“黒子役”の1G2AにSofascoreも異例の「10点」満点評価…「大人になった」と認める久保建英が”鬼門”で示した唯一無二の価値
[9.5 W杯最終予選 日本 7-0 中国 埼玉]
予告どおりの“黒子役”をこなしつつ、結果としても1ゴール2アシスト。鬼門とされた北中米W杯アジア最終予選の初陣で日本代表MF久保建英(ソシエダ)が圧巻のパフォーマンスを見せた。フォア・ザ・チームと個人の結果の両立はデータにも表れ、豊富なスタッツをもとに選手採点を行う大手サイト『Sofascore』からは10点満点のパーフェクト評価がつけられた。
久保は中国戦を翌日に控えた4日の練習後、報道陣からMF三笘薫(ブライトン)とMF伊東純也(スタッド・ランス)との4-2-3-1での共存について問われ、「名前だけ並べたらロマンはあるかもしれないけど、それ相応のリスクはあるわけで……」と“らしい表現”で前置きしつつ、次のように答えていた。
「そういった機会があれば僕だけでなく三笘選手も伊東選手も個で突破できる2人なので、僕が中央にいる場合は使い分けを大事にしていきたいなと思うし、変に我を出す必要はないかなと。(自分は)黒子の役割でも、十分に彼らの個が活きる相手だと思います」
自ら名乗り出た“黒子”という役割。結果的に中国戦では質問の仮定と異なる3-4-2-1のシステムが採用され、伊東に代わる右ウイングバックとしてMF堂安律(フライブルク)が起用されたため、期待された2列目トリオ初共演は実現しなかったものの、久保が語っていたような役割は実際の試合に表れていた。
久保はこの日、3-4-2-1の右シャドーで先発したが、攻撃の組み立てでは右サイドに大きく開いてゴールから離れ、ウイングバックの堂安をよりゴールに近い位置でプレーさせる意図が目立った。前半11分、先制アシストの左CK獲得につながった堂安へのクロスが象徴的なシーンだ。
チーム全体の攻撃は三笘の左サイドが中心で、中盤の布陣もややアシンメトリーな形に。だからこそ、久保が意識していたのは堂安と味方とをつなぐ距離感だったという。
「前半最初の20分くらいはちょっとボランチ2人が左に流れがちだったので、こっちに来た時に堂安選手を一人にしないというのを意識していました。逆にボールを持った時はこっちが厳しかったら、三笘選手がいたので簡単にあっち側に戻していいかなと」
バランスを模索する過程には「一回意識しすぎてパスカットされたし、いろいろ今日は考えることがあって頭がちょっと疲れました」と苦笑いも浮かべたが、その苦労はプレー内容の向上に十分に役立っていた。
続いて前半45+2分に決まった三笘の追加点も、久保が狙いとしていた形から生まれたものだった。久保は右サイドの大外の深い位置を取り、相手のマーカー2人を引き寄せると、戻したパスから堂安がクロスボールを配球。そのイメージは所属先のソシエダでの左利きMFブライス・メンデスとの関係性だったという。
「僕が無理に突破するよりフリーの選手にチョンってつけて。あれは特にソシエダでブライス・メンデス選手とよくやっているのと全く同じ。本当に彼みたいなボールを堂安選手が蹴ったので入ったなと思いました。ああいうのは僕の特長の一つで、相手を引きつける力があるので、あまり寄りすぎずにああいうところで待ってくれるとフリーで受けられるチャンスがあるよというのはみんなも分かってくれたかなと思います」
さらに後半は別の形で“黒子”を担った。堂安から伊東、MF遠藤航(リバプール)からMF田中碧(リーズ)と周囲で選手交代が続いて顔ぶれが変わった中、前半から感じていた課題の修正も同時に行っていたという。
「前半は個人的に際どいパスコースを探してちょっと持ちすぎな部分があるかなという感覚があった。なので例えば伊東選手が出てからは簡単にはたこうという意識とか、パスの強度をもう少し上げようとか、それも田中(碧)選手だったら止めてくれるなとか。人を見ながらもちろん人によって判断を変えるけど、パススピードとかも変えてあまり持ちすぎないようにと考えていました」
その際には中央にも顔を出すポジションの変化も見られたが、そうして周りを輝かせるのが、久保の考える“黒子”の仕事だ。試合前日にはゴールへの意欲について「ないって言ったら嘘になるけど、あまり俺が俺がって感じでもないですね」と達観した様子で答え、新たなプレースタイルに注目が集まっていたが、周囲を支える仕事にも大きなやりがいを見出しているようだ。
その境地に至った要因はラ・リーガで積み重ねた実績であり、その実績に支えられた自らの能力への確固たる自信だろう。この日の試合後の久保の言葉を借りれば、“大人の余裕”と言えるかもしれない。
