AIを活用して保険業務を効率化する動きが増えている(写真:Adobe Stock)

生命保険会社、損害保険会社問わず、「社会課題解決」が大きなテーマになっている。「週刊東洋経済」の臨時増刊「生保・損保特集号」は、保険会社の生き残りの条件となった社会課題解決への各社の取り組みをリポート。

さらに各社トップへのインタビューや、資産形成サービス、ヘルスケア、AI・テクノロジーなど最新の動きも網羅した。ここでは生損保各社におけるテクノロジー活用の最新動向を紹介する。

対話型AIアバターを活用


第一生命で試行中なのがAI集約型フレームワーク「デジタルバディ」と、対話型アバターのデジタルアシスタント「ICHI」(いち)だ。デジタルを活用して顧客に対する提案力を強化し、顧客との接点で満足度を高めるのが狙い。

前者は2026年度中の本格展開を目指して全国8拠点で試行中、後者は今年度下期でのビジネス検証の結果を受けて、実装のメドを検討する。

デジタルバディは営業職員の業務を支援するソリューション。営業職員は顧客と対面し、端末でAIアバターを使って会話する。音声録音に同意した顧客との会話はテキスト保存される。

ICHIは、対話型AIアバターの特性を生かした新たな顧客体験を目指している。ビジネス検証では、LINEでキャンペーンを実施したところ約40万人の「友だち」利用があり、ICHIとの会話(チャット)に臨んだ人は約1万人に達したという。


ICHIの活用で営業職員によるサービスやフォローの限界を乗り越える(右)。デジタルバディは全国の8拠点で試行中(左) (画像:第一生命)

ICHIは、対面営業に苦手意識を持つ人でも抵抗感なく交流できる。保険の話題に限らず、お金や生活にまつわる身近な疑問に答えてくれる。保険業法などとの絡みもあり、同社では現在、資料請求などのURLを提示する導線をイメージしている。

住友生命は質問コンテストで利用を促す

住友生命は23年にAIチャットシステム「Sumisei AI Chat Assistant」(SACA)を構築。生成AIに対する利用頻度を高め、習熟度を上げて業務改善や効率化に役立てている。今年は本支社などでSACAが使える職員を対象に活用のコンテストを実施した。

ポイントは設問の仕方であるプロンプトにかかっている。プロンプトとは、AIなど対話形式のシステムでユーザーが入力する指示や質問のこと。適切な応答や結果を生成するためには、明確で具体的なプロンプトが必要で、生成AIコンテストはプロンプトコンテストでもある。

4月から3カ月間開催した第1回コンテストでは81件の応募があり、VBA/マクロ、文書作成、アイデア生成関係の3分野で全体の約6割を占めた。10作品が最終選考に残り、「Teamsで集めた情報の整理・成果物化」が最優秀賞に選ばれた。

投票と同時にアンケートも実施した。AIの利用状況を知るためだ。それによると、コンテストの開催意義は多くの人が認めている。ただ利用頻度は「週に数回」「月に数回」が計約4割で、「利用度合いをさらに高めていきたい」(情報システム部)という。


日本生命はCopilotを活用

日本生命では、今年から全社の幅広い領域で300人を対象に生成AIを使った業務量削減の概念実証を行っている。初回のアンケート調査によると、約9割が日常業務での業務量削減効果を実感。削減効果は1日当たり平均18分になった。

この取り組みにはマイクロソフトがリリースした新サービス「Copilot」(コパイロット)が威力を発揮。オフィスソフトにツールボタンとしてコパイロットが付いているので、操作性に優れている。メールの文面などにも文書作成機能や要約機能が使える。24年7月からは「ニッセイ版チャットGPT」の運用を開始、2万人の職員が業務マニュアル照会などで利用している。


生成AIの利用頻度を上げて業務量削減をさらに推進するため、今期から各事業部門に対して最低1つは生成AIを使った課題解決の概念実証に取り組むようにした。予算取りはDX戦略企画部が行い、20テーマ程度の計画が出ている。資産運用部門では世界の市場情報やインシデント情報、企業のニュースリリースを生成AIが自動収集し分析する仕組みの構築に取り組んでいるという。

(福田 三郎 : ライター)