「もうもうの湯気は目のご馳走」絶好調・丸亀製麺が客にUSJ人気アトラクション級の感動を提供する粋な小道具
丸亀製麺の勢いが止まらない。
2023年度決算では、営業利益が前期比57.9%増の183億5100万円で過去最高益を記録。2024年1月には人件費や原材料費の高騰によって一部商品の値上げを実施したが、客足が途絶えることはなく、多くの顧客が詰めかけている。
丸亀製麺(以下、丸亀)の強みはやはりメニューの人気度の高さにある。「粉から打ち立て」がスローガンのうどんはもちろん、うどん粉を使ったドーナツの「うどーなつ」、うどんを弁当にするという意表を突く発想が話題になった「うどん弁当」や「丸亀シェイクうどん」など、多くの話題商品を送り出してきた。
こうした商品のラインナップが丸亀の人気を盤石なものにしているが、あまり指摘されていない好調の背景もある。それは、「店舗空間」の妙である。その作りは、まるで「テーマパーク」を彷彿とさせるものなのだ。
■丸亀製麺の列は、アトラクションに並ぶ列なのだ
実際に丸亀の店舗を見てみよう。
まず、店頭で目につくのは、無造作に積まれた小麦粉の袋。店舗の中には、この小麦粉の袋に「国産小麦100%使用」と書いてあるところもあり、今からこの小麦でできたうどんを食べるのだ、と強く意識される。
中に入ると、お盆を取り、列に並ぶことになる。列は一列で、うどんを注文し、天ぷらなどを取り、最後に会計をする。これは、讃岐うどんの店舗でよく見られるセルフ方式が踏襲されている。丸亀を運営するトリドールホールディングスのオーナー・粟田貴也氏の父親は香川県出身で、このセルフ方式が採用されたという。
列に並んでいるときに客は、厨房内に置かれた製麺機が麺を切っている様子や、実際に職人がうどんを釜で茹で湯気が出ている様子を至近距離で見ることになる。それによって、ただでさえ腹ペコの客のうどんへの渇望感は急速に高まっていく。
マーケティング会社ZOROYA.LLCは、こうした店舗の構造を「テーマパーク的な構造」だとしている。テーマパークではアトラクションに乗るまでの列で、それに関係する音楽が流れていたり、関係する置き物があったりする。そうすることによって、アトラクションへの期待感を高めているのだ。丸亀の「うどん」はもはやアトラクションと同義であり、置かれた小麦粉の袋を見ただけで客の鼓動は速まる。
■「うどん体験」を最大化させるテクニック
うどんチェーンの同業他社に、はなまるうどんもある。ここもセルフ方式であり、似た作りである。しかし丸亀のほうがより「うどん屋という体験」を純粋に、快適に体験させている。
例えば、メニュー表の工夫だ。丸亀は2020年に「CX推進部」という部署を設置した。CXとは「カスタマー・エクスピリエンス」、つまり「顧客体験」のことで、顧客の体験価値を最大限に高めるための戦略を立てる部署だ。
同部調査によれば、セルフ方式の列によって、後ろの人から急かされているように感じる、といった声もあるという。その解決策として、列を無くすのではなく、店の入り口にもメニュー表を置き、注文内容を決めてから列に並んでもらうようにしたという。よりスムーズなローテーションになり、客間のストレスは軽減される。客同士も和やかな関係になる。
■「手打ちうどんを食べる」というストーリーを徹底的に体感させる
さらに興味深いのは、丸亀の店舗は、一つのショーのようになっていることだ。
ZOROYA.LLCも指摘しているが、丸亀では入り口と出口が別になっている店舗が多い。これには、客の動線をわかりやすくすることによって店舗側のオペレーションを効率よくする狙いがあるだろう。
加えて、動線を一方通行にすることによって、客はまるで一つの演劇(ショー)を見るような気分で店舗空間を体感することになる。うどんが茹でられ、器に載せられ、目の前に供され、食べる。このストーリーこそがご馳走となるのだ。もし、出入り口が一緒でもたつくようなことがあれば、その感動も薄まってしまう。その演出を最大化するために、こうした動線が取られているのだ。ちなみに、ディズニーランドでも同じで、その入口と出口は別々になっている。
■丸亀製麺のテーマパーク化の影に、森岡毅あり
丸亀=テーマパークというイメージは偶然の産物ではない。しっかり計算されたものだ。というのも、店舗設計に大きな影響を与えているのが、かつてジリ貧だったUSJ(ユニバーサルスタジオジャパン)を再生復活させた日本を代表するマーケター森岡毅の存在だ。
丸亀は2018年頃、業績が悪化。テコ入れのため、招聘されたのが森岡だった。その構想のもと「丸亀製麺らしさ」を全面に押し出した店舗空間やサービスの改善を行ってきた。
その中で、「出来立ての『生』のおいしさにこだわる」ことを意識した店舗空間の再設計が行われてきたのだ。だからこそ前述したように店内に小麦粉の袋を意図的に置き、うどんを茹でる過程をしっかり見えるようにした。
ちなみに森岡は現在、沖縄北部に誕生予定の「ジャングリア」や、東京お台場に誕生した「イマーシヴフォート東京」を手がけている。丸亀のプロジェクトはこうしたテーマパークに負けるとも劣らないワザが投入されているのだ。
■「体験を最大化」するものとしてのテーマパーク空間
テーマパークにせよ、商業施設にせよ森岡の空間作りで興味深いのは、常にそこでの体験価値が「最大化」することだ。
森岡は丸亀について語ったインタビューで「私にとってブランドは、『感動体験』とほぼ同義です。丸亀のこれからを考えると、『出来たての感動』を店で体験していただくことが一番です」と語っている(日経XTREND「森岡毅氏単独インタビュー 丸亀製麺・復活の秘策」 )。
強く意識しているのは、この「感動体験」。それを作り出すためにさまざまな戦略を打っている。「テーマパーク化」というとどうしても、その外観や内装だけの問題だと思ってしまうかもしれない。だが、その強みは、表面的な演出だけでなく、食体験によりゲストが内面的な満足度を最大化させることにある。
例えば、ディズニーランドには、「ゲストロジー」という、ゲスト(来場客)を満足させる独特の方法論がある。ここには、ゲストがパークを最も楽しめるようにするための方法が細かく書かれていて、ゴミ箱の位置や距離からスタッフの細かい所作まで、その徹底ぶりには驚かされるものがある。
こうした「体験の最大化」こそディズニーを人気たらしめる最大要因でもあり、森岡も独自のノウハウで「食堂」である丸亀に感動体験を取り入れているに違いない。
たかがうどん、されどうどん。勝ち組うどんもあれば、負け組うどんもある。
丸亀が客から熱い支持を得られ続けているのは、料金の中に、美味しさだけでなく、テーマパーク的な感動を無意識に体験できることも含まれているからなのかもしれない。
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谷頭 和希(たにがしら・かずき)
ライター
1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、早稲田大学教育学術院国語教育専攻に在籍。デイリーポータルZ、オモコロ、サンポーなどのウェブメディアにチェーンストア、テーマパーク、都市についての原稿を執筆。批評観光誌『LOCUST』編集部所属。2017年から2018年に「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。
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(ライター 谷頭 和希)