中間持ち株会社のヨーク・ホールディングスを設立、スーパー事業以外もセブン&アイHDから切り離す(撮影:梅谷秀司)

セブン&アイ・ホールディングス(HD)は10月10日、2025年2月期第2四半期(2024年3〜8月期)決算説明会を開き、先週来、報じられてきた構造改革案の全容を発表した。

詳細は以下のようなものだ。10月11日にセブン&アイHDの完全子会社として、中間持ち株会社のヨーク・ホールディングスを設立する。

2025年2月下旬に、グループ祖業のイトーヨーカ堂、スーパー事業子会社のヨークベニマルや外食のセブン&アイ・フードシステムズ、雑貨店のロフト、赤ちゃん本舗など連結子会社24社と、持ち分法適用会社7社、計31社の株式をヨークHDの傘下へと移す。

その後、ヨークHDに外部から資本参加を募る。セブン&アイHDは2026年2月までにヨークHDを持ち分法適用会社とする計画だ。

非スーパー子会社も中間持ち株会社に

セブン&アイHDは今年4月にもヨーカ堂などスーパー事業の子会社を束ねる中間持ち株会社を設立し、2027年以降の新規株式公開(IPO)を目指す方針を公表していた。

今回明らかになったのは、中間持ち株会社(ヨークHD)傘下にロフトなどの非スーパー子会社も入ることと、IPOを前に戦略的パートナーによる過半数の出資を募ることだ。

計画通りに進めば、最短で2027年度とみられていた子会社群の切り離しが2025年度中に完了する。一連の手続きの後、セブン&アイHDは国内外のコンビニ事業のみとなる見込みだ。

これと併せて、社名も2025年5月以降「セブン‐イレブン・コーポレーション」に変更する方針が示され、名実ともにセブン‐イレブン専業へと生まれ変わる。セブン&アイHDの積年の課題だった構造改革は大きな区切りを迎えた。

一方、同日発表された2024年3〜8月期決算は、営業収益が前年同期比8%増の6兆0355億円、営業利益は同22.4%減の1869億円と低調だった。市場関係者からは「結果が出ていない」など、落胆の声が相次いだ。


井阪社長にとって厳しい舵取りが続いている(撮影:尾形文繁)

厳しい状況は7月に発表した第1四半期(3〜5月期、海外は1〜3月期)決算から変わらない。生活防衛意識を強める消費者の需要に対応できず、日米コンビニ事業が減益となった。井阪隆一社長は日米のコンビニの「対応力が弱っている」と分析する。

とくに深刻だったのは北米子会社のセブン‐イレブン・インクだ。ドルベースの営業利益は前年同期比26%減。7月公表の第1四半期(1〜3月、同38%減)から減少幅は改善したものの、厳しい推移だった。

アメリカのコンビニは比較的所得が低い顧客が中心だ。厳しいインフレで「中間・低所得者層の消費意欲が減退。たばこ販売の縮小も影響した」(ジョセフ・デピントCEO)ことで、既存店の商品販売は低調だった。

粗利益の大部分を占めるガソリンについても、重要指標である「1ガロン当たりの粗利額」が前期比3%減と想定を下回ったことも痛手だった。

7月にスタン・レイノルズ社長は「第2四半期は価格転嫁を進めることで、プラス効果を期待している。コスト削減も並行し成長につなげる」とプレゼンしていたが、その説明からはギャップのある結果となった。

株価を提案価格以上に引き上げられるか

セブン‐イレブン・ジャパンも営業利益は同8%減の1276億円と減益に終わった。既存店は前年同期比0.2%減となり、増収傾向を維持している競合に比べて見劣りする。「質を重視したこともあり、とくに若年層で『セブンの商品は高い』という認識が広がった」(丸山好道CFO)という。


進捗を踏まえ、日米コンビニとも通期の業績見通しを減益計画へと修正。セブン&アイHDの通期の営業利益予想は5450億円(前期比2%増)から4030億円(同24%減)と、大幅な下方修正を余儀なくされた。

セブン&アイHDは8月までにカナダの同業大手、アリマンタシォン・クシュタールから法的拘束力のない初期的な買収提案を受けている。市場価格を上回る提案だが、セブン&アイは9月初旬、「(提案は)株主価値を著しく過小評価しており、賛同しかねる」旨の返答をしている。

その後、クシュタールから再提案がなされたこともわかっている。価格は1株18.19ドル(約2700円)とみられ、買収提案が伝わる前の株価の約1.5倍に相当する。

井阪社長は再提案について「価格も含め、交渉のプロセスについて開示は控える」とし、現時点でセブン&アイHDがどのような立場をとるかは不明だ。ただ経営陣が独立路線を志向するなら、株価をどのようにして提案価格以上に引き上げられるかが問われる。

10日の説明会では「なぜ本来の企業価値が市場に評価されていないと感じるか」との質問に対し、井阪社長は「なんといっても業績。株主の期待に応えられていない」と話していた。

この点についてグループ内からは「市場にうそをつき続けてきたからだ」と指摘する声も上がる。象徴的なのは、発表の目玉である構造改革についてだ。


物言う株主、バリューアクトは非コンビニ事業の分離を求め、「スーパーは不可欠」とする井阪社長に昨年の株主総会で退陣を迫った(記者撮影)

そもそも、ヨーカ堂など非コンビニ事業の切り離しは、数年前からアメリカの投資ファンド・バリューアクトが指摘してきたことだった。

2023年の株主総会前、バリューアクトより解任圧力をかけられた井阪社長は、「スーパー事業はグループに必須」との反論を繰り返した。それにより子会社として持ち続けるように受け取られていた。

しかし、結局は今年の4月に「(最短で2027年度に)スーパー事業を上場させる。将来的には連結にこだわらない」と明かし、今回はIPOに先んじて2025年度中に持ち分法適用会社化する方針を示すに至った。

こうした背景から「株価が振るわないのは、経営陣の評価によるディスカウントが大きい」と話すグループ幹部もいる。

セブン経営陣に求められるものとは

井阪社長はヨークHD設立などの組織再編について「非連結化が目的ではなく、(スーパー事業の)さらなる成長戦略を明確に提示することが目的」と語るが、買収提案に対する焦りから構造改革を加速させているようにも見える。

構造改革の道筋をつけた今、コンビニ専業へと生まれ変わる同社に求められるのは、独立路線でこそ企業価値を高められるという根拠をコンビニ事業の結果をもって示すことにほかならない。

井阪社長は説明会の終盤、「対応すれば必ず拓ける、が私の信念。コンビニにとって厳しい環境かもしれないが、変化対応という原点に立ち返ってとにかくやっていくしかない」と語った。その覚悟が問われている。

(冨永 望 : 東洋経済 記者)