アングル:住居費高騰深刻な米国、借家人「組織票化」で大統領選左右か

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Carey L Biron

[ワシントン 11日 トムソン・ロイター財団] - 米国で深刻な住居費高騰が11月5日の米大統領選で争点として浮上しつつある中、借家人の組合などが全国的な連帯を強化し、重要な「組織票」になる可能性が出てきた。運動の旗振り役を担う団体らは、借家人が政策的な恩恵を勝ち取るチャンスになると期待している。

こうした団体の一つ、ナショナル・ハウジング・ロー・プロジェクト(NHLP)のエグゼクティブディテクター、シェイマス・ローラー氏は「多くの人々が抱える経済的不安の根本に住宅問題があるので、必ずしも明白に見えない形ながらもこれが大統領選の行方を握ろうとしている」と説明する。

ローラー氏はトムソン・ロイター財団に「ここに前途有望な瞬間が存在する。次期政権と議会で本格的な住宅政策の変化を目にできるかもしれない」と語った。

ハーバード大学が6月に行った分析では、住宅価格と家賃の記録的な上昇によって住宅入手可能性の面で「未曾有の危機」が到来し、米国内に手頃な価格の住宅が推定であと730万戸は必要だとされた。

過去の国政選挙を見ると、住宅問題はほとんど関心を集めてこなかった。しかしローラー氏らの話ではそうした状況は劇的に変わっており、選挙結果を左右する可能性すらあるとの見方さえ聞かれる。NHLPによると、米国の全世帯のおよそ36%は借家生活をしている。

NHPLなど複数の団体は6月、大統領・議会選挙を見据えて、借家人の権利を守る全米レベルの法案を発表。家賃の引き上げを妥当な範囲にとどめることや、借家人の組織化容認、立ち退き手続きの正当性に関する徹底した調査を求めた。

大統領選における5つの激戦州で借家人に自分たちの権利のための投票を促す運動を展開する非営利法人、ポピュラー・デモクラシー・イン・アクションは、借家人こそが大統領選の勝者を決める鍵を握ると言い切る。運動の対象には、2020年の選挙で初めて選挙に参加した100万人のマイノリティー有権者も含まれている。

共同エグゼクティブディレクター、ダマレオ・クーパー氏は「米国社会でこれまで機会を逃した、あるいは気にかけてもらえなかった人々のために声を上げられる組織を立ち上げられるよう、問題認識を深める上で今の時期を利用しなければならない」と強調した。

9月に130万戸の新たな公共住宅建設・維持を監督する全米の新たな組織創設に向けた法整備を訴えたポピュラー・デモクラシー・イン・アクションによると、激戦州の借家人の間では住居費は一番の懸念要素で、さまざまな問題の優先順位を巡る判断で住宅は政治家と有権者のずれが最も大きかった。

クーパー氏は11月5日の投票だけでなく、選挙前の組織化を通じて借家人に新しい政治的な力を与えることが大事で、今の行動がこの先50―60年の事態を決めるとの見方を示した。

<両陣営ともに重視>

バイデン政権が7月に特定住宅の家賃に関する全国的な上限の導入を支持し、法人大家による「便乗値上げ」取り締まりを表明すると、大きな反響を呼んだ。

それ以降、民主党大統領候補ハリス副大統領と共和党大統領候補トランプ前大統領双方の陣営とも、重視する政策に手頃な住宅の供給を盛り込むようになった。

ハリス陣営は電子メールで、これまでにハリス氏が300万戸の新規住宅建設や、初めての住宅購入者への現金給付、幾つかの家賃抑制策などを打ち出していると説明。共和党全国委員会の広報担当者は、トランプ氏は不法移民への住宅ローンの禁止、開発規制の緩和、新規住宅取得費の半減、大規模住宅建設に向けた連邦所有地の開放などを実行するとしている。

借家人組合側からも、こうした関心の高さのおかげで借家人の政治的な影響力を高めるまたとない機会が訪れたと喜びの声が出ている。

8月には5つの都市・州単位の組合が初めて連合組織テナント・ユニオン・フェデレーションを結成。支援者の話では、さらに十数の組合と協力関係を築きつつある。

ミズーリ州カンザスシティーで借家人の組織化を進め、テナント・ユニオン・フェデレーションのディレクターを務めるタラ・ラグフビア氏は「家賃は現代の重大な経済問題だ。大半の勤労者にとって毎月の支払額が最も大きい費用であり、物価全体の押し上げに一番持続的かつ相当な規模で寄与している」と指摘した。

不動産業界が大きく変化し、借家人が全米レベルで意見を表明せざるを得ない状況にもなっている。ラグフビア氏は「大家はもはや州ないし市の政府で規制できる事業運営をしていない。彼らの事業は州ごとの線引きを超えてしまっている」と述べた。

同氏によると、これまでずっと手頃な価格の住宅供給はごく地方的問題と片付けられてきたが、ついに構図が変わろうとしている。

「われわれが住戸を回って借家人と話をすると、以前よりも大きな手応えがある。長らく人々が感じてきたことに、ようやく全国的な政治の話題が追いついてきている」という。

モンタナ州ボーズマンの低所得者向け賃貸住宅で暮らすオザー・エコメーカーさん(33)は、過去10年で家賃が3倍に跳ね上がったと述べた。ただこの住宅を19年に買った新たな大家が、必要な修繕を適切なタイミングで行うことを怠ったことを受け、エコメーカーさんは1年前、近隣住民とともに組合を立ち上げ、自分たちの意見を届けられる力を得たことに満足している。

ボーズマンでは現在4つの組合が連携。エコメーカーさんは「加入者は増え続けている。人々はうんざりしているからだ」と語り、借家人は労働に従事して経済を回している以上、声を上げるのに値する存在だと付け加えた。

低所得者向け住宅の拡充に取り組む非営利法人、ナショナル・ロー・インカム・ハウジング・コアリションのコートニー・クーパーマン氏は、各候補者たちは低所得の借家人たちも有権者であり、政治情勢の見通しや優先課題を一変させる可能性を秘めていると認識しなければならないと警告した。