「大人になったのが一つと、いまは余裕があるので。“僕が僕が”が全てじゃないし、あくまでもチームスポーツなので。僕が一番いろんな選手の良さを出そうというのを今回は意識していました」
「内心は全然“俺が俺が”ですけど、“俺が俺が”が正解じゃない時もある。チームが勝つために何が最適解か。僕が考えたことが最適解じゃないことももちろんあるけど、できるだけ僕が最適解だと思うプレーをいつもするようにはしています」
そうした振る舞いを徹底した結果、この日は“黒子”としてのインパクトだけでなく、1ゴール2アシストという結果も残した。第2次森保ジャパン発足後のアシスト数は単独最多の10。ゴールとアシスト数を合算するスコアポイント「14」もMF伊東純也に並ぶ数字で、”黒子”としての貢献度も踏まえれば唯一無二のパフォーマンスを続けていると言える。
「それで結果につながれば一番ベストですし、たとえば伊東選手だったらシンプルにはたくけど、堂安選手だったらコンビネーションとか、そういうふうに彼らの良さを出すことで、逆に彼らが僕にもたらしてくれることがある。アシストだったり、得点だったりというところでボールが返ってくるし、信頼も得ていけると思う。彼らの良さを出すことで僕のゴール数、アシスト数といった結果にもつながってくるのかなと思います」
この日のゴールも、直前にアシストした伊東からのパスを受けた形。「伊東選手も『打とうと思ったけどタケだから』って言ってくれた。そこは嬉しかったですね」。そうした周囲との良好な関係性は、“ポジション争い”という宿命への受け止め方にも好影響をもたらしている。
「みんなライバルだとは思っているけど、ライバルが活躍してくれないとこっちも困りますし、みんなの活躍が素直に嬉しいですね。拓実くんがゴールを決めた時は『うわー、俺もああいうのやりたいなー』って思ったりしますけど、なんていうんでしょうね。それが日本代表の強化にも一番つながるので」(久保)
そこに「あとはチームが苦しい時に、自分がチームを救いたいなと思いは常に持ってやっています」と付け加えることも忘れなかったが、自身の立場という点では充実したメンタリティーで日々を過ごすことができているようだ。
「みんなギラギラしているので、そのギラギラをうまくまとめるじゃないけど、みんなのギラギラがいい方向に行くようにと。僕もめちゃくちゃギラギラしていますけど、僕も含めてこれから伸びしろがある選手だらけなので、一緒にやっているのが楽しいというのもあります」。久保にとっては2度目のW杯最終予選。厳しいアウェーゲームや2強相手の対戦など本番はここからだが、理想的なスタートを切ったのは間違いない。
(取材・文 竹内達也)
予告どおりの“黒子役”をこなしつつ、結果としても1ゴール2アシスト。鬼門とされた北中米W杯アジア最終予選の初陣で日本代表MF久保建英(ソシエダ)が圧巻のパフォーマンスを見せた。フォア・ザ・チームと個人の結果の両立はデータにも表れ、豊富なスタッツをもとに選手採点を行う大手サイト『Sofascore』からは10点満点のパーフェクト評価がつけられた。
「そういった機会があれば僕だけでなく三笘選手も伊東選手も個で突破できる2人なので、僕が中央にいる場合は使い分けを大事にしていきたいなと思うし、変に我を出す必要はないかなと。(自分は)黒子の役割でも、十分に彼らの個が活きる相手だと思います」
自ら名乗り出た“黒子”という役割。結果的に中国戦では質問の仮定と異なる3-4-2-1のシステムが採用され、伊東に代わる右ウイングバックとしてMF堂安律(フライブルク)が起用されたため、期待された2列目トリオ初共演は実現しなかったものの、久保が語っていたような役割は実際の試合に表れていた。
久保はこの日、3-4-2-1の右シャドーで先発したが、攻撃の組み立てでは右サイドに大きく開いてゴールから離れ、ウイングバックの堂安をよりゴールに近い位置でプレーさせる意図が目立った。前半11分、先制アシストの左CK獲得につながった堂安へのクロスが象徴的なシーンだ。
チーム全体の攻撃は三笘の左サイドが中心で、中盤の布陣もややアシンメトリーな形に。だからこそ、久保が意識していたのは堂安と味方とをつなぐ距離感だったという。
「前半最初の20分くらいはちょっとボランチ2人が左に流れがちだったので、こっちに来た時に堂安選手を一人にしないというのを意識していました。逆にボールを持った時はこっちが厳しかったら、三笘選手がいたので簡単にあっち側に戻していいかなと」
バランスを模索する過程には「一回意識しすぎてパスカットされたし、いろいろ今日は考えることがあって頭がちょっと疲れました」と苦笑いも浮かべたが、その苦労はプレー内容の向上に十分に役立っていた。
