若い男女の出会いを労働組合が支援(写真はイメージ)

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結婚した人の4人に1人はマッチングアプリが出会いのきっかけ(明治安田生命の調査)という時代。各地の労働組合が婚活支援に頑張っていることをご存じだろうか。

近年、加入率がめっきり減った労働組合だが、労働組合の本来の活動は「世話役活動といわれるようなお節介をする存在」なのだそうだ。

賃上げ闘争だけではない、組合員の人生に貢献しようとする労働組合の隠れたパワーを、連合総研研究員の中村天江(あきえ)さんが語る。

賃上げ闘争と婚活両立の理由は「交流こそ労働組合の価値」

連合総研主幹研究員の中村天江さんが、連合総研レポート「DIO」2024年8月・9月合併号に発表したのは「労働組合が『婚活イベント』を行なう是非〜背後にあるストーリーを探る〜」という報告だ。

最近も東京都が2024年9月から結婚支援のAIマッチングシステムを開始し、注目を集めているが、じつは労働組合の中にも婚活支援に取り組んでいるところが少なくない。

労働組合は賃上げなどの労働条件向上を追求する団体だが、労働者のつながりを基盤にするため、人々が集い、交流する活動(婚活)と相性がよい。

「それに、一般的な合コンと違い、参加者の身元がはっきりして、変なことが起きにくい安心感がある」として、中村さんはいくつかの労働組合主催の婚活イベントを紹介する。

電機メーカーの日本電気(NEC)労働組合本社支部(組合員約7500人)は、交流活動を重視しており、組合同士の組織交流のほかに、組合員の異業種交流も行っている。その1つが婚活イベントで、ここ10年間にのべ数百人が参加した。

ただ、自前だけで活動を継続するのは難しいため、j.union(ジェイユニオン、東京都新宿区)に協力を要請している。j.unionは労働組合に特化した総合支援サービスのコンサルティング会社だ。

こうした東京の大手労働組合とは別に、地方の労働組合でも婚活イベントが行われている。大分、山口、香川、新潟県における労働組合の地域団体の取り組みを紹介したのが【図表】だ。

大分県ではレストランでのカジュアルな交流会。性的マイノリティーの参加もOK。香川県の「恋GOパーティー」は、ラフティングやボウリング大会を行ない、ハロウィンやクリスマスと兼ねることも。新潟では年によってケーキづくり、バスツアー、写真撮影会などと変化をつける。

ただ、組合内部では、組合費を賃上げなどの労働運動ではなく、独身者だけが恩恵を受ける出会い支援に投じることに批判が出ることがある。これに対して中村さんは「大きなストーリーがある労働組合は批判を乗り越えている」と評価する。そのストーリーがこれだ。

(1)人口減少という社会課題に婚活事業で取り組む(山口県)
(2)「交流こそが労働組合の価値」と、組織交流と個人の出会い支援の両方を行なう(日本電気労働組合本社支部)
(3)人生設計の流れに沿って「であい・ふれあい・あんしん」を提供する。婚活支援は原点の「であい」の場だ(大分県)

中村さんは、「労働組合による婚活支援は、労働組合同士のネットワークを活かした人間関係の広がりがベースにある。未婚化や孤独・孤立が社会問題になっているなかで、人間関係を外に広げていくのは、労働組合の新しい社会的役割」と指摘している。

一般的合コンと違い、参加者の身元がはっきりしている安心感

J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめた連合総研主幹研究員の中村天江(あきえ)さんに話を聞いた。

――寡聞にして、労働組合が婚活支援をしているなんて知りませんでした。いつごろから行っているのでしょうか。

中村天江さん 正確にはわかりませんが、独身者を対象とした交流イベントはかなり前からあったようです。「若い頃参加した」「昔、イベントに誘われた」という話も聞きました。組合関係者にとっては珍しくないようで、このリポートで取り上げることを決めた時、「そんなところに注目するの?」という感じでした。

ただ、コロナ禍で実際に会って何かを一緒にするという活動ができなくなりましたから、コロナ収束以降は労働組合でも、対面活動が以前より喜ばれ、盛り上がっているそうです。

