変形性股関節症

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監修医師:
松繁 治(医師)

経歴
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医

変形性股関節症の概要

変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減り、関節が変形し、痛みや運動障害を引き起こす関節疾患で、病気は原因が明らかでない一次性股関節症と、何らかの原因により発症する二次性股関節症に分類され、国内における変形性股関節症の80%以上は二次性股関節症です。

また、変形性股関節症の発症年齢は40~50歳代で女性に多く、その数は男性の7倍ともいわれています。

股関節は、太ももの骨の端である大腿骨骨頭と、股関節の骨盤側のくぼみである寛骨臼から構成されており、その間にある軟骨がクッションの役割を果たしています。
しかし、何かしらの原因で、その軟骨がすり減ってしまうと、骨同士が直接擦れ合い、痛みや炎症が生じます。
また、それだけでなく、関節周囲も影響を受け、腫れなどが見られる場合があります。

変形性股関節症は、生活の質(QOL)を大きく低下させるため、早期の診断と適切な治療が重要です。

変形性股関節症の原因

変形性股関節症の発症は、下記のようないくつかの原因が関与しています。

年齢
股関節の軟骨は急ではなく、少しずつすり減ります。そのため、年齢が高くなると、変形性股関節症を発症する可能性が高くなってしまいます。

女性

国内における変形性股関節症の多くは、寛骨臼が浅いため、大腿骨頭を十分に覆うことができない臼蓋形成不全という構造上の問題が原因となることがあります。
この臼蓋形成不全は圧倒的に女性に多いため、結果として女性の方が変形性股関節症になりやすくなります。

外傷

以前に股関節の怪我や手術歴がある場合は、股関節が正常に機能しなくなり、変形性股関節症のリスクが高まります。

肥満

体重が増えると、股関節にかかる負担も合わせて増加させ、軟骨の摩耗を加速させます。

筋力不足

股関節周りの筋肉が弱いと、負担を分散できないため、直接的に関節にかかる負担が増加し、変形性股関節症を発症しやすくなります。

変形性股関節症の前兆や初期症状について

変形性股関節症の症状は少しずつ悪化するため、下記の前兆や初期症状を早期に発見し適切に対処することが重要です。

前兆

変形性股関節症の前兆として下記のような内容があります。

股関節の違和感

股関節に軽い違和感や不快感があることがあります。特に、立ち上がるときや歩き始めるときに感じやすくなります。

股関節の腫れ

変形性股関節症になると、関節液が増加し、関節内で炎症が起こっているサインとして運動後や長時間の立ち仕事のあとなどに、股関節が腫れる場合があります。

初期症状

変形性股関節症の初期症状は、主に下記のような症状が現れます。

股関節の痛み

初期の痛みは、長時間の歩行や歩行後に痛みが生じます。
また、変形性股関節症の病期が進行するにつれて持続的な痛みとなるだけでなく、安静時痛や夜間痛が出現して、日常生活に大きな影響を与えます。

関節のこわばり

朝や長時間座ったあとに、股関節がこわばり、動かしにくくなることがあります。
初期症状であれば、このこわばりはしばらく動かしているうちに解消することが多い傾向です。

関節の音

股関節を動かす際に、軟骨がすり減り、骨同士が擦れ合うことにより、ゴリゴリ、ギシギシといった音がする場合があります。

動作の制限

初期は顕著な運動制限はありませんが、関節の変形が進行するにつれて、股関節の痛みやこわばりのために、歩行や階段の昇降が難しくなることがあります。
また、股関節の曲げ伸ばしなどの動きにも制限が出ます。

変形性股関節症の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、整形外科です。
変形性股関節症は股関節の変形による痛みと機能障害を引き起こし、整形外科での診察と治療が必要です。

変形性股関節症の検査・診断

変形性股関節症に対して、適切な治療をおこなうためには、下記のような正確な検査・診断は欠かせません。

問診と身体診察

患者さんの主な症状や、持続時間、痛みの程度、痛みが発生するタイミングなどを詳細に問診するとともに、過去の股関節の怪我や手術歴なども合わせて確認します。

しっかりと問診したら、股関節の外観を観察し、腫れや変形などを確認します。
さらに、実際に股関節を触診して、痛みのある場所や腫れ、熱感の有無、股関節の曲げ伸ばしなどの動きをチェックし、可動域や動作時の痛みを評価します。

