特に「SHISEIDO」ブランドは、福島第一原発のALPS処理水放出に伴う日本製品に対する不買運動の影響を受け、売上が大幅に減少しました。この結果、コア営業利益も前年同期比で6億円減の49億円となり、利益面でも大きな課題が残っています。

今後、中国市場での成長を維持するためには、消費者ニーズに即した商品展開とブランド力の強化が求められます。またプロモーション活動だけでなく、持続可能な価値提供を通じて、消費者の信頼を取り戻すことが重要になるでしょう。

【アジアパシフィック事業 - 順調な成長を示すが課題もあるー】
アジアパシフィック事業はタイを中心に堅調な成長を続け、売上高は344億円、前年比12.3%増と良好な結果を示しました。特に「アネッサ」や「Drunk Elephant」などのブランドが全体の成長をけん引しました。しかし、現地通貨ベースでの増加率は3.3%に留まり、為替の影響を除くと実質的な成長は5.9%にとどまっています。アジア地域全体での経済成長鈍化や市場競争の激化が、今後のリスク要因となり得ます。

◆欧米事業、トラベルリテール事業は?

【米州事業 - 生産減少が響き、減益にー】
米州事業は「SHISEIDO」や「narciso rodriguez」などの増収ブランドがある一方で、「NARS」や「Drunk Elephant」において一時的な生産減少が影響し、出荷が減少しました。売上高は572億円で前年比8.4%増となったものの、為替の影響を除くと実質的な成長は3.9%減少し、実質的な成長は見られませんでした。コア営業利益も26億円と前年同期比で約15億円の減益となり、利益率の回復にはまだ時間がかかる見込みです。

【欧州事業 - フレグランスが好調も全体は依然脆弱】
欧州事業は「SHISEIDO」や「narciso rodriguez」などのブランドが順調に伸び、売上高は628億円で前年比19.5%増という結果を示しました。特にフレグランス市場における積極的なマーケティング活動が成功し、収益性の改善につながりました。しかし、現地通貨ベースでは5.9%増にとどまり、為替や経済環境の影響が業績に与える影響を無視することはできません。
今後も積極的な市場展開が求められますが、欧州経済の不安定さもリスク要因と考えるべきでしょう。

【トラベルリテール事業 - 回復基調も中国市場での苦戦が続く】
トラベルリテール事業は、訪日外国人旅行者数がコロナ禍前の水準を上回ったことで、日本市場では力強い回復を見せました。しかし、中国海南島や韓国では、中国人旅行者の消費行動の変化により、売上が低迷し続けています。売上高は668億円で前年比13.7%減、実質ベースでは22.7%減と、トラベルリテール全体の成長にはまだ課題が残っています。

◆今後の復活への期待と道筋

資生堂は、今後の復活を目指すために、中国市場だけに依存せず、グローバルな成長戦略を強化する必要があります。特に欧州市場では高級化粧品の需要が拡大しており、「SHISEIDO」ブランドがその成長の中心となることが期待されています。

また、訪日外国人の増加に伴い、日本国内での免税品販売の回復も見込まれており、これが資生堂にとっての再成長のチャンスとなるでしょう。さらに、デジタル分野での取り組みも強化されており、オンライン販売の強化が今後の業績改善が期待されます。

◆資生堂の文化的貢献とその意義

資生堂は化粧品企業の領域に留まらず、創業以来、企業文化の継承と新たな感性の探求を通じて、社会に美やライフスタイルの価値を発信してきました。

例えば、1919年に創設された資生堂ギャラリーは、現存する日本最古の画廊として、現代美術を中心に幅広いアートを紹介しています。また、静岡県掛川市にある資生堂アートハウスは、同社が蒐集してきた具象絵画や伝統工芸を展示・保存する美術館として活動しており、文化的な遺産を後世に伝える重要な役割を果たしています。さらに、1937年に創刊された企業文化誌『花椿』は、現在でも季刊誌とWEBメディアの2つの形で発信を続けており、現代に生きる人々に向けて美や心豊かに生きるためのヒントを提供しています。