「大阪ならキタではなくミナミ」民泊ビジネス物件の最適立地…東京なら狙い目は大田区と23区東部の2つの区名
(前編より続く)
■特区民泊の大阪市内万博後も活況は続く
私も25年の万博には期待していて、万博特需が発生すると予想します。仮に万博特需がなかったとしても大阪の観光客は増え続けるでしょうし、あくまで万博は一つの起爆剤だと考えています。30年開業予定のIRについても同様です。大阪市がインバウンドを推進し続ける限り、その波には乗り続けたいところです。大阪の民泊市場は訪日客と物件数がシーソーのような関係で増え続けていると感じます。民泊物件が飽和してもそれは一時的な状況で、観光客の増加によって解消されると考えます。そのため、短期的に赤字に陥ったとしても、すぐに撤退の結論を出すのはもったいないです。
最近は初心者の参入に加えて、不動産投資で成功した投資家など実績と資本があるプレイヤーも民泊に興味を持ち始めています。数百万円で始められる民泊は、不動産ビジネスのなかでは小資本かつ回収までの期間が2〜3年と短いので、規模の拡大もしやすいのです。
大阪で狙い目のエリアは、圧倒的に大阪市内。八尾市や寝屋川市も特区民泊に指定されていますが、まだ民泊の波は来ていません。
なかでも狙い目なのは、大阪観光で外せない人気スポット、難波・心斎橋・道頓堀・千日前からなる繁華街「ミナミ」周辺です。なんば駅から近鉄線や御堂筋線で1駅の近鉄日本橋駅や大国町駅で物件が見つかれば家賃を抑えて安定運営が期待できます。
天王寺駅や動物園前駅も人気の民泊スポットです。「西成で民泊が成り立つのか」と感じる方もいるかもしれませんが、外国人が地図で西成を見たときに感じるのは、「中心地から近くて利便性が高そうで宿泊料がリーズナブル」といったものです。かつて暴動が起きた労働者の街だったと知ってもネガティブな感情は持たないでしょう。
ほかにはUSJ周辺のJR大阪環状線西九条駅も需要が見込めるエリアですが、ここはなかなか物件が出ないエリアです。今後人気が出ると予想するエリアとしては、海遊館のある港区のベイエリアと、万博会場やIRにアクセスしやすい大正区です。特に大正区はまだ空き家が出やすい地域なのでチャンスがありそうです。
■大阪で民泊を始めるメリット
大阪における民泊滞在の特徴として、大阪を拠点にして、京都・奈良・神戸などの各方面へ観光に行く利用客が多いという点が挙げられます。便利な大阪を関西の拠点として1週間程度のスケジュールで関西の名所を巡るスタイルは、特区民泊の要件である「2泊3日以上の滞在」とも相性が良いです。
特区民泊は365日営業できるのがメリットですが、事前に近隣住民に対して説明会を開くなど、民泊新法にはないハードルも存在します。そのため開業に必要な諸手続きは、専門の行政書士にお願いするのが基本です。費用の目安としては20万円程度なのでプロの手を借りるべきでしょう。
特区民泊である大阪市は、東京と比べて家賃も安く、民泊を始めやすい都市です。ハードルが低い半面、安易に手を出して物件は抑えたものの、自力での開業を断念した初心者の方が、私のところに相談に来るケースもあります。ハードルの低さは価格競争へ陥りやすい面もあるため、どう勝つかという視点も常に必要です。
手間ひまをかけたちょっとしたサービスや、挨拶やアメニティ、お土産など小回りが利く個人ならではのおもてなしが、大資本の宿泊施設との差別化につながります。
■狙い目は成田空港に近い23区東部の地味なエリア
民泊新法が施行される以前、東京の民泊といえば、新宿や渋谷といったビッグターミナルの徒歩圏で物件を確保して運営するのがセオリーでした。当時は池袋でさえ「客付けが弱い街」と評価されていました。そこからパンデミックを経て、現在の東京の民泊市況は様変わりしています。
従来なら「到底、利益が出ない」と見限られていた場所、たとえば葛飾区の柴又や金町でも民泊物件が続々オープンしています。スカイツリーがある墨田区、浅草を擁する台東区の民泊も言うに及ばずの活況で、総じて都内東部で民泊が盛り上がっていると感じます。こうした変化は日本を旅慣れたリピーターやSNSの口コミにより、インバウンド客の東京に対する解像度が上がり「ターミナル駅に直接出られれば小さい駅でも十分便利」と周知されたからと推測します。
ほかにも京成押上線の四ツ木駅や青砥駅といった、羽田・成田どちらにも電車一本でアクセスできる場所でも清掃の受託が増えていてニーズが高まっています。さらには江戸川区の平井で民泊を始めるオーナーや、浦安、松戸、市川などあえて県をまたぐことで、家賃や初期費用をぐっと抑えて始める人も出てきています。「浦安や松戸で民泊が成り立つのか」と懐疑的な意見もあるかもしれませんが、東京の不動産マーケットが過熱し、物件を確保するのが容易ではない現在です。比較的家賃の安い千葉県でスタートするのも、数年後には当たり前の手法になっているかもしれません。
宿泊客の物件へのニーズにも変化が生まれており、従来は2段ベッドを使ってでも収容人数を増やすオーナーもいましたが、むしろ最近はベッドの数を減らして空間にゆとりを持たせ、8〜10人を収容できる広い物件が好まれています。詰め込み型からゆったりとしたスペースのある施設へトレンドが変化しているのは、円安で旅行者の財布に余裕が生まれている影響かもしれません。
■70%の満足度でも先行して始めることが大事
特区民泊に指定されている大田区では民泊新法に比べて収益が上がりやすいので、民泊用の新築物件を建てる投資家もいます。特区民泊では運用期間中のキャッシュフローが厚いことに加えて、出口で高値売却も期待できます。現在、民泊のM&Aが活況です。大田区で月の家賃が30万円、年間の売り上げが1200万円の物件の「権利譲渡」が3000万円で売りに出ていました。あくまで売り主の希望価格にすぎませんが、仮にこの物件を自主管理すれば月の手残りが45万円くらいにはなるので、1物件で生活が成り立ちそうです。収益還元で値付けをしていると思われるので特区民泊ならではの出口といえます。
