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一般社団法人フィリピン・アセットコンサルティングのエグゼクティブディレクターの家村均氏が、フィリピンの現況を解説するフィリピンレポート。今週は三菱UFJフィナンシャル・グループがフィリピンの決済最大手に出資したことで注目される、フィリピンのフィンテックの動向についてみていきます。

MUFGが出資を決めた「Mynt」…IPOよりも優先すること

フィリピンのトップモバイルウォレットであるGCashを運営する「Globe Fintech Innovations Inc.(Mynt)」は、貸付事業の強化に伴い、デジタルバンキングライセンスの取得を検討しています。

「三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)」が「Mynt」に投資した後、デジタルバンキングライセンスの取得が議論されていますが、現時点ではまだ確定していないとのことです。

「MUFG」は「Mynt」の8%の株式を取得し、「Ayala Corp」は13%に持ち株を増やしました。これらの取引は合計で約8億ドルに相当し、フィリピンで最大のフィンテック取引となりました。この投資により、「Mynt」の評価額は50億ドルに倍増しました。現時点では追加の資金調達は必要ないとされ、新たな投資家を積極的に探しているわけではありません。そして、株式公開(IPO)は市場の状況が整ったときに実施する可能性があるとされていますが、現在の優先事項は事業の持続的な成長であるといいます。

「Ayala」と「MUFG」は、「Mynt」のコアとなるオンライン支払い事業からの多角化を強化すると予想されています。特に「MUFG」は貸付事業に対して、低コストの資金調達での貢献が期待されています。

「Mynt」は2023年6月末までに1,550億ペソ(27億ドル)を貸し出し、これは前年比で73%の増加を示しています。また、借り手の数も71%増加し、540万人に達しました。「Mynt」の貸付事業は小口融資に焦点を当てており、銀行との競争は避けているとされます。競争相手は消費者金融です。

さらに、「Mynt」は海外展開も計画しており、海外にいるフィリピン人向けのサービスを拡充する予定です。

比・デジタルバンク…最大10行に拡大へ

フィリピン中央銀行(BSP)は、2025年1月1日からフィリピン国内で新たに4つのデジタルバンクの運営を許可することを発表しました。これにより、国内で運営されるデジタルバンクの総数は最大10行に達する可能性があります。これらの新たなライセンスは、新規申請者または既存の銀行がデジタルバンクライセンスに転換を希望する場合に与えられる予定です。

前出のGCashの親会社である「Mynt」は、最近の資金調達ラウンドを受けて貸付事業を拡大しようとしています。

BSPは2021年、国内でのデジタルバンクの数を6行に制限していました。現在運営されている6つのオンライン銀行は、「Tonik Digital Bank, Inc.」「GoTyme Bank、Maya Bank」「Overseas Filipino Bank」「UNObank」「UnionDigital Bank」です。

今回のモラトリアム解除の決定は、現在運営されているデジタルバンクの業績と、デジタルバンキングフレームワークの政策目標であるデジタル金融サービスの普及拡大と、未開拓および十分にサービスを受けていない社会セグメントへの到達を達成したことに基づくものです。一方で、デジタルバンクは大手既存プレイヤーと競争するなかで、その多くが依然として利益を上げられていたという現状があります。

レモロナ総裁は、申請者に対して、既存の市場プレイヤーが提供しているものとは異なるユニークな商品やサービスを提供することが求められていると強調しています。特に、未開拓または十分にサービスを受けていない市場セグメントにリーチできる可能性のある提案が期待されています。さらに申請者は厳格なライセンス取得プロセスを経ることになります。所有権と管理構造の透明性、株主、取締役、経営陣の構成、資本の適切性、企業ガバナンスおよびリスク管理などがチェックされます。

BSPは、成人フィリピン人の少なくとも70%を金融システムに組み入れることを目標としています。