ゲーム機は没収すべき? 不登校の間、家ではどう過ごしたらよいのか「再登校」より優先したいこと
不登校になったとき、頼るべき相手は誰? 担任に相談しにくい場合は
「うちの子、不登校では?」と保護者が感じたとき、まずは誰に相談すべきでしょうか。スクールカウンセラーとしての勤務経験がある公認心理師の吉田克彦さんは「まずはクラス担任へ相談を」とアドバイスします。「内容によっては担任に相談しにくい場合もあるでしょう。その際は、学年主任や養護教諭や管理職でも構いません。普段のお子さんのことを分かっていて、学校の状況や家庭環境もわかっている人が理想です。スクールカウンセラーへの相談もいいですが、平日昼間の対応がメインですから、共働きの保護者が通うのは難しいかもしれません。その場合は、平日の夜間や土日に相談できる民間のカウンセリングもおすすめします」
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不登校の引き金となった原因と、親子関係の再構築の両方からアクションを
子どもが不登校になると、保護者は「なぜ不登校になったのか」と原因を追究するでしょう。吉田さんは「不登校の引き金となった原因と、親子関係の再構築の両方から探るのが大切」と語ります。「不登校の原因を探るときに注意したいのは、水掛け論になることです。例えば、いじめ被害で不登校になったAさんについて周りに話を聞くと、『もともとは加害者だった』というケースはよくあるんです。Bさんたちにいじわるしていたけど、成長とともに立場が逆転したんですね。そうすると『Bさんたちは仕返ししただけ』となり、『どちらが悪いか』という水掛け論になってしまう。
そういうケースを踏まえると、不登校の原因をなくそうと尽力するだけでなく、『次に同じ状況になったときにどうしたらいいか』を子どもと一緒に考えるのが先決です。相性の悪い友達がいるのなら、クラスを変えてもらう。トラブルが生じたら、すぐに教員に相談する。そういった対処の仕方を共有しておくといいでしょう。
もちろん、いじめ初期の段階で介入していない学校にも問題があります。その経緯も踏まえて『じゃあ、今からどうするか』を考えていくことが重要です」
加えて、吉田さんは「家庭を見直す必要は必ず出てくると思ってほしい」と強調します。なぜなら、スクールカウンセラーや民間のカウンセリングに相談したとしても、面談時間は週に1度、1時間程度がほとんどだからです。
「子どもと多くの時間を共有する保護者との関わりは大きく影響するため、どう接すれば不登校のケアができるか一緒に考えていく必要があります。私の場合は次のカウンセリングまでどう過ごすか、週に1度の面談で作戦会議をして、子どもの自己肯定感を高められるような提案をしていきます。さまざまなカウンセリングの方法がありますから、まずはスクールカウンセラーなどに相談してみるといいと思います」
不登校の子どもが目指すゴールとは?「再登校」よりも優先したいこと
子どもが不登校になると、保護者は「再登校」をゴールに設定しがちです。しかし、吉田さんは「再登校にこだわると、子どものつらい気持ちに寄り添えない可能性がある」と警鐘を鳴らします。「子どもがいじめなどの被害にあっている場合、無理に学校へ行くように促すと、『学校に居場所がない上に、保護者の期待にも応えられない。自分は生きている価値がないんだ』と、最悪の場合は自死を選ぶケースもあります。子どもの背中を押すタイミングと見守るタイミングは、見極めなければなりません」
吉田さんが不登校のカウンセリングをするときには、「子育ての最終目標は何か」を保護者に問い掛けるそう。
「保護者は子どもより先に亡くなります。安心して死ぬためには、何が必要か。そう考えると、不登校のゴールは再登校ではなく、子どもの“自立”ではないでしょうか。であれば、自立のために必要な力を、保護者はじっくりと考えるべきでしょう。そこから子ども時代に学ぶべきことを逆算するといいのではないでしょうか」
ゲーム機を一時的に預かって生活にメリハリを作ることも必要
吉田さん自身は、子どもの自立に必要な力を「学力・体力・人間関係の三つだ」と考えています。学力に関しては、「再登校しなくても、勉強のツールは増えている」そう。「不登校特例校やフリースクール、適応指導教室もありますし、オンラインのフリースクールや家庭ツールを使うのも一つでしょう」
加えて、吉田さんは「家庭内でルールを作ることが重要」と語ります。
「スクールカウンセラーから、『子どもを見守りましょう』と提案されたので、本人の好きなように過ごさせている、と話す保護者がいますが、それは見守りではなく放置に近い状態です。家でリラックスするのはいいけど、勉強や運動する時間を取り入れるよう提案する。場合によっては、テレビのリモコンやゲーム機を、昼間の時間帯だけ保護者が預かってもいいでしょう。子どもが家で安全に過ごすルール作りをしながら、メリハリを作るといいと思います」
人間関係の構築に必要な力も、まずは家庭から見直せると言います。
「不登校の子どもは、本音と建前がうまく使えない子が多いです。小学校では『みんな仲良し。ウソはダメ』でよかったのが、年齢を重ねると通用しなくなって戸惑うんです。でも社会に出たら、本音と建前を使い分けることも必要ですね。
人とのコミュニケーションの取り方を、まずは家庭で学ぶ時間を作ってみましょう。不登校になると、昼夜逆転して家族の会話が少なくなることがあります。『朝はあいさつする』『食事は一緒に』などのルールを作ったり、ときには、保護者から子どもの好きなゲームを一緒に楽しむよう歩み寄るのもいいでしょう。その中で、子どもが『ノー』と意思表示したり、家族それぞれの意見をすり合わせたりする機会を持つといいと思います」
不登校になると、「これもできない、あれもできない」とネガティブになりがちです。そのような中でも子どもの自己肯定感が育つ仕掛け作りをすることが大切なのかもしれません。
取材協力:合同会社ぜんと代表 吉田克彦
精神保健福祉士、公認心理師。福島県出身。大学在学中に不登校や引きこもりの問題を抱える家族支援を目的としたNPO法人を立ち上げる。その後、スクールカウンセラー(小学校・中学校・高校)、東日本大震災被災地心理支援、一部上場企業の企業内カウンセラーなどを経て、個人向けカウンセリングサービスと企業向けメンタルヘルスサービスを提供する合同会社ぜんとを設立し現在に至る。「不登校なんでも相談室」を運営。
この記事の執筆者:結井 ゆき江
中学受験雑誌の編集者として勤務したのち、フリーランスの編集者・ライターとして独立。教育や生き方、地域情報などを中心に取材・執筆を行う。グレーゾーンの小学生をサポートした経験も。
(文:結井 ゆき江)