民泊というビジネスへの見方にも変化が生まれています。民泊物件の建築に対して投資用ローンを融資する金融機関が登場しています。以前であれば考えられないことですが、民泊が賃貸経営のように事業として評価され始めていると感じます。
インバウンドは国策なので、5年後に今の東京の民泊を振り返ると「あのときやっておけばよかった」となる可能性が高いです。今までは微妙だと思われていた足立区といった立地でも、「そんないいとこで民泊やってるの?」とうらやましがられる時代が来るかもしれません。市場には、「間違いない」と思える100%の物件はなかなか出てこないので、70%ほどの満足度でも果敢に仕掛けて先行することが、大切と考えます。
■地方なら365日営業可能自分の別荘にもできる
別荘地のような地方で行う民泊はインバウンドへの依存が低い点が特徴です。そのためコロナ禍でも売り上げが落ちることなく、海外旅行に行けないニーズの代替として稼働はとても好調でした。そしてコロナ後も日本人旅行客は減っていません。円安になったことで、海外旅行ではなく国内旅行を選ぶ人が増えたのが一因です。さらにプラスしてインバウンド客も別荘民泊を利用している状況で、宿泊客の外国人比率はだいたい35%程度となっています。おかげで売り上げ記録の更新が継続している状況です。
別荘民泊ではバーベキュー設備やウッドデッキ、ジップラインを設置する、あるいは周辺環境など、差別化できる要因がたくさんあるのが強みです。これが都市部でマンションの一室を借りた場合、内装以外で物件の差別化が難しくなるのです。
別荘民泊の物件探しでは、インバウンドを意識するなら富士山コンテンツが圧倒的に強いので、山梨県で物件を持つのが狙い目です。しかし、すでに河口湖周辺は過熱しているため、河口湖に近い富士吉田市より東京寄りに位置する山梨県の都留市や大月市が狙い目となります。同様にインバウンド需要の高い箱根であればその手前の小田原近辺で物件を探すとよいでしょう。単に宿泊だけして何も観光せずに帰るような人はいないので、観光客の動線を意識し、泊まってどこに観光に行くのかを想像することが必要で、民泊物件とターゲットとなる観光地との距離は車で40分以内が理想です。あるいは、自宅から車で2時間くらいの範囲の観光地で民泊を始めれば、予約が入っていないときは自分で別荘として利用できます。
■地方で民泊を始めるメリット
地方で民泊を始める場合、1000万円前後の中古の戸建て物件を購入するケースが多いですが、転貸でも可能です。家賃が安いのも地方の利点だからです。前述の都留市では3LDKの物件を家賃5万円台で借りられます。これだけ家賃が安いと2〜3組予約が入るだけでペイできるので、経営のプレッシャーも軽減されると思います。また地方には不動産の用途を制限する「用途地域」が存在しない地域も多く、簡易宿所の許可が取りやすいというメリットもあります。つまり、年間180日間という営業の制限がなくなり、いわば無条件で特区民泊に指定されているような状況なのです。
地方で民泊を始めるにあたり、駐車場は必須となります。たとえば10人が泊まれる物件には、車3台に分乗してやってくるわけですから、理想は3台、最低でも2台分の駐車スペースが必要です。とはいえ、そこは地方なので隣地が空き地のまま放置されていることも珍しくなく、土地所有者と交渉して駐車場として借りることは難しくありません。
別荘地での民泊では管理組合の存在がハードルとなるケースがありますが、最近は民泊可能とする管理組合も増えています。管理費が不足して別荘地の維持が困難という事情があり、今後も民泊解禁に踏み切る別荘地は増えると思われます。
地方には、寂れた旅館や民宿など古い業態で苦戦している観光地があります。そこにおしゃれにリノベされた別荘があれば、ネットで見つけた若者が泊まりに来る可能性も高い。地方の不動産オーナーは地元の魅力に気づいておらず、民泊をやる発想もないため、一人勝ちも可能です。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。
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伊藤 大輔 (いとう・だいすけ)
合同会社「IDEAL」代表
大阪で、民泊の物件探しから運営までワンストップの開業サポートを提供している合同会社「IDEAL」代表。民泊やシェアハウスを150室運営。airbnb公式のエアビーサポーター。
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民泊清掃R社長(みんぱくせいそうあーるしゃちょう)
民泊清掃会社マスタークリーニング代表
YouTubeチャンネル「民泊清掃R社長」では、民泊運営だけでなく民泊清掃にまつわる話題も配信している。
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羽田 徹(はだ・とおる)
別荘民泊プロデューサー、Villa Repro代表
空き家再生で地域創生をコンセプトに別荘民泊を田舎で19軒運営。airbnb公式のエアビーサポーター。
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(合同会社「IDEAL」代表 伊藤 大輔 、民泊清掃会社マスタークリーニング代表 民泊清掃R社長、別荘民泊プロデューサー、Villa Repro代表 羽田 徹 文=栗林 篤)