それに、いまや結婚が社会課題になっています。未婚者のなかに出会いを求めるニーズが確実にあるので、労働組合による婚活支援に注目する意味があると思いました。

――労働組合が婚活に取り組む意義では、なにが一番重要ですか。

中村天江さん 何よりも「安心」です。マッチングアプリには、実際に会うまで相手の素性がわからないという不安がありますが、労働組合を介した出会いでは、一般的な合コンとちがって、参加者が所属する企業や働き方など、身元がはっきりしている安心感があります。

また、信頼のおける組合役員の声がけですから、気軽に参加できます。そして、組合が意図したわけではありませんが、参加者からすると、労働組合が主催するイベントで、労働組合に加入している人物ということによる信用や保証があるようです。親から「安心だからどんどん行きなさい」と言われたという話も聞きました。

同じ組合活動をしているという価値観も共通しています。アプリに対して不安感を持ち、リアルで会いたい人にとってはが好ましいイベントでしょう。

――なるほど。さまざまな労働組合が取り組んでいる婚活支援の中で、特に注目しているのはどれですか。

中村天江さん まず、「交流を広げ深めることが労働組合の価値である」を前面に出している日本電気労働組合本社支部の取り組みです。10年前に仕組みを整備し、婚活イベントに数百人が参加してきました。活動を継続していくためには第三者の力を借りたほうがよいとして、j.union(ジェイユニオン)の異業種交流イベントに参加する形をとっています。

7500人の組合員のうち3分の2が東京ですが、3分の1が地方。札幌、仙台、名古屋、大阪といった地方の拠点ごとに他業種の組合と婚活イベントを開いています。ここは、男性はもちろんですが、女性の参加が多いことも特徴の1つです。

人生のテーマは「であい・ふれあい・あんしん」、最初の「であい」が結婚

――【図表】をみると、地方の労働組合でも独自に行っていますね。

中村天江さん 地方は、連合の地方組織と生活協同組合(コープ)、労働金庫などが連携する労働者福祉協議会(労福協)が中心になる場合が多いです。今年から婚活支援を始めた大分地区労福協は、人生設計の流れに沿って「であい・ふれあい・あんしん」をテーマに、それぞれを支援すると決めました。

「あんしん」は資産形成の知識、「ふれあい」は家族の絆づくりで、最初の「であい」がパートナー探しです。8月に行ったレストランでのパーティーは、お互いをニックネームで呼び合うカジュアルなものでした。実際の参加はなかったそうですが性的マイノリティーの方の参加もOKにしています。

――ほかの地方ではいかがですか。

中村天江さん 山口県や香川県などでは、家と職場の往復だけだと、パートナーをみつける機会が少ないので、労働組合に出会いの場を広げてほしいという声が届くそうです。そこで、山口県岩国地区の組合団体は、山口県が行っている「やまぐち結婚応援団」に登録・連携し、組合員以外の一般人の参加もOKと対象を広げています。

また、香川県の組合団体はボウリングやハロウィンパーティーなどを開く際に、組合員以外の同伴者も認めたり、新潟県では年齢制限を外したりしています。地域によっていろいろな企画が行われています。

――リポートでは、地方の場合、女性の参加率を高めることが課題だと指摘していますが。

中村天江さん 男性はたいていすぐ集まるが、女性は集まりにくいことがあるそうです。女性は、パートナー探しを同僚に見られたくない、仕事が終わった後に身なりを整えて参加する余裕がないといった事情があるといいます。近年は女性従業員に対する会社の期待も高まっていますから。

そこで、あえて「パートナー探し」の1対1の場にせず、グループで盛り上がって楽しむイベントも行われています。

「組合費を婚活に使うな」との批判、大きなストーリーで乗り越える

――なるほど。いろいろと努力と工夫を重ねているのですね。

しかし、一般に組合費は収入や年齢に応じて高くなります。組合が独身者しか恩恵を受けない婚活支援に取り組むと、組合費を多く負担する既婚者から「もっと賃上げ闘争や労働条件の改善に組合費を使うべきだ」と文句が出ることはありませんか。