続いて前半45+2分に決まった三笘の追加点も、久保が狙いとしていた形から生まれたものだった。久保は右サイドの大外の深い位置を取り、相手のマーカー2人を引き寄せると、戻したパスから堂安がクロスボールを配球。そのイメージは所属先のソシエダでの左利きMFブライス・メンデスとの関係性だったという。
「僕が無理に突破するよりフリーの選手にチョンってつけて。あれは特にソシエダでブライス・メンデス選手とよくやっているのと全く同じ。本当に彼みたいなボールを堂安選手が蹴ったので入ったなと思いました。ああいうのは僕の特長の一つで、相手を引きつける力があるので、あまり寄りすぎずにああいうところで待ってくれるとフリーで受けられるチャンスがあるよというのはみんなも分かってくれたかなと思います」
さらに後半は別の形で“黒子”を担った。堂安から伊東、MF遠藤航(リバプール)からMF田中碧(リーズ)と周囲で選手交代が続いて顔ぶれが変わった中、前半から感じていた課題の修正も同時に行っていたという。
「前半は個人的に際どいパスコースを探してちょっと持ちすぎな部分があるかなという感覚があった。なので例えば伊東選手が出てからは簡単にはたこうという意識とか、パスの強度をもう少し上げようとか、それも田中(碧)選手だったら止めてくれるなとか。人を見ながらもちろん人によって判断を変えるけど、パススピードとかも変えてあまり持ちすぎないようにと考えていました」
その際には中央にも顔を出すポジションの変化も見られたが、そうして周りを輝かせるのが、久保の考える“黒子”の仕事だ。試合前日にはゴールへの意欲について「ないって言ったら嘘になるけど、あまり俺が俺がって感じでもないですね」と達観した様子で答え、新たなプレースタイルに注目が集まっていたが、周囲を支える仕事にも大きなやりがいを見出しているようだ。
その境地に至った要因はラ・リーガで積み重ねた実績であり、その実績に支えられた自らの能力への確固たる自信だろう。この日の試合後の久保の言葉を借りれば、“大人の余裕”と言えるかもしれない。
「大人になったのが一つと、いまは余裕があるので。“僕が僕が”が全てじゃないし、あくまでもチームスポーツなので。僕が一番いろんな選手の良さを出そうというのを今回は意識していました」
「内心は全然“俺が俺が”ですけど、“俺が俺が”が正解じゃない時もある。チームが勝つために何が最適解か。僕が考えたことが最適解じゃないことももちろんあるけど、できるだけ僕が最適解だと思うプレーをいつもするようにはしています」
そうした振る舞いを徹底した結果、この日は“黒子”としてのインパクトだけでなく、1ゴール2アシストという結果も残した。第2次森保ジャパン発足後のアシスト数は単独最多の10。ゴールとアシスト数を合算するスコアポイント「14」もMF伊東純也に並ぶ数字で、”黒子”としての貢献度も踏まえれば唯一無二のパフォーマンスを続けていると言える。
「それで結果につながれば一番ベストですし、たとえば伊東選手だったらシンプルにはたくけど、堂安選手だったらコンビネーションとか、そういうふうに彼らの良さを出すことで、逆に彼らが僕にもたらしてくれることがある。アシストだったり、得点だったりというところでボールが返ってくるし、信頼も得ていけると思う。彼らの良さを出すことで僕のゴール数、アシスト数といった結果にもつながってくるのかなと思います」
この日のゴールも、直前にアシストした伊東からのパスを受けた形。「伊東選手も『打とうと思ったけどタケだから』って言ってくれた。そこは嬉しかったですね」。そうした周囲との良好な関係性は、“ポジション争い”という宿命への受け止め方にも好影響をもたらしている。
「みんなライバルだとは思っているけど、ライバルが活躍してくれないとこっちも困りますし、みんなの活躍が素直に嬉しいですね。拓実くんがゴールを決めた時は『うわー、俺もああいうのやりたいなー』って思ったりしますけど、なんていうんでしょうね。それが日本代表の強化にも一番つながるので」(久保)
そこに「あとはチームが苦しい時に、自分がチームを救いたいなと思いは常に持ってやっています」と付け加えることも忘れなかったが、自身の立場という点では充実したメンタリティーで日々を過ごすことができているようだ。
「みんなギラギラしているので、そのギラギラをうまくまとめるじゃないけど、みんなのギラギラがいい方向に行くようにと。僕もめちゃくちゃギラギラしていますけど、僕も含めてこれから伸びしろがある選手だらけなので、一緒にやっているのが楽しいというのもあります」。久保にとっては2度目のW杯最終予選。厳しいアウェーゲームや2強相手の対戦など本番はここからだが、理想的なスタートを切ったのは間違いない。
(取材・文 竹内達也)