アフリカ人男性の「難民申請」認められる “3度目以降の申請者は送還可能”とする改正入管法に「警鐘」を鳴らす判決
10月24日、東京地裁は、アフリカ人男性が難民不認定処分の取り消しを請求した訴訟で、男性の請求を認める判決を出した。15年間にわたった、3度の難民申請を経ての結果となる。
政治的な弾圧から逃れるために来日本件の原告である男性は、母国で政党(現地野党)のサポーターとして政治活動していたことが原因で、現地政府から弾圧を受けていた。なお、男性の安全を守るため、具体的な国名は秘匿する。
男性は2006年から2007年にかけて、母国で3度逮捕された。
2008年5月には、現地では「収容施設」として知られる軍施設に連行されたが、施設内に知人がいたことにより逃走に成功。その後に出国し、同年10月に来日した。
2009年2月、男性は1度目の難民申請を行うが、2010年10月に不認定処分を告知される。同月に異議申し立てしたが、2012年2月に棄却決定が通知された。同月に2度目の難民申請を行い、11月に不認定処分が告知。異議申し立てを行うも、2015年11月に棄却決定が通知され、同月に3度目の難民申請を行った。
そして2016年6月、不認定処分が告知されたため、同月に審査請求を行う。2021年6月に棄却裁決が通知されたため、2016年における不認定処分の取り消しを求めて、今回の訴訟を提起するに至った。
今年6月から「3度目」以降の難民申請者の送還が可能に判決後の会見にて、原告代理人の渡邊彰悟弁護士は、本判決の意義は「3度目」の難民申請が認められた点にあると説明した。
これまで、難民認定の申請中は強制送還が停止されていた。しかし、今年6月に施行された改正入管法では「申請を繰り返すことで送還を逃れようとするケースがある」などの理由から、3度目の申請以降は「相当の理由」を示さなければ停止が適用されないことになった。
つまり、3度目以降の申請者は、入管によって母国に送還されるリスクを抱えた状態にある。
だが、今回の判決では、男性が母国に戻れば政治的な理由により「不当な身柄拘束や暴行等の迫害を受けるおそれがある」ことから「迫害の恐怖を抱くような客観的事情がある」と認められ、「入管法にいう難民に該当する」と裁判所によって認められた。
つまり、入管は、法的にも「難民」と認められる男性を母国に送還し、危険に遭わせる可能性があったということだ。
渡邊弁護士によると、今年に入ってから「3度目」の難民申請者に対する不認定処分が取り消されたのは、1月に名古屋高裁がミャンマーの少数民族「ロヒンギャ」の男性を難民と認めた判決に続いて、今回が2度目だという。
「3度目の申請者の中に、送還をしてはならない人が存在していることの何よりもの証左である。今回の判決は、改正入管法により3度目以降の申請者を送還可能としたことは非常に危険である、という警鐘になる」(渡邊弁護士)
男性の妻はいまも「母国の軍施設」に収容されている原告のアフリカ人男性は「長い間、この判決を待っていた」と語った。
「正直なところ、勝てるとは思っていなかった。日本の司法を信じられなくなっていた。しかし、今日、いままでの苦労が報われて喜びを感じた」(原告男性)
男性の妻は2012年に来日したが、2016年に帰国したところ、母国の空港で拘束され、現在に至るまで軍施設に収容されている。施設内で男性との子を出産したという。
男性には他にも数人の子がいるが、何年間も会えていない。「家族と離れ離れになることがなにを意味するのか、日本の皆さんにも理解してもらえると思う」(原告男性)
渡邊弁護士は、入管は難民申請者の調査にあたって諸外国の政治的な状況などの危険性を適切に判断してこず、また申請者を保護する意欲にも欠けているとして、難民認定制度は機能不全になっていると指摘した。
「日本の難民認定制度は国際基準に達していない。入管は出入国管理の都合ばかりを考えており、難民の問題に真正面から取り組む意志を持っていない」(渡邊弁護士)