画像診断

股関節の変形や軟骨の摩耗、骨棘(骨の突起)の有無などを確認するために、最初は一般的にX線検査をおこない、関節の隙間が狭くなっていることが確認できれば、変形性股関節症と診断されます。

その後、必要に応じて、CT検査とMRI検査などをおこないます。

CT検査は、骨の詳細な状態を確認するためにおこなうため、複雑な骨の変形や骨折が疑われる場合に有効です。
また、MRI検査は、軟骨や軟部組織の状態を詳細に確認できるため、X線検査では見えにくい軟骨や靭帯、筋肉の状態を把握できます。

変形性股関節症の治療

変形性股関節症の治療は、症状の重症度や、各個人のニーズに応じて下記のようにさまざまな方法があります。

保存療法

保存療法では、股関節にかかる負荷を減らすための生活指導として、体重管理や適度な運動をとり入れます。

また、理学療法士の指導のもと、股関節周囲のストレッチや筋力トレーニングをおこない、痛みの減少や、関節の可動域の改善、筋力強化をおこないます。

薬物療法

鎮痛剤として、痛みや炎症を抑える目的として、アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの痛み止めの処方や、関節の動きを滑らかにする目的で、ヒアルロン酸やステロイドの関節内注射をおこないます。

手術療法

保存療法や薬物療法で効果が得られない場合は、手術療法が検討されます。
変形性股関節症に対する手術は主に下記の3つです。

関節鏡視下手術

小さな切開から関節内に内視鏡を挿入して損傷した軟骨や骨棘を除去する手術で、早い社会復帰が期待される手術です。

骨切り術

骨の一部を切り取り、関節の角度を変えることで、股関節への負荷を分散させる手術です。
若年者や活動性の高い患者さんに適しています。

人工股関節置換術

股関節全体を人工関節に置き換える手術で、痛みの原因になる部位を手術で取り除くため、変形性股関節症が進んだ時期でも疼痛の改善に大きな効果があります。

変形性股関節症になりやすい人・予防の方法

変形性股関節症は下記のように、特定のリスク要因を持つ人に多く見られる傾向です。

変形性股関節症になりやすい人

下記の内容に該当する人は変形性股関節症になりやすい傾向です。

高齢者

年齢が進むにつれて関節の軟骨がすり減りやすくなり、変形性股関節症のリスクが高まります。

女性

女性は男性に比べて変形性股関節症を発症しやすい傾向で、その数は男性の7倍ともいわれています。

先天的な股関節の問題

臼蓋形成不全など、先天的に股関節の構造などに問題がある場合は、変形性股関節症のリスクが高くなります。

肥満

体重が増えると股関節にかかる負担が大きくなり、軟骨がすり減りやすくなります。

外傷歴

過去に股関節の怪我や手術を受けたことがある場合は、月日の経過とともに変形性股関節症になるリスクが高くなります。

予防の方法

変形性股関節症の予防には、下記の方法が有効です。

適度な運動

ウォーキングなど股関節に負担が少ない運動をとり入れることで、股関節周囲の筋肉が強化され、関節をサポートします。

体重管理

体重を管理することで、股関節への負担を減らすことができます。
そのため、バランスの取れた食事と定期的な運動で体重を管理しましょう。

姿勢の改善

正しい姿勢を意識して保つことで、股関節にかかる負担を分散させることができます。

ストレッチ

定期的なストレッチを行うことで、関節の柔軟性を高め、股関節の動きをスムーズに保ちます。

変形性股関節症は、予防と早期発見が重要です。
定期的なチェックや適切な生活習慣を心がけることで、発症リスクを減らし、股関節の健康を保ちましょう。


参考文献

日本整形外科学会・日本股関節学会:変形性股関節症診療ガイドライン2016

日本整形外科学会:変形性股関節症