もはや「コカ・コーラ」は敵ではない…「シェア2位に急浮上」ドクターペッパーがアメリカで大ヒットしている理由
■1位コカ・コーラ、2位ドクターペッパー、3位ペプシ
炭酸飲料の「ドクターペッパー」が、アメリカで昨年、コカ・コーラに次ぐシェア2位の座に君臨した。今年6月の報道によると、アメリカの炭酸飲料市場で昨年、初めてペプシを僅差で抜いた。
日本でもコカ・コーラの自販機に並ぶドクターペッパーは、23種類のフレーバーを組み合わせたコーラ系のドリンクだ。シナモンやカルダモン系のさわやかさが際立つコカ・コーラに対し、チェリーやバニラを感じさせる甘くフルーティーな味わいを持つ。クセのある独特な味わいが、コアなファンを魅了してきた。発祥の地・アメリカでは、キューリグ・ドクター・ペッパー社が生産している。
成功の背景には、食事のお供ではなくスイーツと位置づけるマーケティング戦略や、ライバル陣営であるはずのザ・コカ・コーラ・カンパニーとペプシコの両方の流通網に乗せるしたたかな販売戦略など、独自の哲学が存在するようだ。
さらには、話題性も抜群だ。ドクターペッパーにピクルスを加えるなど、思い切ったアレンジがネット上で注目を集めている。
■2000年代前半から右肩上がりの成長
米CNNは今年6月、米業界誌『ビバレッジ・ダイジェスト』の市場シェアデータをもとに、ドクターペッパーが昨年ペプシを抜き、アメリカで2番目に大きなソーダブランドになったと報じた。
同データによると、コカ・コーラが19.2%の市場シェアで首位を堅持した一方、ドクターペッパーとペプシは共に8.3%のシェアとなった。小数点2位以下まで含めると、ドクターペッパーがわずかに上回った。ビバレッジ・ダイジェストのデュアン・スタンフォード編集長は、「ドクターペッパーがシェアを増やす一方、ペプシは減少しており、両者が中間で出会った」形になったとみる。
ドクターペッパーのシェアは、スプライトとともに、2000年代前半から右肩上がりとなっている。フローイング・データが掲載するビバレッジ・ダイジェストのデータによると、ペプシが10%台中盤から1桁台へと下降線を辿り、ダイエットコークが1桁台をさまようのとは対照的だ。
フォーチュン誌は、20年前にはドクターペッパーはスプライトと並んでシェア6位だったが、現在ではスプライトやダイエットコークを上回っていると指摘する。
■ペプシがシェアを落とすなか、着実に順位を詰めた
ドクターペッパーはライバル勢を相手に、着実に順位を上げてきた。
1990年代後半から昨年までの推移を見ると、コカ・コーラが常勝している。データ分析サイトのビジュアル・キャピタリストが掲載する5年ごとのデータによると、コカ・コーラのシェアは常に20%前後で推移しており、最も落ち込んだ2015年でも18.7%を確保している。
一方、目立つのはペプシの減少だ。1995年に15.0%あったシェアは、2020年までにかけてほぼ一貫して下降。2020年に8.7%、2023年には8.3%まで落ち込んだ。それでも全期間を通じて2位の座をほぼキープしたが、ダイエットコークがシェアを伸ばした2010年には、一時的に2位を明け渡すシーンもあった。
これに対し、じわりとシェアを広げているのがドクターペッパーだ。
2000年のシェアは6.3%にすぎず、上には1位のコカ・コーラ、2位のペプシ、3位のダイエットコーク、4位のスプライトが立ちはだかっていた。しかし、2005年に5.7%までシェアを落としたあとは、2010年(6.5%)、2015年(7.2%)、2020年(8.0%)と順当に拡大。2023年には8.3%にまで達した。
もっとも、伸び幅では2020年比で2.0ポイント増に留まる。だが、近年シェアを縮小するペプシやダイエットコークを尻目に、成長株のスプライトと並んで着実に人気を高めてきた。いまやドクターペッパーはペプシを抜き、アメリカで飲まれている炭酸ドリンクのおよそ12杯に1杯を占める。
■独自のフレーバーと個性が若年層に支持されている
人気は若い世代に広がる。グリニッジ・キャピタル・グループのマネージングディレクターであるアンドリュー・ディッコウは、記事に対し、「ドクターペッパーは効果的なマーケティングキャンペーンを通じて、独自のフレーバーと個性を強調しており、特に若い世代に共感を呼んでいる」との見方を示した。
