関連画像

写真拡大

就活で他人が体験したエピソードを自分が体験したかのように話して内定をもらったが、バレたら経歴詐称になるのでしょうか──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

相談者は、就職活動中の大学生ですが、1つも内定が取れずに焦っていたようです。そこで、大学の先輩に相談したところ、学生時代に力をいれたこと(通称「ガクチカ」)のアピールが弱いという事に気づきました。

何をアピールすべきか悩んでいると、先輩から「俺のエピソードを話してみたら?」と言われたので、良くない事だと思いつつも、先輩が体験したエピソードをそのまま面接で話したところ、内定を取ることができたそうです。

入社後に「ガクチカ」の内容が虚偽だったことが発覚した場合、何らかの処分の対象、最悪クビになってしまうおそれはあるのでしょうか。山本幸司弁護士に聞きました。

●懲戒処分の対象となるのは「重要な経歴の詐称」

──「学生時代に力を入れたこと」(ガクチカ)の虚偽申告は、経歴詐称として懲戒処分の対象になるのでしょうか。

一般に、履歴書や採用面接の際に、虚偽の学歴、職歴等を申告することを「経歴詐称」といいます。

職務遂行能力と合理的に関連する事項については、労働者は、会社の求めに応じて真実を告知する義務を負うと考えられていますが、経歴詐称はこの義務に違反するものです。

就業規則を作成している企業の多くは、就業規則で経歴詐称を懲戒事由と定めており、懲戒解雇等の懲戒処分の対象としています。

そして、判例は、経歴は企業秩序の維持にかかわる重要な事項であるとして、その詐称は懲戒事由となり得ると判断しています。

──経歴詐称は一律で懲戒事由になりますか。

経歴の中には、詐称されていたとしても業務上支障がないものもあります。

そのため、懲戒処分の対象となる経歴詐称は、会社が労働者の能力や人物評価をすることを妨げ、会社と労働者の信頼関係を損なうような「重要な経歴の詐称」に限られます。

──今回のケースはどうでしょうか。

面接の場で先輩が体験したエピソードを自分のエピソードとして話したということですので、通常は経歴詐称に当たるでしょう。

これが懲戒処分の対象となる「重要な経歴の詐称」に当たるかどうかは、詐称されたエピソードが会社の事業にとってどの程度重要なものか、どういった内容のエピソードを詐称したか、詐称により企業秩序へどの程度危険が生じたか等の個別の事情を踏まえ、総合的に判断することになります。

会社と労働者の信頼関係が失われるほど重大な経歴詐称であれば、懲戒解雇にもなり得ます。

なお、会社の対応としては、懲戒解雇にすると後に労働者からその無効を求めて訴訟提起されるリスクを伴うことから、あえて普通解雇にしたり、労働者に辞職を促す退職勧奨をすることもあります。

●虚偽申告のアドバイスで「賠償責任を負う」可能性も

──ガクチカの虚偽申告をアドバイスした人間が何らかの法的責任を負うことはありますか。

悪質な経歴詐称により会社に損害が生じた場合、労働者は損害賠償責任を負うことがあります。

裁判例では、労働者が詐称した経歴をもとに賃上げを求め、賃金が増額となった事案で、労働者の言動は詐欺の不法行為に当たるとして、賃金の増額分の賠償を命じたものがあります(東京地裁平成27年6月2日判決)。

さらに、経歴詐称をアドバイスした人についても、労働者をそそのかした結果、労働者が面接で経歴を詐称し、会社に損害を与えたということであれば、労働者と共同で不法行為をしたとして、損害賠償責任を負う可能性があります。

【取材協力弁護士】
山本 幸司(やまもと・こうじ)弁護士
広島弁護士会所属。企業法務(上場企業、医療機関など)、相続、不動産、労働、離婚問題、刑事事件などの分野で経験を積み、広島市で独立開業。税理士と共同して、法務・税務の両面からトータルサポート。
事務所名:山本総合法律事務所
事務所URL:http://www.law-yamamoto.jp