滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督【写真:高橋幸司】

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全国V2の学童野球強豪…多賀少年野球クラブ・辻正人監督「1か月で選手は驚くほど成長」

 わずか1か月でも、小学生は大人の想像を超える成長を見せる。だからこそ、学童軟式野球の強豪、滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督は、選手のポジションを大会直前まで固定しない。Full-Countでは小学生・中学生世代で全国制覇を成し遂げた監督に取材。2018、2019年に全国連覇を果たした指揮官に、全国大会の予選と本選で守備位置をガラッと入れ替えるケースも珍しくないという、選手の“可能性を伸ばす”起用法について話を聞いた。

 チーム内競争や選手層の厚さは、多賀少年野球クラブの強さの理由にもなっている。練習では全ての選手が内野も外野も練習し、紅白戦ではマウンドにも立つ。辻監督が選手のポジションを固定するのは大会の1か月前。しかも、内野手と外野手という大枠を固めるだけだ。大会が終われば、再びリセットして次の大会まで選手の適性やポテンシャルを見極める。

 他チームの指導者からは「早くからポジションを固めた方が、スペシャリストをつくりやすくないですか?」とよくたずねられる。辻監督は、その指摘は正しいとも感じるが、ベストな育成方法だとは考えていない。

「特定のポジションに決めてしまうと、選手の可能性を見つけられなくなってしまいます。ギリギリまでみんなの可能性を探って判断して、大会前の1か月間でスペシャリストにしていきます。その1か月間でもポジションを動かしたくなるくらい、選手たちは成長します」

 実際、今夏に出場した「高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」では、全国大会と滋賀大会のスタメンは、選手のポジションが全く違った。辻監督は、それぞれの選手のポジションごとの適性を見極めて、チームとしての総合力が最も高い布陣を組む。

 例えば、10点満点の評価で、「捕手が9点、遊撃手が7点」の選手Aと、「捕手が8点、遊撃手が5点」の選手Bがいるとする。単純に捕手としての能力を比較すれば、選手Aを捕手に選ぶことになる。しかし、その結果、選手Bが遊撃手として出場すれば、2つのポジションの評価点は「捕手9点と遊撃手5点」で合計14点にとどまる。一方で、選手Bを捕手に起用し、選手Aが遊撃手を守ることで、合計は15点となる。つまり、チーム全体の力は高くなるのだ。

レギュラーでなければ上達しない? 「ポジション固定はもっと先のステージで良い」

 辻監督は個々にどんな適性があるのかを見極め、チームの総合点を上げる選手の組み合わせを追求する。そして、全てのポジションを練習させることで、チーム内競争の活性化や選手層の厚みにもつなげている。

「選手たちは吸収力が高くて、どんどん伸びていきます。成長期の小学生は体も大きくなっていくので、ポジションを固定するのはもっと先のステージで良いと思っています。私たちのチームは体調不良などで選手が欠けても全く問題ありません。全員がどこでも守れますし、控え選手もレギュラーと同じくらい能力が高いですから」

 学童野球では、レギュラーになれなければ上手くならないと考える保護者が少なくない。しかし、辻監督は「全く、そんなことはありません。どの選手も大人が驚くほど成長します」と力を込める。辻監督も出演する今月21日からの「日本一の指導者サミット」で、子どもたちの可能性を広げる練習方法を披露する。(間淳 / Jun Aida)