴られていますが、この20年を振り返っていかがですか。
早かったですね。どんどん楽になって、どんどん楽しくなってるんで、これからもどんどん楽しくなると思う。キャリア重ねたほうが楽しいですね。
――それはすごいですね。ベテランになるほど「絶対にスベれない」というプレッシャーが増してくるのかと思いました。
体力がなくなってきてしんどくなるから、変なプライドや自意識にかまっていられない。そんなことで悩んだり揉めてもしょうがない。その日のコンディションがあるだけの問題だと長いことやってきてわかってるんで。明日直ってれば別にいい。それがラクですよね。
――あとがきにも「読者のみなさん、日常生活においてムカついたり、切なかったり、苦しかったりした時はその怒りを脳内で少しだけツッコミ口調に変換してみてください。それだけで少し、目の前で起きている事象が『ボケ』に見えてきますから」と書かれてます。この言葉はとても励みになります。
みなさんも自分のために日記を書いたり、聞く人がいなくても1人でラジオみたいにしゃべったりするとデトックスできると思います。この本が皆さんのモヤモヤを解消するヒントになったら嬉しいですね。食べ物の話もあって共感していただけることも多いと思うので、ぜひ読んでください!
●銀シャリ単独ライブツアー「シャリとキリギンス」
・2024年11月23日(土・祝)@大阪
前売:4500円/当日5000円
●銀シャリ産地直送漫才~47都道府県巡り~
・2024年11月24日(日)@熊本
・2025年2月2日(日)@愛媛
鰻特製ご当地ステッカーなどグッズも販売。
※詳しくはFANYチケットをご覧ください
(取材・文◎安楽由紀子)