記事のポイントアメリカで大統領選挙を控え、政治広告増加に伴い、プラットフォームが広告審査を厳格化し、広告却下が増加。選挙が近づくにつれ、広告アカウントの停止や復活が難しくなり、バイヤーは他チャネルへ移行しつつある。バイヤーは選挙やホリデーシーズンに向け、広告費を調整し、特に選挙後に広告費を増やす戦略が必要になる。
2024年の米大統領選挙が本格化すれば、広告バイヤーたちは市場で政治広告との競争を強いられる。そしてマーケターやバイヤーにとっての問題は、政治広告費の氾濫だけではない。あるパフォーマンスマーケティング広告のバイヤーによると、政治広告の増加に伴い、どのプラットフォーマーも自分たちのプラットフォームで配信する広告に常よりも神経をとがらせ、審査の目も潜在的に厳しくなっているという。このような見方とともに到来するのが広告業界の「選挙シフト」だ。一部のプラットフォームは来たる選挙に備えて、より細やかな安全対策を講じ、コンテンツモデレーション(投稿監視)を厳しくするとともに、政治広告の出稿で許可されることと許可されないことを明確に記したガイドラインを用意している。前述のバイヤーによると、こうした審査の厳格化によって結果的に却下される広告が増えているという。業界関係者が匿名を条件にその内幕を赤裸々に語る米DIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は選挙を背景とした広告の却下やクライアントの選挙広告対策について語ってもらった。なお、インタビューの内容は分かりやすさを考慮して編集・要約されている。

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――プラットフォーマーによる広告の却下で問題を抱えているとのことだが、何が起きているのか説明してほしい。

広告の却下が増えている。メタは特に敏感だ。もちろん、メタにはメタのポリシーがあり、私たちはそのポリシーから逸脱しているとは思わない(にもかかわらず、却下される広告は増えている)。私がややセンシティブだなと思うような広告に対しては、相当に厳しいスタンスで来る。センシティブな製品を扱ういくつかのブランドでそのような傾向が見られる。カテゴリー的にはダイエットとかサステナビリティ関連でダメだしが増えた。あるクライアントの製品は、人々が(何らかの行動や習慣を)やめる手助けをするものなのだが、メタのシステムはそれを問題だと判断する。少しでもセンシティブな広告は却下される傾向が強くなっている。

――この傾向はいつごろ始まったのか?却下されたらどうなるのか?

ここ1ヶ月から1ヶ月半といったところだろうか。これが一番の悩みの種だ。実際にいくつかのアカウントが停止された。しかも、かなり以前から掲載されていた広告が却下され、そして気づいたときにはアカウントそのものが拒否されたり停止されたりしている。アカウントの停止を解除するのは相当に骨の折れる作業だ。煩わしいことこのうえない。

――なぜこのようなことが起きるのか。理由に心当たりは?

憶測だが、サステナビリティのようなトピックが政治的なトピックと受け取られることがあることは知っている。ことしに限った話ではないし、選挙の年にはよく見られる傾向だ。考査が厳しくなり、選挙が終わるとまた少し緩くなる。選挙が近づくにつれて、ほかと比べてセンシティブな広告にはシステムの判定が軒並み厳しくなる。

――広告が却下された場合、クライアントにはどのような影響が及ぶのか?広告費をほかに移し替えるのか?

そうする。基本的にはほかのチャネルに広告費を移し替える。残念なことに、後で[メタの広告アカウントを]復活させたり修復したりするにはたいへんな手間がかかる。どのくらい時間を要するのかも分からない。結果として、危険を分散するためにも、難しい時期が続くあいだはほかのプラットフォームに広告費を投じがちになる。Google[の検索広告]に移すこともあれば、TikTokに移すこともある。アカウント単位で判断する。

――選挙が近づくにつれてプラットフォーム上の広告環境の政治色は一段と濃くなるが、クライアントのためにほかに講じている対策はあるか?

クライアントにはメディアバイイングの微調整を助言している。投票日に近づくほどパフォーマンスは低下すると考えられる。これに備えるため、媒体費を微妙に調整する必要がある。基本的には、10月末から11月初めにかけて[広告費を]ややセーブし、11月中にもとの規模に戻す。まとめると、10月の最終週、11月の第1週、そして選挙後の最初の数日間に広告費の調整を行う計画だ。

――それは選挙の年の「通常運転」のように聞こえる。ことし特有の傾向はあるか?

ことしはブラックフライデーが11月29日、サイバーマンデーが12月2日と、例年よりもかなり遅い。昨年はブラックフライデーとサイバーマンデーに備えてかなり早い時期から広告費を増額したが、ことしはこの変更を少し違ったやり方で実行できる。これが例年とは大きく異なる点だ。この観点からすれば、ずいぶんと奇妙なホリデーシーズンと言える。しかも、ことしのハヌカ(ユダヤ教の行事)はクリスマスの後に来る。おかげで広告の買いつけパターンも少し変わった。クライアントへのアドバイスとしては、基本的に、広告費の増額を11月に入ってすぐではなく、選挙後に開始するほうがよいということだ。そうすれば多少なりとも余裕ができる。例年との違いと言えば、そんなところだ。[原文:Confessions of a performance marketing ad buyer on ‘uptick’ in platforms’ ad rejections amid election advertising]Kristina Monllos(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)