航空自衛隊所属の「警備犬」ジェニファー号の訓練に密着!《能登半島地震で大活躍》

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足場の悪い瓦礫を潜(くぐ)り抜ける警備犬『ジェニファー号』。その姿は、目を奪われるほど軽やかだった――。

今年元日、石川県で最大震度7を観測した能登半島地震。現場には自衛隊や警備犬が派遣され、行方不明者の捜索・救助活動に当たった。静岡県航空自衛隊浜松基地に所属する『ジェニファー号』は、1月3日夕方3時50分頃、倒壊した建物が多い輪島市内(石川県)で捜索活動に出動すると、匂いをたどり始めてから数分で家屋内にいた高齢女性を発見し、救助成功へと導いた。

一緒に捜索・救助活動に当たっていた自衛隊員・清水健太3等空曹が当時の様子について振り返る。

「ジェニファー号はこの時が初出動でしたが、4〜5分で匂いを嗅(か)ぎ取ると、高齢女性のいる場所まで一目散に向かい『ワンッワンッ』と吠えて、私たちに要救助者の位置を教えてくれました。当時はライフラインが止まっていたので、現地では感染症に気を付けたり、泥水を飲まないようとくに注意していましたね」

航空自衛隊の警備犬は約150頭。日頃はどんな役割を担っているのだろうか。

「基地内の巡回警備や不審者警戒を主任務としています。さらに、人間の約1億倍ともいわれる嗅覚を活(い)かした爆発物や不審物探知などの任務も並行。近年では、能登半島地震や’21年に起きた熱海市(静岡県)の土石流災害など、大規模災害地における捜索や人命救助活動にも従事しています」(航空自衛隊浜松基地・渉外室広報担当者)

人々の安全を日々守っている警備犬の中でも、ジェニファー号はほかの犬たちとは「異なる点がある」という。

「ジェニファー号は、当時のハンドラー(ペアを組む隊員)と国際救助犬の試験に合格しており、″警備犬″であると同時に″国際救助犬″の資格も有するエリート犬でした。しかし、この資格はハンドラーが替わると無効になるため、今年4月からジェニファー号は新たなハンドラーと再取得に向けて猛特訓中なんです」(同前)

普段の訓練について、2代目となる現ハンドラーの山内勇磨3等空曹が語る。

「普段は馴致・服従・足跡追及という『基本訓練』と、人員捜索・爆発物探知・不審者制圧・警戒等の『応用訓練』をそれぞれ行っています。ジェニファー号の出勤は私たち隊員と同じ朝8時15分からで、訓練と警備・警戒任務を交互に実施。当然、犬も人間と同じように疲労が溜(た)まるので、表情を確認しながら無理をさせないよう気を付けています。嗅覚をより活かすために、風向きは常にチェックし、風下から指示を出すよう心掛けています」

この日の訓練でも、山内さんは空中にスプレーを吹いて風向きを確認。風下からジェニファー号に指示を出し、訓練用の小屋に隠れた別の隊員を発見させた。

「人間は狭い空間に閉じ込められると、独特な匂いを知らず知らずに発しています。犬はその匂いを嗅ぎ分けて捜索しているため、実際の訓練でも汗をかきやすい格好や、災害を想定した見つけづらい場所に隠れて練習をします。発見に成功したら捜索範囲を拡大したり、人を変えたりと徐々に難易度を上げていくんです」(山内さん)

「エリート犬」の新たな挑戦

ジェニファー号は、今年4歳を迎えたメスの『ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノア』犬種。2歳の時に浜松基地に配属され、約1年間の訓練を経て、3歳で前ハンドラーと国際救助犬の資格を取得した。

「ジェニファー号はとにかく遊ぶことが大好きな明るい子です。任務や訓練は、犬にとって遊びの延長なので、楽しんでもらうことが何よりも重要。命令を聞いたら褒(ほ)めておもちゃで遊び、再び訓練に励む――これを繰り返すことで、ジェニファー号の捜索意欲を維持します。ただ、この犬種は自発的に動く特性があるので、ハンドラーがしっかりリードする必要があります。楽しみを見出しながら、高いポテンシャルを引き出すのが私の役目です」(同前)

今年の4月からペアを組み始めて約4ヵ月。山内さんとジェニファー号のいまの目標は何だろうか。

「″この人についていけば大丈夫だ″と信頼してもらうこと。ジェニファー号が他の人に名前を呼ばれてもついて行かず、私の隣で私だけの指示に従う。私の隣にいるのが心地よいと感じてもらえたら嬉しいですね。もちろん、国際救助犬の資格再取得にもできるだけ早く挑戦する予定です!」

危険を顧(かえり)みず任務に励むジェニファー号は、信頼する山内さんとともに更なる高みを目指していく。

『FRIDAY』2024年8月16日号より