ウクライナ軍はロシア南西部クルスク州への越境攻撃を展開し、スジャに主な拠点を構築している=8日/Titov Yevhen/ABACA/Shutterstock

(CNN)ウクライナ軍によるロシア南西部クルスク州への越境攻撃が3カ月目に入った。ウクライナ軍は依然として数十の集落を支配下に置いており、同州スジャ以外にも新たな拠点を構築しようとする動きも見せている。

ウクライナ軍による越境攻撃によって、ロシアは第2次世界大戦以降で初めて外国の軍隊に領土へ進軍される結果となった。越境攻撃はロシアに恥をかかせたほか、ウクライナ政府の支援国や国際社会に対して、ウクライナが常に守勢に回るわけではないことを示した。

越境攻撃開始から約9週間が経過して、ウクライナ軍の前進は止まり、ウクライナとロシアはこの数日、いずれも大きな攻勢や反抗を仕掛けていない。

最終的な決着は不透明だ。専門家は、ウクライナ政府が最初の勢いを利用して士気を高め、交渉の際の切り札にしようとしているとみている。一方、ロシアのプーチン大統領は、越境攻撃全体を軽視する姿勢を示し、ロシアの戦時体制が越境攻撃に対抗するために投入する人的・物的資源に制限をかけようとしている。

米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」に直近の評価によれば、ウクライナ軍は依然としてクルスク州の約786平方キロを支配下に置いている。

クルスク州に駐留するウクライナ軍の大隊の司令官はCNNの取材に対し、「ロシアの進軍は主に我々の拠点の側面で起きている」と語った。

ウクライナ軍はクルスク州スジャの周辺に主に拠点を築いているが、別の集落に二つ目の拠点を築こうとしている。

英シンクタンク「王立防衛安全保障研究所(RUSI)」の上級アソシエートフェロー、マーク・ガレオッティ氏によれば、ロシアはクルスク州での防衛と反攻のために推定4万人の兵士を配備しているが、初期の部隊は「見つけられるところから集めたものだ」と指摘した。

ロシア政府はその後、より経験が豊富な部隊を配備したものの、おそらくクルスク州の人々が望むほどではない。

クルスク州で戦闘が続くなか、ロシア当局によれば、10万人以上の民間人が住むところを追われた。

ガレオッティ氏は、時間の経過とともに、クルスク州での軍事作戦が常態化しつつあるとしながらも、「ロシアの人々がそれを受け入れるようになったと考えるべきではない。プーチン氏はなんとか判断を先延ばしにしたが、完全に免除されたわけではないだろう」と述べた。

ロシアは、本格侵攻を行っているウクライナの最前線からクルスク州での戦闘に人的・物的資源を転用するのを避けようとしている。

英シンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」のロシア・ユーラシア・プログラムのアソシエートフェロー、ジョン・ラフ氏によれば、越境攻撃は当初、ロシアの政府と民間人の双方に衝撃を与えたものの、ロシア政府はこれを重要視しない姿勢を示してきた。ロシア政府の戦略として、当惑を引き起こす重大な出来事から国民の目をそらし、深刻なものではないとの印象を与えようとしているという。

専門家によれば、越境攻撃には複数の目標があった可能性が高い。

ラフ氏によれば、ウクライナの目的は、西側の同盟国に対して、ロシアは脆弱(ぜいじゃく)であり、戦闘力を展開する能力に限界があることを示すことだった。今回の越境攻撃によって、ロシアのレッドライン(越えてはならない一線)が言葉だけのものであることも浮き彫りとなったという。

また、ウクライナ軍の士気も上がった。

だが、ウクライナ東部の戦線からクルスク州へロシア軍部隊を引き寄せるという目標は今のところ、実現できていない。

専門家からは、クルスク州が今度も交渉の材料となる可能性があるとの見方が出ている。ラフ氏は、クルスク州の領土を占領することで、ロシアと西側諸国の双方から停戦に言及する可能性を即座に排除したとの見方を示した。

戦争の主な焦点は依然としてウクライナ東部ドンバス地方の最前線であり、要衝ポクロウシクを支配下に置こうと戦闘が続いている。

ロシアは領土の解放に人的・物的資源を集中させるのではなく、ハルキウやドネツク、ザポリージャなど複数の前線に攻撃を拡大した。

ラフ氏は「損失に関係なく、ドンバス地方で可能な限り前進することがロシア政府にとって非常に優先順位が高いようだ」と指摘。「ある種の窓が閉じようとしている。なぜなら、この時期には、道路がぬかるみになるからだ」と言い添えた。