中村天江さん もちろん、そういった声が出ることはあるそうです。内部からの批判を乗り越えるには、組合自身が「大きなストーリー(物語)」を持つ必要があります。組合内で婚活のような労働組合の一義的な目的ではない活動が認められるためには条件が2つあります。

第1に、多岐にわたる組合活動において、取り組みの主従をはっきりさせることです。つまり、賃上げやハラスメントの防止といった、労働条件・労働環境の改善のための取り組みをしっかり行い、一定の成果をあげたうえで、それに影響しない範囲で他の取り組みを行う。例えば、日本電気労働組合本社支部は、春闘期間中はレクリエーション活動を行っていません。

第2に、活動の大きな方向性について組合内部で合意していることです。先ほど述べた日本電気労働組合本社支部は、組合の組織発展と組合員個人のニーズの両面から、「組合活動の価値は交流にある」と位置づけています。労働組合同士の組織交流でも、仕事上のしがらみを超えて競合他社の人達と話すことができ、それが仕事のしかたや自身のキャリアを考えるきっかけになります。

つまり、他社・他労組との交流が、組合員の人生に寄与するという大義名分があります。複数の事業からなる交流活動の全体がうまくいっていれば、その一部である婚活支援だけをどうこうするという話になりません。

ボランティアこそ労組の使命、東日本大震災の組織派遣は自衛隊に次ぐ規模

――組合員の人生に貢献するという点では、先ほどの大分県の「であい・こうりゅう・あんしん」の活動方針と通じるものがありますね。

中村天江さん クレジットカードのクレディセゾン労働組合(組合員約4000人)の方法も、相通じる点があります。ここもj.unionを介して、三菱UFJニコスやファミリーマート、ローソンなどの労組と一緒に「異業種交流+社会貢献」の活動を行なっています。

「スポGOMI」といって、ゴミ拾いを競い合ってスポーツとして楽しみ、自分の健康と地域の衛生に貢献するイベントです。最初から婚活をうたわなくても、若者同士が出会い、盛り上がれば自然にカップルが誕生することもあります。

「異業種交流+社会貢献」という活動内容であれば、組合内部で共感や賛同を得やすいので、絶妙な企画になっています。実際、参加者や参加組合がどんどん増えているそうです。

――労働組合を通じて「出会い」が「社会貢献」につながるのですね。

中村天江さん 出会いと社会貢献は一見まったく別の活動ですが、労働組合を介すとこれらをつなげることができます。労働組合は助け合い・支え合いを大事にしているので、昔から社会貢献活動を行っています。例えば、東日本大震災の組合ボランティアは、組織派遣としては自衛隊に次ぐ人員規模でした。

企業などで働く人が約6100万人のところ、労働組合加入者は1000万人近くいます。労働組合は権利主張団体としての顔があり、ステレオタイプな闘争的イメージが強いですが、実際の活動内容はもっとずっと広いです。個人と国家のあいだにあるコミュニティーとして、人々のつながりを生み出し、新たな場に誘う社会的機能ももっています。

人口減少や孤独・孤立の問題が深刻になっていくなかで、婚活支援も含めて、労働組合のネットワークを外に向かって広げる力には大きな可能性があります。労働組合を経済的・政治的に位置づけるだけでなく、社会的役割からとらえることが、これからの時代は大切だと考えています。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

【プロフィール】
中村 天江(なかむら・あきえ)
連合総研生活関連研究所主幹研究員

商学博士(一橋大学)。専門は人的資源管理論。「働くの未来」をテーマに調査・研究・提言を行う。1999年リクルート入社、2009年リクルートワークス研究所に異動。2021年10月、連合総研に転職。
『労働組合の未来を創る ―理解・共感・参加を広げる16のアプローチ―』連合総研(2024年、共著)を主担当として推進。著書に『ジョブ型vsメンバーシップ型 日本の雇用を展望する』中央経済社(2022年、共著)、『30代の働く地図』岩波書店(2018年、共著)など。