多くの夜行バスを運行するウィラーのなかでも、“スタンダード”と呼べる4列シートで最新の「プライム」に乗ってみました。座席ごとのプライベート感を重視しただけでなく、限界まで居住性が追及されていました。

プライベート感をウリにした「プライム」

 日本全国で高速バスを運行するウィラー・エクスプレスは、これまでも斬新な座席を投入してきました。すでに運行終了となっていますが、ブースごとに個室化された「コクーン」に乗車した際には、心底驚いたものです。そのウィラーのなかでいま、最新のスタンダードなシートが、4列の「プライム」です。


ウィラーの「プライム」搭載車。座席は2+2列の4列シートだ(2024年8月、安藤昌季撮影)。

 大型バスは車幅が2.5mで、鉄道車両より30〜40cm狭いです。そこに通路を隔てて2人掛け座席が並ぶ4列シートは、夜行バスのような長距離の乗車では窮屈に感じることは否めません。筆者がかつて4列夜行バスに乗った時は、隣席の乗客が女性であり仕切りもなかったので、絶対に触れまいと限界まで身体を通路側に寄せて過ごしたため、一睡もできませんでした。

 これに対し、「WILLER史上最強の4列シート」とうたう「プライム」では、どのような居住性が実現しているのでしょうか。

「プライム」は東京を起点とするなら、大阪・京都・神戸・滋賀・和歌山・愛知・三重・静岡・宮城・福島・新潟など、多くの路線が設定されています。大阪・京都・神戸からは広島行きが設定されています。今回は名古屋駅と東京を結ぶ「WT456便」に乗車しました。

 名古屋駅の集合場所は駅前広場の路上であり、各方面のバスの案内板が置かれたところで徒歩待機となります。出発直前に乗降場への移動指示があり、500mほど移動しました。やってきたバスの外観はいたって普通。ロゴなど目立つものはありません。

 車内に入ると、インパクトのある座席が出迎えました。各座席に、上から顔を覆うように下ろすことができる「カノピー(幌)」が設置されているのです。さらに、座席間には大型の仕切りがあり、座ると隣席はほぼ見えません。

通路側の方が快適?

「プライム」は、ウィラーが以前から運行してきた同様のシートをもつ「リラックス」をリニューアルしたものです。2023年に、カノピーの大型化など、より“プライベート感”を重視した設備に生まれ変わりました。

 さらに、座席間の仕切りの上部は可動式です。隣席の人が知り合いなら下げて、知り合いではないなら上げるといった選択ができます。

 座席間隔は91cmで、平均的なJR在来線特急よりやや狭い程度。リクライニング角度は130度とのことで、一般的な昼行用4列バスより傾きます。ブランケットも付属しています。座席幅は44cmで、東海道新幹線普通車の2人掛け席と同じです。

 一般的なバスの4列シートは座席幅42cmですから、限界まで広く取られているのですが、そのぶん通路幅は狭く、すれ違いは不可能。体格がよい人だと、引っかかるかもしれません(筆者は173cm、76kgの男性)。


「プライム」の座席幅は44cm(2024年7月、安藤昌季撮影)。

 多くの乗りものでは、窓側の座席は通路側の座席より人気がありますが、「プライム」は明確に通路側の方が快適に感じます。窓側に座って、通路側の人がリクライニングやレッグレストを展開すると、出入りが大変ということもありますが、通路側には肘掛けがあり、それを含めると約50cmの幅があるからです。

 小柄な女性であれば、窓側でも快適だと思いますが、平均的な体格の男性であれば、通路側の座席をオススメします。

スマホいじり放題じゃん!

 この「プライム」で最大の特徴は、なんといってもカノピーでしょう。頭をほぼ完全に覆うほど大型化され、降ろせば他人はおろか、足元くらいしか見えません。

 さらに、カノピー内にはスマートフォン用のホルダーがあり、挟みこむことで固定できます。暗いなかの操作は少しわかりにくいですが、固定すれば手を使わずに動画を見られるなど、便利な器具です。コンセントは窓側が壁面に、通路側が肘掛けにあります。

 座席は、身体の形状がよく考えられていて、横幅が狭いこと以外に不満はありません。枕が上下させられるのもよいと思います。ウィラーの担当者によると「人間の身体の硬さを考慮して、背もたれ、座面、腰部で硬さを変えている」のだそうです。


頭をほぼ完全に覆う「カノピー」(安藤昌季撮影)。

 鉄道座席の設計について記された『旅客車工学概論』には、最適な座席の硬さを決めるために、体圧を測定したうえで「ある程度固めの方が、疲労が少ない」という記述がありましたが、「座席の位置ごとに最適な硬さにしている」というのは、鉄道でもあまり見られないもので、さすが限られたスペースで快適性を追及する夜行バスの座席だと感心しました。レッグレストも体圧が分散する設計で、一部の新幹線グリーン車を上回ると感じます。

 ちなみにウィラー・エクスプレスのバスの多くにはトイレがないのですが、これは「車内で人が歩き回ると、静粛性が損なわれる」ことなどを考慮したのだそう。緊急時には「スマートフォンからQRコードでトイレ休憩を申請して、バスを停車させるサービスがあるので、活用して頂きたい」とのことでした。

カノピー閉めると寝られる? そのもっともな理由

 さて「WT456便」は22時30分、20人ほどの乗客を乗せて出発しました。乗り心地はよく、カノピーも完全に閉めると密閉感はありますが、走行音減少に役立つと感じました。夜間は減光しますが、カノピーを閉めていれば出発直後から寝られます。

 座席背面には、小物を掛けられるフックや網ポケットも備わります。ただ、入るのは小さなものだけで、リュックなどを置くスペースはありません。荷物はトランクに預けるのが前提と感じます。

 総じて、一般的な4列シートに感じる不満は解消されており、翌朝まで快適に過ごせました。


WT456便は22時30分、大手町へ向けて出発(安藤昌季撮影)。

 翌朝5時30分着の池袋駅西口で5人、5時59分着のバスタ新宿で12人ほどが下車し、ほぼ貸し切り状態に。6時30分に大手町(グランキューブ)に到着しました。東京メトロ大手町駅の出口には近いですが、JR東京駅には徒歩10分程度かかる場所なので、乗り換えを考える人は20分程度の余裕を持たせたほうがよいと感じました。

 4列シートながら完成度の高い「プライム」。東京〜名古屋間なら最安3000円台の日もあり、お値段以上ですが、強いて言うなら窓側と通路側の格差は改善した方がよいと感じました。通路側座席には肘掛けがあり、腕を通路方向に逃がせることを考えると、窓側の座席幅は通路側よりやや広くした方がより快適なのではないかと思う次第です。