“これはどこの国でも起こらない” 3カ月で2度も日本人学校の関係者が被害に…深セン市で日本人学校に通う男子児童が刺され死亡した事件から1カ月

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9月18日、中国南部の広東省深セン市で日本人学校に通う10歳の男子児童が母親と登校中に刃物を持った男に襲われ、男子児童は翌日死亡した。目撃者によると、現場は血の海で男子児童の負った傷はかなり深いものだったという。男は犯行後、現場から逃げることもなく、駆け付けた公安当局によって身柄を確保された。一緒にいた母親は刺されておらず、当時の状況などから男は男子児童のみを狙ったとの見方が強まっている。男の犯行はまるで男子児童を刺すことができれば全ての目的を達成したかのようにも思えるものだった。

ランドセルも禁止に…

中国には香港を含めて12校の日本人学校があるが、今回の事件が与えた影響、動揺は非常に大きい。

この事件が起きてから日本人学校の児童の中には、夜一人で寝られなくなっている子供や、通学が怖いと口にしている子供も出ている。

深セン市の日本人学校は10月14日から再開されたが、徒歩での通学は原則なくなっている。また学校側からランドセルを背負うことをやめるようにも呼び掛けたという。現在、中国にある日本人学校では通学時の安全対策について様々な警備強化を行っているが、前提となる犯行の動機が分からなければ「登校時に全ての中国人と接触しないようにする」という極端な安全対策を取らざるを得ず、不安は高まったままだ。

いまだ明らかにならない男の動機

地元の警察当局は事件後、数時間経ってから事件に関する第一報を公表した。

それによると未成年が被害者で身柄を拘束された男は44歳で刃物を使った傷害事件であり、被害者はすぐに病院に搬送されたという情報のみだった。被害者が外国籍や日本人であることや小学生で通学中であったことには触れていない。

その後、中国外務省は会見で「偶発的に発生した個別事案」と発表し、地元メディアは「男は切り付けた容疑については認めている」「男には前科がある」などの情報を出した。しかし、肝心の動機については一切の情報を出さず、事件から1カ月経った今もこの状況は変わっていない。

9月30日、上海のスーパーで刃物を持った男が大勢の人々を切りつけ3人が死亡した事件で、事件翌日に「男は経済的なトラブルから鬱憤を晴らすため犯行に及んだ」とする動機が公表されたのとは対照的だ。

事件があった現場は毎朝、日本人学校の子供が必ず通る道だった

男子児童が刺された現場は、男子児童が通っていた日本人学校から約200メートル離れた場所で、多くの子供たちはこの道を通って通学していた。

近隣住民によると、事件が起きた午前8時頃の時間帯に歩いている子供が日本人学校の児童というのは現地に住む人々にとってほぼ全員が知っている事実だという。そして多くの子供たちは通学時にランドセルを背負っていた。「現場の状況を考えると残念ながら日本人が狙われた可能性が高いと言わざるを得ない」(日中外交筋の関係者)という声もある。

日本人を狙ったのか?

今回の事件において犯行動機は非常に重要になる。それは男が「日本人を狙ったのか」という点だ。

犯行があった9月18日は満州事変のきっかけとなった柳条湖事件が起こった日で、中国では「国の恥を忘れてはならない日」と呼ばれる特別な日だ。それに加え現場の状況や男子児童以外に被害者がいないことから、日本人がターゲットになったと見る日中外交筋の関係者は多い。そして、最も卑劣な点は小さな子供を狙ったという点だ。

「どの国でも起こり得る」と説明する中国外務省

事件直後から、中国政府はこの事件に対して「偶発的な事件」と繰り返し説明を行ってきた。しかし2024年6月にも江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人親子が襲われる事件が起きていて、わずか3カ月のあいだに2度も日本人学校の関係者が狙われている。これが本当にどこの国でも起こり得ると言えるのだろうか。

中国外務省は事件発生の翌日(9月19日)に行った記者会見の中で「個別の事件が中日両国の往来や協力に影響しないと信じている」との認識を示したが、これは中国側が男の犯行動機と事件の全容を日本側に詳細に説明してからこそ築ける信頼関係であるはずだ。

子供たちを守るために必要な「情報公開」

日本政府はこの事件が起きてから、北京に駐在する金杉憲治・駐中国大使が発生翌日には現場となった深セン市に赴き、その後も中国の地方を視察し地元政府のトップや幹部と会談する際には、この事件についての懸念と動機を含む詳細の説明を毎回求めている。

10月10日には石破茂首相が中国の李強首相とラオスの首都ビエンチャンで会談し、事件の解明や日本人の安全確保を求め、また外務省も安全対策として緊急に予算約4300万円をつけるなど、できる外交政策、外交努力は行われている。

しかし、いくら予算を増やし警備員を増員しても詳細な情報が伏せられたままでは事件の再発防止は難しいと言わざるを得ない。同時に中国で子供を日本人学校に通わせている保護者や子供の不安も、男の動機を含めた正しい情報が公開されなければ消えることはない。

中国に住んでいる日本人は今回の事件を起こした中国人と、一般の中国人が同じ考えを持っているとは思っていない。多くの中国人は私たち日本人を含む、外国人に対して優しく、困っていることがあれば親身になって対応してくれている。だからこそ今、本当に必要なことは中国側による正確な情報公開なのだ。真相が明らかにならなければ根本的な問題解決を行うことができず、同じような事件の再発を防ぐことができない。中国に住む一人の日本人として一日も早い情報公開を望んでいる。

執筆:FNN北京支局 河村忠徳