USAトゥデイ紙が掲載するデータによると、2023年のアメリカの炭酸飲料ブランドの市場シェアは、1位・コカ・コーラ(19.2%)、2位・ドクターペッパーとペプシ(8.3%タイ)に続き、4位・スプライト(8.1%)、5位・ダイエットコーク(7.8%)となっている。以下、マウンテンデュー、コカ・コーラ ゼロ、ダイエットペプシ、ファンタ、カナダドライ ジンジャーエールの順だ。
ダイエット系飲料が中堅どころを占め根強い人気を誇る一方で、やはりドクターペッパーの2位入りが目を引く。
■独自の立ち位置を開拓…コカ・コーラの後を追う存在ではない
ユニークなフレーバーを誇るドクターペッパーは、もはやコカ・コーラを追う存在ではない。食事のお供ではなく、スイーツ扱いという独自の立ち位置を切り拓いた。
販売元のキューリグ・ドクター・ペッパー社でチーフマーケティングオフィサーを務めるアンドリュー・スプリンゲート氏は、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、「消費者調査によると、人々はドクターペッパーをおやつとして楽しんでいるようです」と語る。
ハンバーガーとのフードペアリングなら圧倒的にコカ・コーラだが、口寂しいおやつ時についつい手が伸びるのは、甘みたっぷりのフレーバーを楽しめるドクターペッパーというわけだ。
スプリンゲート氏はUSAトゥデイ紙の取材に対し、「(我々の)ブランドは一貫したマーケティングテーマを維持し、独自の味を強調しているのです」と述べ、コカ・コーラやペプシとは異なる路線を追求していると語った。
ライバルを意識しているのはむしろ、ザ・コカ・コーラ・カンパニーの方なのかもしれない。CNNは、コカ・コーラも「スウィーシー(甘くてスパイシー)」と呼ばれるトレンドに乗り、今年2月に「コカ・コーラ・スパイス」を発売したと紹介している。独特なフレーバーが受けているドクターペッパーの成功を意識しての一手とも言えるだろう。
■独自に風味を生み出す23種類の原材料
うまさの秘密は何か。23種類のフレーバーをミックスしたドクターペッパー風味は、チェリーやバニラをはじめとする果物やスパイスのブレンドで構成されていると言われる。
米ワシントン・ポスト紙は、ドクターペッパーのレシピとされる23種類の原料を公開している。それによると、アーモンド、アマレット、ブラックリコリス、ブラックベリー、キャラメル、キャロット、チェリーなどが含まれるという。チェリーのフレーバーは、たしかにドクターペッパーを強く想起させる。
残りの材料は、クローブ、コーラ(コーラノキの木の実)、ジンジャー、ジュニパー、レモン、糖蜜、ナツメグ、オレンジ、ペッパー、プラム、プルーン、ラズベリー、ルートビア、ラム、トマト、バニラと言われるが、正確なレシピは企業秘密だ。
トマトはたしかにフルーツに分類されることがあるが、ドクターペッパーに含まれているとすれば意外だ。レシピは、ダラスの銀行の金庫に分割して保管されているとの逸話がある。
■薬局の香りを再現した…奇妙なドリンクの誕生秘話
ドクターペッパーは1885年、テキサス州ウェーコの町で誕生した。創業者は薬剤師のチャールズ・アルダートン氏だ。彼はどういうわけか、当時働いていた薬局に充満していた薬品の香りを、ドリンクで再現したいと考えたという。これがコアなファンを持つユニークな飲料のはじまりとなった。
誕生から139年が経つ今も、その強烈な存在感は変わらない。ワシントン・ポスト紙は、「当たり障りのない商品が並ぶ(スーパーの)棚の中で、ドクターペッパーは常に奇妙な異質さをまとい、謎に包まれたブランドのように感じられる」と、そのミステリアスなオーラを強調する。
ドクターペッパーはその後、常にコカ・コーラやペプシといった大手ブランドと競い合いながらも、独自の地位を築いてきた。特に米南部の州で強い支持を受けており、1970年代には全国的なマーケティングキャンペーンを展開するなど、独自のフレーバーをアピールしている。キャンペーンは愛飲者を「ペッパー」と呼び、彼らが特別でユニークな存在であると称える内容だ。
