「定年後の仕事はつまらない」という大誤解…じつは仕事満足度や幸福度が高かった

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年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70歳男性の就業率は45%――。

10万部突破のベストセラー『ほんとうの定年後』では、多数の統計データや事例から知られざる「定年後の実態」を明らかにしている。

本稿では、定年後をめぐる代表的な誤解を7つに整理している。前回は、「死ぬまで働かないといけない」という誤解、「定年後は仕事を選べない」という誤解、「いつまでも競争に勝ち残らなければならない」という誤解を取り上げた。今回は、残る4つの誤解について解説をしていきたい。

「仕事に関する能力はいつまでも向上していく」という誤解

前回、3つ目の誤解として、「いつまでも競争に勝ち残らなければならない」というものを紹介した。これに関連して、「仕事に関する能力はいつまでも向上していく」という誤解もある。

定年後に関しても仕事で成長していこうという気持ちを否定しているわけではない。そうではなく、いつまでも仕事で挑戦していこうというスローガンと、高齢期において実際に起こる心身の変化とは区別して考える必要があるということである。

実際に、自身の仕事に関する能力の変化についてアンケート調査をしてみると、年齢を重ねるにつれて以前より能力が低下したと感じている人が増える傾向が見て取れる。

人は歳をとるにつれて、仕事を行うにあたって必要となる体力や気力などが緩やかに低下する。これは必ずしも否定すべきことでもないし、悲観すべきことでもない。

定年後はこのような現状と向き合うなかで、その時々の自身の心身の状態にあった仕事を選んでいくことが必要なのである。

「定年後の仕事はつまらない」「定年後の仕事にはもはやお金は関係ない」という誤解

第5の誤解として挙げたいのは、「定年後の仕事はつまらない」という誤解だ。

これは全くの誤解である。データを分析してみると、むしろ定年後の就業者のほうが仕事満足度や幸福度が高い。そして、年代別に仕事満足度をみていくと、満足度が低いのは40代や50代の就業者であるという結果が出る。

正しい理解に向けた障害となっているのは、管理職の仕事などに就いてより高みを目指していくことがキャリアの目標で、それが唯一の仕事を楽しむ道なのだという先入観なのではないか。

現役時代にこうした道を目指すということについては、私はまったく否定しない。なぜなら、現役時代に豊かな生活を営むためにはとにかくお金がかかるからである。現役時代にキャリアの高みを目指したいという考えのもとで、人々が切磋琢磨しながら競争することは、社会を豊かにしていく重要な要素でもある。

しかし、定年後にはもはやそういった働き方で幸せをつかみ取ることはできないのだと気づく瞬間がだれしも訪れる。そうした中で、多くの人は、現役時代の大きな仕事への執着を拭い去り、目の前にある「小さな仕事」の価値に気づいていく。こうしたプロセスの中で、定年後の豊かな働き方を実現している人は多いのである。

家計経済の観点から定年後の姿を考えてたとき、子育て家庭を前提にすると、現役時代は子どもの教育費や住宅ローン、日々の生活費などに多額のお金がかかる。

しかし、定年後の家計を見ていくと、家計の支出額は急速に減少していく。独身の人も、子育て世帯ほどではないにしても、同様に定年後は家計の支出額は減少していく。

こうした中で、「定年後の仕事にはもはやお金は関係ない」と言う人もいるが、これも誤解である。

たしかに、一部の資産家など高額の貯蓄を所持している人にとっては、仕事を通じて稼げるお金にはもはや大した重要性を感じないのかもしれないが、現代において、定年後にお金の心配もせずに働ける人はごく少数である。

現代においては、大多数の人にとって、現役時代ほどではないが定年後も仕事で小さく稼ぎ続けることは必須である。だから、定年後の幸せな生活と両立できる範囲で無理なく仕事を続けていくことは現代人にとって重要なのである。

「大きな仕事のみに社会的な意義がある」という誤解

最後に掲げたいのは、「大きな仕事のみに社会的な意義がある」という誤解である。

無意識のうちにこうした誤解を抱いている人は多い。そうではなく、施設の管理人の仕事や小売店の販売員の仕事など、多くのシニアが就いている「小さな仕事」が私たちの日々の生活を支えていて、実際に日本経済にも大きく貢献しているのは紛れもない事実である。そして多くのシニアはこうした仕事で無理なく働きながら、幸せな定年後の生活を送っている。

社会には、大企業のホワイトカラーなどが望ましい仕事で、こうした「小さな仕事」は取るに足らないものだというような無理解があるのではないだろうか。こうした誤解はとても危険な誤解だと考えるのである。

むしろ、日本社会はこうした「小さな仕事」の価値を積極的に認め、かつ尊重する社会になっていくことはできないのだろうか。また、消費者側も「小さな仕事」で働き続ける人に対して相応の対価を支払っていくような世の中にならないものなのだろうか――。

本稿では、定年後の代表的な誤解を7つにまとめて解説してきた。

1. 「死ぬまで働かないといけない」という誤解

2. 「定年後は仕事を選べない」という誤解

3. 「いつまでも競争に勝ち残らなければならない」という誤解

4. 「仕事に関する能力はいつまでも向上していく」という誤解

5. 「定年後の仕事はつまらない」という誤解

6. 「定年後の仕事にはもはやお金は関係ない」という誤解

7. 「大きな仕事のみに社会的な意義がある」という誤解

定年後の仕事には様々な誤解がある。そして、こうした数々の誤解が高齢期に安心して働ける環境を妨げているという現状があるのではないかと考える。

これからの日本社会において、だれもが高齢期に安心して暮らせるためにどうすべきかを考えたとき、企業や政府に人々の高齢期の生活のすべてを保障させる「福祉大国論」が望ましいものになるとは思えない。

また、すべての人が生涯にわたってスキルを磨き続け、競争に勝ち残らなければならないという「自己責任論」に答えがあるとも思えない。

そうではなく、いつでもだれでも無理のない仕事で適正な賃金が得られる市場環境をいかに整備していくかという視点が何より大切なのである。

超少子高齢化社会に突入する日本社会において、定年後の無理のない仕事と豊かな消費生活をどう両立していくか――。日本全体で若者が急速に減少し、高齢者がどんどん増えていく中、人も社会も変わっていくことは避けられないだろう。

つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。

多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体