京都国際高校の甲子園での優勝に韓国でも多くの喜びの声が(写真:東京スポーツ/アフロ)

韓国系の京都国際高校が夏の甲子園初優勝を果たしたニュースは韓国でも速報で報じられ、歓喜と興奮に包まれた。

初戦勝ち抜き後からじわじわと盛り上がり、決勝進出を決めた日にはなんと尹錫悦大統領も自身のフェイスブックにこう書いた。

「ユニフォームがすり切れるほどあらゆる力を振り絞り、プレーした選手皆さんの闘志と情熱に大きな拍手を送ります。(中略)159名にすぎない韓国系の京都国際高校が決勝戦に進出したことは実にすばらしいことです。とても誇らしく思います。精一杯、応援します」。そして、1983年に、一橋大学に客員教授として在籍していた父親が日本にいた際に見た夏の甲子園の熱気の記憶も添えていた。

「日本の包容力も感じた」

駐日韓国大使や駐大阪総領事なども応援のために甲子園入りし、応援席へ。日本で勤務経験のある知人の60代の男性会社員は、「韓国系の学校があの甲子園で決勝に進出するなんてただただ感慨深い。選手のほとんどは日本人だといいますが、彼らが野球のためとはいえ京都国際高校を選び、校歌もそのままハングルで斉唱してくれたことに、なんて言ったらいいのでしょうか、感動しかないでしょう。たとえ決勝で負けても選手たちの健闘をめいっぱい称えたいです」と語っていた。

優勝が決まると、「わたしたち韓国人にも、在日韓国人にもさまざまな感動をくれた。ハングル校歌がそのまま流れて全国中継されたことに日本の包容力も感じました」と声を震わせていた。

尹大統領もフェイスブックにすぐに「奇跡のような快挙」と優勝メッセージを書き込んだ。

「東海の海を越えて大和の地は 偉大なわたしたちの祖先 古の夢の場……。京都国際高校の韓国語校歌が甲子園の決勝戦の球場に力いっぱい響きました。京都国際高校の甲子園優勝を心よりお祝いします。(中略)劣悪な環境で成し遂げた奇跡のような快挙は在日韓国人に誇りと勇気を与えました。野球を通して両国がさらに近しくなれたらと思います」

韓国メディアも決勝戦の展開を詳しく報じ、京都国際高の野球部創立後の初試合では「0-34」のコールド負けをしたことから今までの経緯、そして、「あの大谷選手さえ甲子園での優勝経験はありません」と話すキャスター(ケーブルテレビ「チャンネルA」)もいた。

日本人が愛する「甲子園が舞台」がミソ

翌日には、「韓日合作奇跡のドラマ」(朝鮮日報、8月24日)、「東海を越えて〜京都国際 新しい歴史を刻んだ」(中央日報、同)、「京都国際高、延長の末初優勝 甲子園に"東海の海"校歌」(ハンギョレ、同)などの見出しが躍った。

大会についても、どれほど日本人に愛されている高校野球大会か、そして、日本全国の3000近い高校がしのぎを削り、勝ち進んだわずか49校だけが甲子園のマウンドに立てるといった解説記事を別途に掲載したところもあった。

中道系紙記者の話。

「韓国人の心を動かしたのは、在日韓国人が作った韓国系の高校の野球部が日本中で愛されている甲子園という大舞台で優勝を成し遂げたこと。そして、やはり、ハングルの校歌がそのまま、甲子園で歌われて全国中継されたという点です。

日本と論争になっている『東海(日本海)』がそのまま歌われたことに胸を打たれる人が多かった。しかも、京都国際高校は全校生も160人ととても小さな学校で設備が整っているようなわけでもない、物語がある。そこに韓国人は引かれている」

韓国では8月15日の「光復節」にプロ野球チームの「斗山ベアーズ」にローテーションにより先発で出場するはずだった白川恵翔投手(徳島インディゴソックス出身)の登板が世論を鑑みて見送られたが、「とても恥ずかしい出来事だった」とする声もあがった。スポーツに「民族意識」を持ち込んだという批判だった。前出の記者は言う。

「冷静に考えれば、勝ったチームが校歌を斉唱するのは甲子園の伝統であり、それが行われたにすぎません。京都国際高校で出場した選手も日本人でしたし、白川選手の登板見送りも同じですが、韓国高校のチームが勝ったとスポーツに民族意識を前面に出すのはやめたいです。

素晴らしかったのは、京都国際高校で校歌を歌おうと主張したのが全校生徒の80%ほどを占める日本人生徒だったこと、そして、対戦した関東第一の応援団からも手拍子があったことは本当に感動しました。こんなに粋な光景があるでしょうか」

ネットにはさまざまな反応

一方でこのハングル校歌をめぐり日本のネットに嫌韓の書き込みが多数あったことも、「韓国語の校歌気分が悪い 京都国際高校優勝の陰で飛び交う嫌韓の書き込み」(中央日報、8月24日)、「校歌に東海? 韓国大会に行け 京都国際高へ向けた嫌韓世論」(ハンギョレ、同)と報じられた。

これに対して、ネットの反応もさまざま。「実に心が狭い。小さな学校が優勝したら祝ってやらないと。数十年前から歌っている校歌を歌うなということか」。「日本は自由民主主義の国ではないのか? 観たくなければテレビのチャンネルをかえればいい」という批判の声が多数あった。

しかし、「そういう奴らもいるだろう。わたしたちは違うか? そんな記事にするような大事かね」「嫌韓もあるけれど、そんな学校も抱擁する日本が韓国よりいい」という声や、「韓国で日本系国際高校が日本語の校歌を歌ったら同じような反応になる」という反応も。

「韓国系学校だから応援した。けれど、彼らがまるで在日韓国人の鬱憤を勝利で昇華したかのように話を持って行くのは違うだろう。日本現地の反応は広く見ないといけない。

もし、韓国の日本系学校で韓国人で作られた野球チームが優勝し、日本語の校歌を歌ったなら、韓国社会の一部極端な人々はどんな妄動をするか? 情熱と和合をみせてくれた京都国際高校の日本人野球少年たちに関心を!」と書いた長い書き込みもあった。

「監督、選手が日本人だ。校歌1つで反日民族主義を振りかざすな。韓日両国の未来世代がどうやって互いに理解し団結し、1つになったのか。そして、日本人が韓国系学校に入学することが潔いことと思えるように韓国の位相と魅力が高くなったのか、それが核心でしょう。それをメディアが東海に執着して日本人が書いた嫌韓の言葉じりをとらえている」という冷静なものもあった。

日本を見る姿勢が変わった背景

京都国際高校の優勝には、韓国の人が日本を見るこれまでの姿勢が変わってきていることをしみじみと感じる。その背景には、韓国がさまざまな分野で日本を超えたという自信を高めていることもあるし、胸がたぎるような試合の後にハングルの校歌を高らかに歌い上げた京都国際高校の選手たちを前に次世代の新しい姿を目の当たりにしたこともあると思う。

知り合いの現在高校2年生の娘さんは日本のアニメやカルチャーが好きで、日本の大学へ進学することを決めているが、今回の京都国際高校で韓国が見せた反応について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「韓国系の高校に日本人生徒が入学するのも、K-POPが好きだったりと知って、私と同じだなあと思いました。ハングルの校歌が日本の甲子園でそのまま歌われたのも驚いたし、日本に留学しても韓国人の私のことをどう思うだろうっていう不安みたいなものもあったんですけど、心配いらないなあと安心しました」

(菅野 朋子 : ノンフィクションライター)