■コカ・コーラとペプシの販路を活用する巧みな「同盟戦略」
奇妙なドリンクが全米2位の地位に君臨した勝因は何か。そこには、キューリグ・ドクター・ペッパー社の巧みな戦略が存在する。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ドクターペッパーはザ・コカ・コーラ・カンパニーおよびペプシコの双方と「同盟」関係にあると指摘する。客が訪れた飲食店がどちらのブランドを提供しているかを問わず、店内のドリンクディスペンサーに足を運べば、そこにはいつもドクターペッパーがラインナップされている。
このように、ライバル関係にある2社両方の流通網に乗せてしまう柔軟な戦略が、ブランドの認知度を高める一助となった。
さらに、現代の消費を支えるZ世代とミレニアム世代が、幅広いドリンクに興味を示していることも大きな勝因となった。キューリグ・ドクター・ペッパーのアンドリュー・スプリンゲート氏は同紙に、「ドクターペッパーは、特にZ世代の消費者の間で急速に成長しています」と述べている。
彼らは、飲み飽きた従来のコーラ・フレーバーとは異なるドリンクを求めている。ドクターペッパーのユニークな味は、そのニーズを正面から受け止める。
勢いに乗るキューリグ社は、攻めの姿勢を崩さない。近年では「クリーミー・ココナッツ」や「ストロベリー&クリーム」など、新しい実験的なフレーバーをドクターペッパーのラインナップに展開し、消費者の興味を絶えずかき立てている。
■「ダーティー・ソーダ」の流行も追い風に
こうした攻めの姿勢に、消費者側も触発されているようだ。自ら斬新なレシピを披露するケースが見られる。TikTokでは独自のアレンジを加える「ダーティー・ソーダ(非公式ソーダ)」がトレンドとなっており、ドクターペッパーはそのベースのドリンクとして活躍している。
米フード情報メディアのフード&ワインは今年5月、ピクルスを入れたアレンジを取り上げた。ドクターペッパーとピクルスという、「あなたが100%知らなかった味の組み合わせ」があると紹介、記事は、「ちょっと間違っているように聞こえるが、一口飲めば、実は天国のように感じるペアリング」であるとしている。
ピクルスとの組み合わせはすでに流行になっており、テイクアウトで注文するチャレンジも発生しているようだ。アメリカのあるTikToker女性は、ドライブスルーでピクルス入りのドクターペッパーを注文し、その様子を動画で公開している。動画によると、店員は取り立てて困惑することもなく、スムーズに注文できた様子だ。
動画は5月に投稿され、現在までに500万回以上再生される注目を集めた。女性は「注文しているのは私だけじゃないんですよ」「すごくおいしかった!」と述べている。
ほか、ドクターペッパーにホットペッパーを3つほど投入し、「ドクター・ペペロンチーニ」と称して飲むなど、ファンはオリジナルレシピの開発にいそしむ。
■「カルト的人気」の枠を大きく飛び出した
かつてドクターペッパーは、カルト的人気を博した飲料だった。クセのある味わいは、好きな人にはとことん愛される一方、コカ・コーラやペプシほど市民権を得た飲み物とは言えなかった。
しかし、Z世代やミレニアム世代はいまや、ありきたりなフレーバーに飽きている。ピクルス入りなど、これまでであれば考えられないようなドリンクを自作するほどまでに、ひとクセもふたクセもある炭酸飲料を渇望している。ドクターペッパーはこれまでの「カルト的人気」の枠を大きく飛び出し、自分らしさあふれるミックス飲料のベースとして、今後も人気は続きそうだ。
USAトゥデイ紙は、オンライン掲示板「レディット」に寄せられたファンの声を取り上げている。多くがドクターペッパーの独特な味わいを称賛しており、「ドクターペッパーは私の一番のお気に入りのソーダだ」といったコメントが見られる。王道を一歩外れたクセの強いドリンクだからこそ、このような熱狂的な支持が生まれ、それがブランドの成長を支えているのだろう。
独特な味わいと熱狂的な人気を武器に、シェアでペプシを引き離し、コカ・コーラにさらに猛追する日も近いかもしれない。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)