「虫が出てきた」というX投稿が話題となったチロルチョコ。結果的に消費者の勘違いだったが、迅速かつ、消費者心理に寄り添った広報対応には「満点」「素晴らしい」といった声が寄せられている(編集部撮影)

人気チョコレート菓子「チロルチョコ」の商品内から虫が出てきた、というX投稿が話題になっている。チロルチョコ公式Xは、すぐさま「昨年以前の商品」との推察とともに、購入後に混入した可能性を示唆した。その後、投稿したユーザーが事実誤認していたとして投稿を削除し、企業側も経緯説明を行った。

チロルチョコの一連の対応に、ネットユーザーからは称賛の声が相次ぎ、よりブランドイメージを高めた印象を覚える。筆者はネットメディア編集者として、これまで数多くの企業炎上や、SNSからの“告発”を見てきた。とくに食品への異物混入はデリケートで、事実であっても、そうでなくても、メーカーのイメージダウンにつながりやすい。

そんな中、チロルチョコの対応は、筆者から見ても、満点を超えた「120点」のパターンに感じられる。そこで今回は、過去に起きた各社の異物混入事案も振り返りつつ、「なぜチロルチョコの対応が秀逸だったのか」を考えてみよう。

該当の商品は昨年以前に発売されたもの?

2024年11月4日、とあるXアカウントから「え待って……w チロルチョコに虫入ってたしかも生きてるし…」と投稿された。添付された動画では、青いパッケージに包まれたチョコレートの中で、幼虫のような乳白色の小さな物体がうごめいていた。

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チロルチョコ公式Xは、同日夜に「投稿主にDM(ダイレクトメッセージ)を送っている」としつつ、「毎年発売の季節商品と思われますが 今年は2週間後の発売のため、昨年以前に発売された商品と推察されます」と投稿した。


謝罪の言葉とともに、該当の商品が季節販売商品であること、今年は2週間後の発売であることを示し、昨年以前に発売された商品だったことを、初動のうちから示した(画像:チロルチョコ公式Xより)

さらに翌日には、投稿主本人と家族から謝罪連絡を受けたとして、「最近購入したという事実は誤認であること、ご自宅での保管状況がよくなかったこと」を続報として伝えた。


その後も、投稿が誤解に基づくものだったことや、保管状況が良くなかったことを逐一伝えた(画像:チロルチョコ公式Xより)

また、投稿主のアカウントでも、これと前後して「保護者」を名乗る人物から、「保存状態の悪いまま長期間保管していたもの」だったと、謝罪投稿がされた。


また、二重の誤解が生じていたこともあわせて説明した(画像:チロルチョコ公式Xより)

チロルチョコの一連の対応をめぐっては、「企業広報のかがみだ」「迅速な対応で素晴らしい」など、ネットユーザーから称賛の声が寄せられている。3連休中の対応ということもあって、そのスピード感に驚く声も多々あった。

過去にSNS投稿で発覚した食品への異物混入

食品への異物混入は、商品イメージの低下につながる。とくに虫などの生物が、製造過程で混入したとなれば、場合によっては一時的な生産中止も必要となる。SNS投稿で発覚した例として、最も有名なのが「ペヤングソースやきそば」の事案だろう。

2014年12月に、SNS上に虫が混入しているという画像が投稿され、製造元のまるか食品は生産と販売を中止した。当初は「製造過程で混入した可能性は考えられない」と全面否定していたが、後にその可能性を認めた。

2023年には、丸亀製麺の「シェイクうどん」に、生きたカエルが混入していたとSNSで動画投稿され、こちらも話題になった。同年には、サイゼリヤのサラダから、こちらも生きたカエルが出てきたとして謝罪した。

直近では、2024年5月に、「Pasco(パスコ)」のブランド名で知られる敷島製パンの一部工場で生産されたパン商品に、「小動物らしきものの一部」が混入していたと発表された。その後、その異物は「クマネズミの子ども(約60mm)」だと伝えられている。

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菓子メーカーも例外ではない。ちょうど11月7日には、菓子大手のシャトレーゼが、一部商品へのカメムシ混入について発表した。その前日に、フジテレビが「『2週間以内に原因報告』とするも連絡無く」と報じてからの発表となり、「弊社側のお客様対応におきましてご報告の大幅な遅れや不十分なコミュニケーションがあった」として、初動対応のミスを認めている。

ブランドイメージが損なわれないよう早急な対応が必要

食品への異物混入については、真偽はどちらにせよ、企業は早急に対応する必要がある。

事実であれば、即座に生産ラインを止め、必要に応じて商品回収を行わなくてはならない。また虚偽であっても、ブランドイメージが損なわれないよう、投稿者への対応に加えて、一般消費者への経緯説明も、同時並行で行う必要がある。

