年収1000万でも「牛丼大盛」はムリ、再雇用後の楽しみは「イオンの発泡酒」…63歳現役大企業社員が「本当に使えるお金」
定年前の年収1000万円がもらい過ぎていたことは認めるが、通算で考えると割に合っていない……。現在、某大手企業で再雇用で働く酒井さん(仮名、以下同)が赤裸々に語ってくれた本音について、前編記事〈ぶっちゃけ、定年前の「年収1000万円」は「もらい過ぎ」だった…63歳現役大企業社員がそれでも「下の世代」に言いたいこと〉で紹介した。
本稿では引き続き、世間では「逃げ切り世代」と呼ばれている彼に、そのリアルな生活水準について教えてもらう。
聞き手:佐藤大輝(33歳・逃げ切れない世代)
牛丼並盛が限界だった
ーー酒井さんは「定年前の給料はもらい過ぎていた」ことを認めてますが、会社組織の中で「実力と年収がマッチするよう評価制度を変えていこう」といった流れは生まれないものなんですかね?
それは無理だと思いますよ。評価する側の難しさもそうですが、家庭という名の戦場があることも影響するでしょうから。会社では高給取りで、恵まれているように見える上の世代も、家庭内では最弱の立場だったり、搾取されている側だったりします。妻が専業主婦のリスクはここにある。自分は仕事仕事仕事……家のこと、子供たちのことは嫁さんに全部丸投げしてきた。結果、だんだんと嫁さんに頭が上がらなくなります。
私は妻から耳にタコができるほど「もっと稼いで来い!」「父親なんだから家族サービスするのは当たり前だろ!」「なんで物価が上がってるのに給料が上がらないんだ!」などと言われ続けてきました。あくまで同僚からの話を聞く限りですが、一家の大黒柱を献身的に支えてくれる嫁さんは3分の1くらい。普通の嫁さんが3分の1。残りの3分の1は鬼嫁という分布だと思います。このような状況で、自分たちの給料を下げる方向に話が進むわけがない。
ーー妻という名の鬼上司に見張られた、家庭という名のブラック企業で、昭和の企業戦士はもがき苦しんでいるわけですね。
働くことに対する感謝の気持ちもドンドン失われていきます。私は単身赴任生活を20年間ほど頑張りましたが、一時的にマイホームから職場に通っていた数年間、朝食は自分で用意してました。卵かけご飯を基本に、たまに納豆を付けたりして……。
平日の昼食はセブンのおにぎり2つだけ。吉野家か松屋に行くこともありましたけど、生卵やお新香は注文せず、並盛のつゆだくオンリー。本当は大盛が食べたいけど、お金がないから我慢するしかありません。当時の年収は1000万円近くもらってましたが、これが精一杯でした。
車のワイパーは錆びていた
ーー国税庁が発表した「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、全国の平均年収は460万円。酒井さんは平均年収の倍以上もらっていたわけですが、生活に余裕はなかった感じですか?
まったく余裕はなく、毎日がカツカツでした。台所で大根の葉っぱを育てたり、洗濯はお風呂の残り湯を使ってました。マイカーのステップワゴンは15年近く乗り続けました。ワイパーは錆びてましたが、お金が勿体ないので交換しません。臨時の出費がある際は実家の両親に「お小遣いください」と頼んだこともあります。もちろん妻には内緒です。
私には子供が3人いるのですが、上の子2人の歳が近いので、ここの学費はかなりキツかった。子供たちが「勉強したいから塾に行きたい!」って言ってるのに、「お金がかかるから塾には行くな!」とも言えないし……。結局、一番上の子は240万円。真ん中の子は480万円。奨学金を借りてもらいました。一番下の子だけは、なんとか全額学費を賄うことができました。
ーーサラリーマンのお小遣い平均額は4万円前後という調査結果もあるようですね。
私が自由に使えるお金は月3万円もありませんでしたよ。仕事の息抜きとして毎週金曜は職場の同僚と飲みに行ってましたが、ビールを頼むは1杯目だけ。すぐに焼酎か日本酒を頼みます。なぜなら安く早く酔えるからです。もちろん部下と飲みに行こうが、基本、奢りません。なぜなら奢る余裕がないからです。
自宅に常備しているお酒のストックは、焼酎やウイスキーなど度数の高い商品が多いです。4リットルなどお買い得サイズを中心に買ってます。少し贅沢したい日は、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」の発泡酒を家で飲みます。あれ、美味しいんですよね。
一度上げてしまった生活水準は落とせない
ーー反面教師みたいな形で、下の世代にアドバイスがあればお願いします。
これだけは覚えておいてください。一度上げてしまった生活水準は、そう簡単には落とせません。特に家庭を持つと、妻や子供たちの意見や生活もあるわけで、そうそう思い通りに事は運びません。休日も家族サービスがあるため、お金も時間もカツカツな状態がずっと続きます。
状況を打破するためには、かなり厳しいことは承知してますが、頑張って「暇な時間」を作るしかないでしょうね。例えば私は63歳になってからiDeCoを始めました。これで年間で4万円くらい節税できる。もっと早い内にやっておけばと後悔してるし、勿体なかった。iDeCoという制度自体は聞いたことがあっても、仕事漬けの毎日のせいで調べる時間がなかった。学資保険やNISAもやっておけばよかったなぁ。
追記:
筆者は先日、独身の男友達と2人でモンゴルへ遊びに行った。もし今後、互いに家庭を持ったとしたら、経済的にも時間的にも一緒に海外に行くことは難しくなるだろう。仮に家族と一緒に行くとしても、渡航先にモンゴルという国は選べない気がする。酒井さんの話を聞いて、今日も家族のために仕事を頑張っている全国のお父さんに、エールを贈りたいと心から思いました。