東海道線、京浜東北線、横須賀線をまたぐ生見尾踏切=横浜市鶴見区(複数枚の写真を合成)

 横浜市鶴見区生麦の生見尾(うみお)踏切で9月29日、20代の男性が電車にはねられて亡くなった。全長約45メートルの踏切は中間地点に待避場所を設けているが、男性は線路内でスマートフォンを手に立ち止まっており、神奈川県警は待避場所を誤ったとみている。この踏切では2013年、渡り切れなかった高齢男性が亡くなり、今年4月には今回の事故と同じ場所で死亡事故が起きている。市関係者は構造的な危険性を指摘するが、地元との合意形成が進まず、抜本的な安全対策には踏み切れていない。    

 「開かずの踏切」として知られる生見尾踏切はJRの3路線をまたぐ形で、貨物線のガードをくぐる南側からだと東海道線の線路部分(約10・5メートル)を越えて待避場所を通り、京浜東北線と横須賀線の線路部分(約22メートル)を越える構造。遮断機は東海道線の前後と京浜東北・横須賀線の前後の計4台が設置されている。

 県警によると、今回の事故で亡くなったベトナム国籍の男性(26)は南側から踏切に入り、2台目の遮断機のバー(遮断かん)手前の線路内で立ち止まっていた。男性はスマホを見ながら踏切に入り、立ち止まっていた時にスマホを操作している様子が電車のカメラに映っていたという。

◆市の担当者「遮断機の内側にいるのか、外側にいるのかが分かりにくい」

 「今回の事故現場と同じ場所で電車の通過を待っている人を、今年の夏に見た」−。1年半ほど前から踏切の警備員を続ける男性は、外国人の女性が待避場所を誤っているのを目撃したことがあるという。女性は途中で誤りに気付いて待避したが、今年4月に今回の事故現場と同じ場所で立ち止まってしまった男性(52)は、命を落としている。

 どうして待避場所を誤ってしまったのか。遮断機は左側のバーの後に右側が下がり始める仕組みで、右側を歩く場合は警報が鳴っていてもバーに遮られず線路内に進むことができる。ただ、その間に約10メートル先にある遮断機の右側のバーが下がるため、注意が散漫になっていると、そのバーが最初の遮断機だと誤認してしまう可能性がある。

 市道路局の担当者は「遮断機の内側にいるのか、外側にいるのかが分かりにくい。さらに(貨物線の)ガードが低いため、1台目の遮断機のバーも見えづらくなっている」とリスクを指摘。踏切の廃止を含めた抜本的な安全対策の必要性を強調するが、地元の理解は得られていない。JR東日本は「踏切には事故リスクが伴う」との認識を示し、「事故対策の基本は踏切をなくすこと」としている。

◆“ながらスマホ”の危険性、視野が普通の20分の1ほど

 スマホに気を取られて電車にはねられたとみられる事故は他の踏切でも起きており、愛知工科大学の小塚一宏名誉教授は“ながらスマホ”の危険性を「普通に歩いている時よりも視野が20分の1ほどに狭まる」と強調する。

 通常、人の視線は無意識に上下左右に動くことで周囲の状況を認識するが、歩きスマホの場合、視線の動きが全くなくなるといい、小塚名誉教授は「視野が狭まり、周囲の交通状況などが認識できなくなる」と話す。

 県警によると事故時、電車の運転士は100メートル手前で男性に気付いてブレーキをかけ、警笛を鳴らしている。小塚名誉教授は「あくまで推測」とした上で、「スマホに集中していて立ち位置を誤っていたため、電車の警笛なども自分に対するものだと思っていなかった可能性がある」と指摘。「思わぬ事故が起きてしまうのが歩きスマホの怖いところ。それを自分ごととして捉え、スマホは安全な場所で立ち止まって使うなどして、自分の身を守ってほしい」と話している。