その点、チロルチョコの件は、初動からアフターフォローまで完璧と言える。投稿当日にすぐさま、企業側から投稿者へDMを送信した。あわせて動画の商品を特定し、今年は未発売の季節商品だと推測。これらを合わせて、ひとまずの現状報告として、公式Xに投稿している。

この投稿では、あわせて謝罪も行われているが、その言い回しを「投稿主様と皆様にご不快とご不安を与え大変申し訳ございません」とした点もポイントが高い。メーカー側で虫が混入した可能性にも配慮したのだろう。

投稿者の事実誤認を伝えた際にも、細かな気配りが見える。「弊社としてはご家族とご本人様からお詫びのご連絡を頂いておりますので投稿主様へのコメントやお問い合わせはお控え頂けますと幸いです」として、一般ユーザーからの“私刑”にクギを刺したのだ。

実際、今回の投稿については疑問の声も出ており、「あの投稿は確実に悪意ある」「デマを流した罪は重い」「営業妨害で訴えて、損害賠償請求もすべき」といった声がチロルチョコの公式Xにもリプライで寄せられていたが、“私刑”にクギを刺すことで、騒動自体が長引くことを防ぐことにつながった。


こちらがチロルチョコチロルチョコ株式会社が販売している。同社は社員数が約50人の、中小企業だ(編集部撮影)


チロルチョコは、2重に包装されている。チョコレート製造時に虫が混入してしまうならわかるものの、包装後に入り、コンビニやスーパー等で気づかぬうちに販売されることは、現実的に考えてあまりないような気も…?(編集部撮影)

ここまででも、炎上時の対応としては満点なのだが、まだ続きがある。

公式Xは11月7日、「ここ数日は楽しい気持ちになれない方もいらっしゃったかもしれませんが、弊社は『あなたを笑顔にする』をミッションとして掲げておりますのでまた皆様を『笑顔』にできるような商品や情報をお届けしていきます」と表明した。


(画像:チロルチョコ公式Xより)

そして「この後、さっそくワクワクなお知らせがありますので楽しみにしていてください!」と続けて、競合とも言える人気チョコ菓子「ブラックサンダー」とのコラボレーション商品を告知する。

もともとタイミングは決まっていたのだろうが、どんよりとしたフォロワーの気持ちを晴れさせる内容になった。

チロルチョコの広報スタンスは投稿者側の「事実誤認」

SNS上では、インパクトの強い画像や映像は、投稿後すぐさま拡散されてしまう。今回も虫がうごめく様子が投稿されたからこそ、より早く広まっていった。

投稿を発見し、事実を確認し、経緯説明し、必要ならば再発防止策を打ち出す。一連の対応を迅速に行えるかに、その企業の力が問われている。

その点、実はチロルチョコには、“前例”があった。2013年6月、今回同様に「チロルチョコの中に芋虫がいた」と拡散され、こちらも即座に公式X(当時Twitter)から「現在ツイートされている商品は昨年の12月25日に最終出荷した商品で掲載されている写真から判断しますと30日〜40日以内の状態の幼虫と思われます」とアナウンスされた。

続けて「詳しくはこちらのサイトをご覧下さい」として、日本チョコレート・ココア協会公式サイトの「よくある質問」ページへのリンクを投稿した。このページでは「なぜチョコレートやココアに虫がつくのですか?」「家庭で虫からお菓子を守るにはどんなことに気をつけたら良いのですか?」といった内容が説明されている。

これらの投稿の真意としては「投稿時点で最終出荷から半年近くたっており、幼虫の成長具合からすると、購入後に混入したと考えられる」といったところだろうか。あえて抽象的にすることで、言わんとしている内容をくみ取りにくくはなるが、一方で「トゲ」のない印象を与える。

今回の対応も、11年前のケースを参考にしているのだろう。

投稿者側がどれだけの悪意を持っていたか、はたまた勘違いだったかは不明だが、メーカーの広報スタンスは「事実誤認」で通した。そこには、食品を売ると同時に、その先にある「笑顔」を提供する自負が透けてみえる。

ネット民からは「投稿者に甘い」との声もあるが…

ネットユーザーからは「投稿者に甘い」との声もある。今後必要に応じて法的措置に出る可能性もあるが、あくまで広報上は、これが最適解だったと思われる。

チロルチョコの対応に、あらゆる企業のSNS担当者が学ぶところは多いだろう。


定番商品のほか、期間限定の商品も販売されている(編集部撮影)

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)